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221 異次元戦士ブラスター第三話『戦う覚悟』
2006.4.24(月)06:06 - じゅんぺい - 8956 hit(s)

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 大きな食堂の隅に純平がいた。いつものごとくサバイバルチョッキの下に黒いTシャツ、
そして青いジーンズで、今は愛用の帽子を脱いでズボンのベルトに付けている。
 この食堂は地下一階にあるため窓などが無く、代わりに様々な植物がアクセントとして
置かれているが、それぞれまったく違う世界を思わせる植物だ。
 ハンバーグカレー(中辛)を凄い勢いで食べている純平は周りとは違う次元にいるかの
ような雰囲気を出しているが、食堂には純平を入れても数人しかいない。
 それすらも慣れたかのように、誰も何も気にしない。と、そんな純平のテーブルを挟ん
だ向かい側に一人の青年が座った。
 「始末書は提出できた?」
 純平が気づいて顔を皿から正面に上げると、目の前に同期の異次元戦士がいた。前髪が
目を微妙に隠すほど長く、耳は純平のような人間と違って少し細長い。純平は軽く左手を
上げて挨拶をする。
 「よう、ゼロ。もちろん終わらせたよ、徹夜で」
 やけに爽やかな純平に対して、ゼロと呼ばれた青年は自分が持ってきたカツカレーにス
プーンを入れつつ、顔をしかめた。
 「きついことするね。いつもながら」
 「だって隊長が今日までに出せって言うんだぜ? しょうがないだろ」
 「始末書の内容ってなんだっけ?」
 「・・・一般人の前でコンバットスーツを着ちゃったんだよ。酔ってたとはいえ、やっ
ぱりヤバイよなあ。今度同じようなことをしたら重い処分だってさ。・・・勧められて行
ったとはいえ、もう二度と合コンなんかには行かねえ、絶対」
 溜息まじりに空の皿をスプーンでなぞる純平と、マイペースでゆっくり食べるゼロ。し
ばらく二人の間に会話はなく、食堂内の音は少なかった。
 「一時間後にブリーフィングだって」
 「ああ、聞いた」
 残らずカレーを片付けたゼロは、すでに一息ついている純平に言った。純平は思い出し
たように頷くと、腰を椅子に深く落ち着けた。白いブロックの天井を見て、少し考える。
 「・・・次元犯罪組織・・・か」
 「それもかなり大きな・・・ね」
 付け加えるゼロに純平は天井から顔を戻した。
 「そういえば、この前俺が倒したミノタウロスやスライムも組織の一部なんだってな」
 「あと商売人の司祭さんや地上げのお兄さんもね」
 再び付け加えたゼロに再び天井を仰ぐ純平。またしばらく食堂内は静かになった。何度
目かのため息をついた純平は、何かを思い出したようにゼロに向き直った。
 「なあ、何か新しい必殺技とかできるようになった?」
 ゼロは溜息をついた。毎日のように同じことを聞かれているからだ。だからこちらも毎
日答えていることを言う。
 「僕はキミとは違うタイプなんだよ。毎日のように新しい技を作ろうとも思わないし」
 そう言うと、コップの水を飲み干す。純平は笑って、
 「いやあ、結構思いつくもんだぞ。特撮番組とかアニメとか見てるともう凄いね! 頭
上に電球が浮かびまくりだっつーの!」
 両手を仰ぐようにしてはしゃぎだす純平を見て、ゼロは溜息をついた。トクサツバング
ミとやらを純平がよく見ていたのは知っていた。実際何度か見せてもらったことがあり、
結構面白かった。だがここまで純平がハマっているのにはいつも驚かされる。だがそのお
陰で他の誰にも使えない技をいくつも編み出したのだ。
 「お、そろそろ時間だ」
 純平の声でゼロは我に返り、純平と一緒に皿を持って立ち上がった。



 「新米コンビねえ」
 バイクを押しながら、純平はつぶやいた。人通りの少ないアスファルト道を進む。空が
何か無駄に晴れているような気がする。
 「おもしろいことになってきたね」
 隣でバイクを押しているゼロが笑いかける。純平は溜息をついた。
