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208 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー贈物編ー」
2006.1.14(土)18:09 - CDマンボ - 13942 hit(s)

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  桜の蕾が膨らむ、7012年3月15日。この日はじゅらい亭でパーティーの準備が行われて
いた。
「みかげちゃん、みつるくん、お…いき…ひ、おめでとう」
  床を雑巾がけしていたCDマンボが、風舞と悠之の持つ横断幕を睨みつけて内容を読ん
でいる。最近少しずつ漢字を覚えているのだが、まだまだ簡単な物しか読めない。その様
子を見た店主じゅらいが、苦笑しながら訂正した。
「すぃー殿、それは『おたんじょうび』って読むんだよ」
「おたんじょうび」
  知らない単語はとりあえずおうむ返しをするのが彼女の癖らしい。風舞がその様子を察
して説明する。
「そう、今日は美影ちゃんと光流君が生まれた日なのよ。それがお誕生日。お誕生日は皆
でお祝いをするの。じゅらい君、斜めになってない?」
  風舞は言いながら悠之と高さを合わせる。まっすぐになったところでじゅらいがOKを
出し、二人は脚立から降りた。
「その様子じゃ、すぃーちゃんプレゼント用意してないわね?」
  ややいたずらそうな微笑を浮かべつつ、悠之がCDマンボの頭を小突いた。
「プレゼント!プレゼント知っとるよ。えっと、皆から水槽もらったから、それプレゼン
トなんよね?」
「そうそう」
  悠之は少しオーバーに頷いてみせる。
「だから、今度はすぃーちゃんが二人にプレゼントする番だよ。誕生日のお友達にはプレ
ゼントするの」
  CDマンボは少し首を傾げつつ「水槽をあげるん?」と言うと、傍に居たじゅらいや風
舞までも噴き出した。悠之がCDマンボの前にかがんで目を合わせる。子供と付き合うに
は忍耐が必要なのだ。
「水槽はすぃーちゃんの物なんだから、二人には二人が喜びそうな物をすぃーちゃんが考
えてあげなきゃ」
「よろこびそうなもの…じゃ、喜びそうな物、さがしてくる〜☆」
  そう言うなりCDマンボは雑巾を持ったまま店を飛び出していった。じゅらい亭のドア
ベルがカランコロン♪と音をたてる。彼女が居た場所には海星が一つ残された。
「…すぃー殿、お金を持ってるのかな?」
  静かになった後、思い出したようにじゅらいが呟いた。
「お給料はあげてるけど…お小遣いとしてあげてる分も部屋の机の引出しの中にぐちゃぐ
ちゃに入れてあるのよねぇ…」
「んー…、まぁ少しずつ教えていくしかないなりなぁ。水槽も自分の物って認識したし。
なんで自分が水槽持たなきゃいけないのかは疑問に思ってないみたいだけど…」
  風舞が海星を拾いつつ困ったように言うと、じゅらいも苦笑しつつそう答えた。CDマ
ンボの給料は9割を銀行に預けているが、一部はちゃんと現金として支給している。とは
いえ、じゅらい亭はスタッフに対して賄いが三食きちんと出る上に大抵の服は時音が作っ
てくれるので、自分で目的を持たなければ金を使う機会は無い。店内の物を壊したりする
とまた話は変わってくるのだが。
「パーティーの横断幕、2枚目が出来たわよ」
  上から時音が新たな横断幕を持って降りてきた。


「母さん、これちっちゃいぜ」
  一人の少年がせわしなく立ったり座ったりしている。母さんと呼ばれた女性は真剣な表
情で目の前にいる少女の胸のリボンを結んでいる。動きたくてうずうずしている少年に対
し、少女の方は死んだように大人しい。
「…光流、大人しくなさい。美影、起きて」
  目を閉じていた美影は母親の言葉で無理矢理目を開ける。
「…どこかきついところはない?」
「…ない〜」
  少し青白い顔で少女は答えた。放たれる言葉もけだるげだ。
「母さん、この服きついぜ」
  光流と呼ばれた少年は母親の服を引っ張って同じ事を言った。子供は不快なことがある
と解消されるまで何度でも同じ事を言う。
「…光流、その服は来月から毎日着るのよ。だからわがまま言わないの。…それとも本当
に小さいのかしら…眠兎君、もう少し大きいのにした方が良いと思う?」
  二人の子供の母親は傍らに居る男性に意見を求めた。求められた男性はといえば…一生
懸命二人の子供の写真を撮っている。
「…眠兎君、写真撮りすぎよ…まだ制服の試着なのに」
「え?いやぁ、あんまりにも可愛いからつい。ごめんみのりちゃん」
  頭を掻きながら眠兎と呼ばれた男性は謝る。
「うーん、この時期の子供はすぐ大きくなるし、もう一つ大きくしても良いんじゃないか
な?」
  それでも話を聞いてなかったわけではないらしく、眠兎は自分の意見を述べた。
「…そうね」
  みのりと呼ばれた女性も一理あると思ったようで、眠兎の意見を採用することにした。
「…じゃぁ、試着しなおすからじっとしててね、光流」
  結局じっとさせられる時間が長くなってしまい、不服そうな光流であった。


  ぽてぽてぽて。
  CDマンボが歩くとそんな音が聞こえてきそうなのだ。
  ぽてぽてぽて。
  彼女が今歩いているのはアースセブンである。セブンス†ムーン住民の大部分が住んで
いるアースセブンには様々な店がある。そのうちの一つ、スポーツ用品店の前で彼女は立
ち止まった。
「くれしゃんや〜☆」
  中にじゅらい亭の常連の一人であるクレインを見つけたのだ。クレインは中でお金を払
おうとしていた。CDマンボは自分が落とした海星を拾いつつ店の中に入った。この辺は
じゅらい亭スタッフの努力できちんと躾られたようだ。
「あれ、すぃーじゃん。こんなところで何してんの?」
  クレインはCDマンボの姿を認めるとその頭をなでる。CDマンボは嬉しそうだ。うみ
うさぎは右肩に乗っている。
「えっとね、光流くんと美影ちゃんのおたんじょうびプレゼント探しとるんよ。喜ぶもの
が良いんやって悠之さんが言っとった〜」
「奇遇だなぁ、俺も今二人のプレゼント買ったとこだよ」
  そう言ってクレインは包んでもらった二つの袋を指す。
「何あげるん?二人が喜ぶもの?水槽やない?」
  その質問にクレインは少し笑った。
「それは内緒っ♪どうせ今日じゅらい亭で渡すんだし、すぃーに見せたら二人に言いそう
だからね」
  CDマンボはクレインの言葉にますます首をかしげる。
「言ったらいけんの?」
  その時、店のショーウィンドウの外を髪の長い美人が通りかかった。
「おっじょーさーんっ♪俺とお茶しませんかっ♪」
  CDマンボは一人店の中に取り残された。プレゼントはすでにじゅらい亭に転送する手
続きが済んでいるようだ。
「…水槽やない物で、喜んで、言ったらいけんもの…」
  CDマンボはぶつぶつ言いながら一人店を出た。


  じゅらい亭の厨房では良い匂いがしている。
「良い匂いがするにゃ。何を焼いてるのにゃ?」
  匂いに釣られてやって来たのはヘリオスだ。厨房で生クリームをかき混ぜているのは時
魚である。本来彼女が厨房に立つことはあまり無いのだが、今日は人手が足りないのか風
舞にここを任されたようだ。しかしエプロンではなく白衣を着ている辺り嫌な予感がしな
くもない。
「あら、ヘリオスさんじゃない。これはね、双子にケーキを焼いてんの」
「双子って、藤原さんとこの?