 「それにしても・・・」
 純平は押している自分のバイクを見た。今まで使っていたバイクだと不都合が起きるた
め、開発部に頼んで手を加えてもらい、普段の見た目は純平の育った世界でいう『750
ccバイク』だが、純平の意思次第で元のハイテクな姿になるにようしてもらった。「マ
ニア心をくすぐる改造だね」と開発部の若い人が喜んでやってくれた。
 ゼロの方のバイクも同様である。普段、武器を搭載されたバイクなんかに乗るわけには
いかない。ただ、見た目は純平のとは違い、550ccの中型バイクだが。
 「まさかヘルメットを忘れてくるとは・・・」
 二人がバイクを押している理由がそれだった。溜息をつきつつ押す純平とは違い、ゼロ
は陽気に笑っている。
 「面倒な法律だね、ヘルメット無しだと乗っちゃ行けないなんて♪」
 言ってはいるが、まったく面倒だという素振りを見せないゼロをジト目で見る純平。異
次元警察の養成所時代からいっしょだが、未だにゼロの性格がよく理解できないでいる。
良い奴は良い奴なんだが。
 今回は、純平の世界のとある大きなビルで、次元犯罪組織のものと思われるテロ活動が
行われるという情報が入ったため、それを阻止するのが任務である。そしてゼロは純平の
補佐ということで同行する。
 場所や日にちなどの細かいことはブリーフィングで聞いたので、あとは準備をして当日
(とはいっても翌日だが)を待つだけとなっていた。
 いつの間にか暗い雲が太陽を覆い隠している。気温が高くも低くもなく丁度良い。おか
げで汗をあまりかかずにバイクを押すことが出来る。と、ふとあることに疑問を持ったゼ
ロが純平に尋ねた。
 「今日、どこに泊まるの? アルディオスは今回使えないし」
 「そうだなあ、どうしようかなあ。まあ、おいおい考えることにしよう」
 何にも考えていなかった(というより忘れていた)純平は、とりあえず行く場所を1つ
思いついた。



 「どうも、すいません。お茶までいただいて♪」
 目つきの鋭い若い女性が持ってきたおぼんから湯のみを差し出し。それを受け取ったゼ
ロは、ゆっくりと綺麗な緑色のお茶を味わう。
 女性はおぼんを目の前のテーブルに強く置き、椅子に座った。純平は、おぼんと女性を
何度も見て、何か言おうと、オドオドと口を開く。
 「・・・あのう、颯樹さん・・・」
 「なんでアホの分まで用意しなきゃ行けないんだよ」
 逆に女性=颯樹に言われて、純平は小さくなった。まだお茶を飲んでいるゼロをよそに
颯樹はさらに怒りを放出する。
 「来るなら来るっていえよ。三年半もの間居なくなったと思ったら、最近ちょくちょく
来るしよ。しかも今日はもう一人連れてきて、一体あたしの家を何だと思ってるんだ?」
 家を訪ねて、最初顔を合わせたまでは機嫌が良かった颯樹だが、ゼロを見た瞬間に機嫌
が悪くなった。いきなり見知らぬ奴を連れてきたのだから当然だろう、と、純平は心の中
で納得している。
 「まあ、今日で運が良かったな。明日、あたしは家にいないから」
 「明日は大学は休みっすよね?」
 「親の知り合いの紹介で、でっかい会社のパーティーに行くんだ。高いメシがたらふく
食えるんだぜ」
 機嫌を直したのか嬉しそうに話す颯樹を見て、純平はやっと胸をなでおろした。ゼロの
方はまだゆっくりとお茶を飲んでいる。こちらの話を聞いているのかどうかも分からない。
 颯樹が話を続ける。
 「美沙も一緒にな」
 自分の妹の名を聞いて動きを止める純平。ゼロも少し反応して一度湯のみから視線を向
ける。颯樹はニヤリと笑うとまたさらに話を続けた。
 「丁度二人まで行けるんだよ。うちの家族はいつも忙しいから、美沙に話したら喜んで
『行く♪』ってな。ちなみに二人までだからな。丁度」
 絶対悪気があるという話し方をする颯樹。しかし、純平は深く頭を下げた。颯樹がこと
の状況に驚いてとまどっていると、
 「すいません、いつも妹の面倒を見てもらって。本当に感謝しています」
 真剣な顔を向ける純平を見てさらに颯樹はとまどった。視線を泳がせ、何か言葉を言お
うと少し口を動かすが言葉らしい言葉が出ず、最後は下を向いて軽く頭を下げ返した。
 ゼロは吹きだしそうになるのを抑えて湯のみを置いた。颯樹はゼロの方を見て助け舟が
来たかのように慌てて話し掛ける。
 「お、お茶はどうだった? ・・・え〜と・・・」
 「クリスだよ。ブ・・純平の仕事仲間」
 笑顔で落ちついた言動を見せるゼロの雰囲気が伝わったのか、颯樹もなんとか落ち着き
を取り戻した。軽く深呼吸をしたりする。
 「ということは、あんたも探偵をやってるの?」
 ゼロは『はっ?』と口をポカンとあけて返事を返せずに居ると、純平は慌てて大きな声
を出した。
 「そ、そうっす! まだ事務所では二人とも新米なんですけど!!」
 やっと気づいたゼロが純平の言葉に何度も頷く。颯樹は一瞬けげんな表情を作ったが、
すぐ元に戻った。
 「で、今日は何の用だ?」
 颯樹が二人に尋ねると、二人はすこし固まったあと、同時に首をかしげた。
 『・・・さあ』
 真顔で考える二人の頭に颯樹の怒りのおぼんが炸裂した。



 翌日の夜8時過ぎ。大きなフロア内では、盛大なパーティーが開かれていた。幾つもの
丸いテーブルの上には豪華な和・中・洋の料理が並び、その周りで会話する者もその料理
に見合った豪華なタキシードやドレスを着ている。
 五十一階建てのビルのひと階がまるごと一つのフロアになっていた。普段は何に使って
いるのかは分からないが、よくある様式なのだろうと純平は勝手に納得する。
 三十六階に位置するこのフロアは、緊急非難用の階段・スプリンクラーなどがしっかり設
置されている。しかし、これから起こる事態に対しては・・・
 いつもの私服姿の純平は状況確認を終え、フロアの隅にある大きな柱の影からフロアを
出ていこうとしたが、何かに気づいて慌てて柱の影に戻る。
 視線の先にはいつもより少しだけ綺麗に着飾った颯樹と、白い小さなドレスを着た妹が
いた。
 二人で楽しく話しながら、テーブルにある料理に手を出している。
 と、純平の左手のグローブの内側が青く点滅する。純平は左手を耳元に近づけた。
 『他のフロアは問題ないよ』
 ゼロの声がした。純平は口元に手を近づける。
 「こちらは問題ありだ」
 『どうしたの?』
 「颯樹さんと妹がいる」
 『ホントに? よりによってここのパーティーなの?』
 「・・・とりあえず、手を考え直そう。下の階の営業部の部屋だ」
 『はいはい』
 ゼロの声が途絶えたのを確認すると、純平はゆっくりと誰に見つかることもなくそのフ
ロアから出て行った。



 「で、どうする?」
 純平が先ほど見ていたことをそのまま全てゼロに報告した。電気はつけていないため薄
暗く、純平は近くにあったデスクの上を何か置いてないか手で探り、無いと分かるとデス
クの上に座る。
 ゼロは立ったまま部屋の入口に向けていた視線を純平に向けた。そして流れるように視
線を下に向ける。
 「どうしよう? 正体をバラすわけにはいかないし・・・」
 部屋の中を沈黙と暗闇が支配した。上の階からパーティーの音楽が聞こえてくる。二人
は黙って音楽を耳に受け入れていた。と――
 「困っているようだな」
 突然部屋の入口から若い男の声がした。慌てて純平はデスクから飛び降り、懐の鞘から
ナイフを一本取り出すゼロと一緒に入口の方へと構える。
 黒い影がゆっくりと月明かりの前にでてきた。足元から姿を現しはじめた影は、どうや
らスーツを着ているらしい。
 ダガーを影に向かって投げようとしたゼロを純平の片手が制した。純平は相手の顔が月
明かりに映るのを待つ。
 「警戒がたらんな。それでも異次元戦士か?」
 冷たい感情の声と共に、スーツ姿の男が姿を現した。
 「何故、羽佐間がここにいるんだ?」
 純平はゆっくりと構えを解いた。ゼロは何度か純平と羽佐間とを見て、ダガーをゆっく
り鞘にしまい、戦闘態勢を解く。
 「ゼロ、この前話した奴だ」
 体を羽佐間に向けたまま、純平がゼロに言った。ゼロは軽く片手を上げて挨拶する。が、
羽佐間はそれに答えることなく話を続けた。
 「奴らはもうすぐやってくる。ぐずぐずしている暇はないぞ」
 「あんたはどうしてここにいる? それに事情も知ってそうだな」
 羽佐間はフンっと息をつくと、さりげなく警戒する純平の問いに答える。
 「俺の客もここに来ているんでな。それにお前らの通信を傍受することもできないこと
はない」
 「客? 傍受だと?」
 「話はここまでだ。上の階の連中は俺が面倒みてやる。あとはお前らの仕事だ」
 話に区切りをつけて、羽佐間は引きとめようとする純平たちに背を見せて入口に向かう。
 「俺は、ここではボディガードという立場にある。いくらでも上の連中を非常口から外
に放り出せる」
 その言葉をいい終えると間もなく、羽佐間は廊下に出て行った。ゼロは心配げに純平を
見たが、純平はもう何かを決心していた。



 ビルの入口の影に、武装したテロリストと思わせる集団が暗闇にまぎれて潜んでいた。
集団全員がマスクをかぶっているため、男なのか女なのかさえも他人には分からない。
 もともと人通りのまったくない地形のため、集団は誰にも存在を気づかれることなく懐
の武器を点検する。みな、アサルトマシンガン・ナイフ・手榴弾等、戦争を始めることも
できる装備を身に付けている。
 準備など一連の作業はまるでロボットのように足並みが揃っている。今まで誰も一度も
口を開いていない。
 と、他の者たちより一回り大きな体をした男が立ち上がり、声を発した。
 「手はず通りだ。俺はA班とともに最上階の社長室に向かう。B班はふんぞりかえって
いるバカどもの息の根を止めてこい」
 周りの人間は目だけで、リーダーらしき男に頷く。男は手で周りに合図を出した。周り
の人間は黙ってビルの入口に音をまったく立てずに急ぎ足で向かう。大きなガラス製の自
動ドアを開け、中に入る。リーダーらしき男も最後に入った。
 入口を入って間もなくあるフロアの警備室から二人の警備員が出てきた。が、すぐさま
サプレッサーのついた小銃で音もなく撃たれ、床に倒れる。近くの四つ連なる大きなエレ
ベーターのうちの一つにテロリストの半分、約八人ほどが入る。そのあと、他の一つに残
りのテロリストとリーダーが入った。
 B班のテロリストたちは、あっという間に36階のパーティーフロアにやってきた。足
音を立てずにまさしくプロのテクニックで素早く周りに警戒しつつエレベーターから降り
る。
 しかし、始末するべき人間たちがいるはずのフロアには、フロアの端に寄せられた料理
の乗る小さなテーブルの他に、フロアの中央の床に座り込む2人の男が居るだけだった。
テロリストたちはフロアの入口で立ち止まり、状況を把握しようと五感全てを使って情報
を得ようとする。
 二人の男のうち片方はサバイバルチョッキを着て帽子をかぶり、もう片方は髪を丁度目
を隠すぐらいまでのばしている。二人の男は、こちらを無視して床でカードゲームをして
いた。交互にカードを一箇所に重ねていき、片方の男がまた一枚カードを置いた時、もう
片方が口を開いた。
 「あ、それダウト」
 「うわっ、二十四枚も戻ってきたよ。じゃあ、僕の負けでいいよ♪」
 片方は悔しそうにしつつも笑顔で山積みされたカードを両手で集め、もう片方は勝ち誇
った態度で自分の持っているカードを相手に渡す。
 我に返ったテロリストたちは、急いで二人の男を取り囲み、銃をつきつけた。しかし、
2人の男はさらに無視してカードゲームを続ける。
 「これで十九勝十九敗三引き分けだぜ」
 「う〜ん、連敗かあ。次は勝つけどね♪」
 「お前ら、ここで何をしている。他の奴らはどうした?」
 バカにしているとしか思えないほど、あくまでカードゲームを続ける男2人にテロリス
トたちは事務的な作業で尋問した。こっちは十人以上居ておまけに全員銃を所持している
というのに、二人は怖がる素振りを見せない。
 後頭部に銃をつきつけられた、カードを配ろうとした側の男は両手の手のひらにカード
を広げ、何かぶつぶつと言い始めた。
 「・・・木々を揺らす風の精霊よ、今一時我が力となれ」
 窓が一切開いていないはずのフロア内に突然風が吹き荒れ、男の手のひらからカードが
風に乗って飛びあがり、テロリストたちの顔に張り付いていった。
 動揺するテロリストたちのスキをついて、2人がテロリストたちに飛びかかり、全員を
殴る・蹴る・投げ飛ばす・関節技・締め技など等であっという間に叩き伏せる。テロリス
トたちは銃で反撃する間もなく床に突っ伏した。
 「・・・結構、おもしろいな」
 気絶しているテロリストたちを一つの長いロープで苦労して縛り上げ始める男=ゼロを
よそに、もう片方の男=純平は密かに一人で笑っていた。



 「どうした、B班? 応答しろ、B班!」
 最上階の五十一階の社長室に居るテロリストのリーダーが無線で何度も部下に呼びかけ
るが、向こうの無線からは何の応答も帰ってこない。イラ立ちを抑えきれずに、リーダー
は椅子か勢いよく立ち上がると椅子を蹴飛ばした。
 本当ならばもうすでに作戦は大詰めを迎えるころである。しかし、先ほどからB班の応
答がない。対した警備は無いはずなのに、何故手間取っているのか分からない。このまま
長引けば、社長室の外で待機しているA班や下のB班たちの洗脳がいつ解けるか・・・・
 「くそっ、A班全員、五十階のミーティング室に集まれ。どうやら邪魔者が居るらしい」
 社長室のドアを蹴破り、テロリストのリーダーは部下たちに命令を指示して廊下を急ぎ
足で歩いていく。後ろには七人の部下が付き従う。
近くの階段を下り、五十階の廊下を進んで、大きく目に付くミーティング室にドアを蹴り
開けて入る。近くの壁にあるスイッチを入れ、明かりをつける。巨大なミーティング室の
中は一つの大きな丸いテーブルが中心に置かれている。
 さらにパソコンの機材がそのテーブルに幾つか設置されており、ここからならビルの全
ての情報を入手できる。ミーティング室の窓は大きな作りで、外の景色がよく見えた。
 部下に新しい指示を出そうと、窓から背後に居る部下たちの方に体を向けようとした時、
窓の外の暗がりから黒い物体が映りこんできた。
 「―――ぃぃぃいいいやっほぅ〜!」
 意味不明な言葉と共に黒い物体が窓を派手にぶち破って入ってきた。テロリストのリー
ダーはその場から跳んで後ろに下がると、腰のショルダーから銃を取り出し、黒い物体に
狙いをつける。
 さらに後ろの部下たちもマシンガンやリボルバーを手に狙う。
 黒い物体=純平は掴んでいたビルの屋上につながる太いロープを放し、倒れた状態から
座りなおす。
 「・・・もう当分高い所からは飛ばねえぞ」
 心臓を抑えてうめくようにつぶやいた純平の頭に、いくつもの銃がつきつけられた。さ
すがにこの状態からはどうしようもないので、両手をゆっくり頭上に上げる。テロリスト
のリーダーが純平のこめかみに銃を当て、ゆっくりと口を開ける。
 「貴様、【この世界】の警察か?」
 今にも銃の引き金を引きそうな雰囲気のテロリストに対し、純平はゆっくりと目を閉じ
た。そして口を開く。
 「・・・スリー、ツー、ワン、ゴォ!」
 純平が入ってきた窓とは別の窓ガラスが割れ、ゼロが飛び込んできた。純平は不意をつ
かれたテロリストたちの隙を見逃さず、しゃがんだ状態から回転しつつ円を描くようにし
て足払いをかけた。周りに集まっていたテロリストたちのうち半分はそれによって倒れる。
ゼロは体勢を整えると同時に両手の手のひらにCDのアルバムのような真空の円の刃を1
枚づつ生み出し、立っているテロリストや倒れているテロリストの武器めがけてフリスビ
ーのように投げていく。
 高速で飛んでいく円の刃は拳銃やマシンガンなどの銃身を切断し、壁に突き刺さると消
滅した。
 武器を失ったテロリストたちは素手で2人に殴りかかっていくが、1分もしないうちに
決着はついた。テロリストたちは全員叩きのめされて床でのびている。いや、リーダーだ
けは別で、ことの状況を離れて見ていた。
 「多世界に渡る犯罪だ、取り締まらせてもらうぜ」
 純平は左手に半分埋め込まれているクリスタルをさすりつつ、テロリストのリーダーと
対峙する。ゼロも三角形になるような感じで距離を取った。しばらく室内を沈黙が支配す
る。三人とも動くことすらせず、二対一のにらみ合いを続ける。そして最初に口を開いた
のはゼロだった。
 「二対一なのに動揺しないということは、あんた相当、力に自慢があるみたいだね」
 テロリストのリーダーは、大声で笑い始めた。純平とゼロは腰を低くして身構える。
 「いや、驚いたぞ。まさかこんなに早く来るとはな。そう、俺は・・・」
 テロリストの体が瞬く間に黒く染まっていく。黒い塊はさらに形を変え、大きく分厚く
なると、黒い色が落ち、鉄や鋼でできた体が姿を現した。
 「俺は機械大元帥だ!」
 2メートル以上の巨体が、銃口が内臓されたとなっている右腕を上げ、純平に向ける。
 「ビンゴっ!」
 砲身からレーザーが放たれると同時に純平は叫んで横に跳び退いた。レーザーは通り道
に存在するテーブル・窓をことごとく切り裂いて外の闇に消える。ゼロはすぐさま両手に
円の刃を生み出し、機械大元帥に投げ放つ。が、機械大元帥は避ける動作をせず、あえて
当たるようにしてみせた。円の刃は機械大元帥の金属のボディに当たると、ガラスが割れ
るような甲高い音を上げて粉々になる。
 「うおおりぃゃ!」
 機械大元帥に飛びかかって側頭部を右足で蹴りつける純平だが、微動だにせず笑ってい
る相手を見て舌打ちする。逃げる時間を与えられずに右足首を片手で掴まれ、近くの壁に
叩きつけられた。壁にめりこみ、背骨が悲鳴をあげる。声にならないうめき声をもらして
純平は壁の破片とともに床に倒れた。近寄ろうとしたゼロを目で制し、なんとかすぐに起
き上がろうとする。
 機械大元帥は大きく笑い出す。
 「異次元戦士どもめ、今まで部下を倒してきたからといって図に乗るな!」
 「グランランサー!」
 ヒザ立ちの状態から叫ぶ純平の言葉に反応し、アクセル音とともに純平のバイクが割れ
た窓から飛んで入ってきた。元のハイテクな大型バイクに戻ったグランランサーは、その
まま飛んできたスピードで機械大元帥にぶつかっていく。
 機械大元帥はグランランサーに押され、部屋の壁を突き破り、廊下に出てまたさらに向
かい側の部屋の壁を突き破って入ると、そのまま反対側の窓を突き破ってグランランサー
と共に外に投げ出された。
 立ち上がった純平とゼロは空いた穴を駆け抜けて反対側の窓際まで行くと、投げ出され
たはずの機械大元帥を目で探す。が、姿はどこにもない。グランランサーは外に飛び出す
と同時に異次元に戻っている。
 『おもしろい奴らだ』
 2人の居る部屋に機械大元帥の声が響く。2人は身構えて周囲を警戒する。しかし姿は
どこにもなく、声はなおも続く。
 『今度会う時は絶望の声を上げさせて始末してやる。今日はひとまず挨拶1つで済ます
としよう、外をよく見てみろ』
 それ以降声は聞こえなかった。純平とゼロは互いの顔を見合わせつつ、警戒しながらも
外を見た。遠くの夜景がよく見える。上を見ても特に以上はない。下は・・・・・
 突然純平とゼロの体が何かの力に引きずり込まれるように外に投げ出された。驚いてい
る暇はない、急いで何か手を打たなければ地上50階からの飛び降りで悲惨な結果になっ
てしまう。
 それは隣で同じように落下するゼロも同じだった。
 「れっ・・・」
 純平がコンバットスーツを装着しようとキーワードを口にしかけた途端、一瞬のめまい
が襲い、気が付くと今までいたビルのそばの地面に立っていた。周りを確認してみるが、
敵の存在や次元の狭間という感覚は感じられない。遠くの方から車の走行音が聞こえる。
ビルの裏側に居るため、人の気配はまるでないが。
 少ない街灯の明かりの中、状況の確認をしようと考え始める純平をゼロの言葉が呼んだ。
 「上っ!」
 純平が上を見上げると、ビルの屋上に何か見える。ゼロの方を見ると何か念じつつビル
の屋上を見ていた。そして舌打ちする。
 「少女がふちに立ってる。意識は無いみたいだ、落ちるよ!」
 早口で言うゼロは純平の方を見た。純平もゼロの方を見る。1秒もしないうちに純平が
動き始めた。ビルの壁に向かって走り始める。
 「烈破!」
 一瞬の青い光とともに純平の体がブラックメタリックのボディに変わる。純平=ブラス
ターは高速で走り始めると壁を地面のようにして走り登っていく。
 ゼロは両手を複雑に合わせ、精神を集中する。全ての音が遮断され、周りの物質の存在
も感じなくなる。
 「うおおおおおりぃやあああっ!!」
 壁を高速で駆けるブラスターは、とうとうビルから転落する少女を捕まえられる距離ま
できていた。ビルの四十階ほどのところである。
 壁を駆け上がりながら少女を片手で捕らえる。そのまま最上階まで上がろうとすると、
 「げっ?」
 足を滑らせてバランスを崩してしまった。今度は下るジェットコースターのように落下
していく。
 「五月雨っ!」
 直立の状態で落下するブラスターは右腕から三日月形の小さな刃を出し、ビルの壁に突
き立てる。落下するスピードは少しは落とせたものの、壁に刃の傷をつけながら悲惨な結
果を迎えつつある。
 「・・・我が盟約せし闇の精霊シェイドよ。汝、猛き獣となりて我が命(めい)に答え
よ!」
 ゼロの言葉に従い、ゼロの体の影から闇が吹きだし、巨大な空飛ぶ闇色の獣となってビ
ルの壁沿いに上昇していく。落下するブラスターを下から背中で支えて、ブラスターの体
が宙に浮く。
 ブラスターは急いで近くのビルの窓を割って中に飛び込む。窓ガラスの破片から少女を
かばようにして抱きかかえて床を転がり、部屋の壁にぶつかって止まる。
 闇色の獣は暗闇に溶けるように消えていく。ブラスターは休む間もなく急いで助けた少
女を見た。途端、驚きの表情を顔に浮かべる。
 (人形!?)
 助けた少女は人間大の人形になっていた。さっきまでは確かに生身の少女だったはず。
触れた感触も人間のものだった。何度も確認していると、突然人形が燃え始めた。慌てて
ブラスターは人形を放リ出す。燃え始めた人形は瞬く間に灰となった。
 『我ら、ザ・ナイトメアに逆らったことを後悔するがいい』
 どこからともなく聞こえる機械大元帥の声。姿を探すがどこにも見当たらず、ブラスタ
ーはそれきり聞こえなくなった機械大元帥の声に見切りをつけ、勢いよく立ち上がった。
 (覚悟を決めろってか。やってやろうじゃねえか)
 窓際に立ち、遠くから聞こえてくるサイレンの音を聞きながら、ブラスターは遥か彼方
の夜空を見る。光り輝く夜空の星がやけにまぶしく見えた。



 翌日の朝刊の一面に、ど派手に記事が載っていた。居間の椅子に腰掛けている純平は、
背中の軽い痛みを気にしつつ、その記事を飽きることなくしばらく見つづけていた。
 と、颯樹がオレンジジュースが入ったコップを持ってきて、純平の目の前のテーブルに
置いた。
 「すごいだろ? 昨日、あたしたちが行ったパーティー会場の事件だぞ。これで信じた
ろ?」
 得意げに【ほらみたことか】と胸を張る颯樹に純平は苦笑して頷いた。
 「それは自慢することではないと思うんすけど・・・」
 「何かいけすかねえ男・・・ボディガードって言ってたかな?・・・そいつがさあ、冷
静な顔で侵入者がいるとか言い出してな。そして気づいたらいつの間にか外に誘導されて
たよ」
 颯樹の自慢話のような物を聞きつつ、また新聞に目を向ける。【パーティー会場にテロ
リスト現る】と題された記事には、テロリストたちがその場に居合わせた要人のボディガ
ードたちによって捕らえられたと書かれている。
 「・・・狙われた原因や細かい事件の詳細すらも不明。しかもテロリストたちはここ数
日間行方不明になっていた一般人、か」
 新聞をたたむとテーブルに置く。颯樹もいつの間にか話を終えて向かい側の椅子に座っ
ている。
 そして思い出したように口を開いた。
 「そういえば、あいつ・・・クリスはどうした?」
 「ゼ・・・クリスは今日は仕事っすよ。颯樹さんによろしくって言ってたっす」
 ふ〜ん、と頷くと、颯樹はまた純平に尋ねた。
 「あいつって、誰かに似てない?」
 「ああ、格ゲーに出てくるキャラのことっすね。『手から炎が出たりしない?』って聞
いたら怒られましたけど」
 「そう、あたし最近、そのゲームにハマってるんだ。超必がなかなかキャンセルでつな
げられなくてさあ・・・」
 それからその日一日の二人の会話は、そのゲームの話で始まり、終わった。


〔ツリー構成〕

[217] じゅんぺい 2006.4.24(月)05:47 じゅんぺい (382)
・[218] 異次元戦士ブラスター 2006.4.24(月)05:52 じゅんぺい (449)
・[219] 異次元戦士ブラスター第一話『その名は異次元戦士ブラスター』 2006.4.24(月)05:57 じゅんぺい (16846)
・[220] 異次元戦士ブラスター第二話『発端となる帰郷』 2006.4.24(月)06:00 じゅんぺい (18602)
・[221] 異次元戦士ブラスター第三話『戦う覚悟』 2006.4.24(月)06:06 じゅんぺい (23510)
・[222] 異次元戦士ブラスター第四話『背負った自責』 2006.4.24(月)06:10 じゅんぺい (16485)
・[223] 異次元戦士ブラスター第五話『女子高生探偵? の事件簿』 2006.4.24(月)06:16 じゅんぺい (21452)
・[224] 異次元戦士ブラスター第六話『闇夜の想い』 2006.4.24(月)06:25 じゅんぺい (23241)
・[226] 長編:異次元戦士ブラスター第七話『火蓋は切って落とされた!』 2006.4.24(月)06:32 じゅんぺい (28802)
・[227] 長編:異次元戦士ブラスター第八話『破壊する者と守る者』 2006.4.24(月)06:35 じゅんぺい (29081)
・[228] 長編:異次元戦士ブラスター第九話『結びし絆の必殺剣』 2006.4.24(月)06:38 じゅんぺい (32843)
・[229] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』前編 2006.4.24(月)06:40 じゅんぺい (33489)
・[230] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』後編 2006.4.24(月)06:42 じゅんぺい (21373)
・[231] 長編:異次元戦士ブラスター第十一話『解け行く過去』 2006.4.24(月)06:45 じゅんぺい (31695)
・[232] あとがき 2006.4.24(月)06:59 じゅんぺい (1072)
・[238] 長編:異次元戦士ブラスター第十二話『邪念を超える信念』 2008.10.25(土)10:47 じゅんぺい (42895)
・[239] 感想です〜☆ 2008.10.27(月)18:23 CDマンボ (480)
・[240] どもども。 2008.10.30(木)11:00 じゅんぺい (423)
・[233] 短編:異次元戦士ブラスター外伝 2006.4.24(月)07:03 じゅんぺい (235)
・[234] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『勇者とお姫様』 2006.4.24(月)07:05 じゅんぺい (24185)
・[235] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『風と木漏れ日の中で』 2006.4.24(月)07:09 じゅんぺい (23975)
・[236] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『真夜中の秘密』 2006.4.24(月)07:27 じゅんぺい (20527)
・[237] あとがき 2006.4.24(月)07:29 じゅんぺい (303)

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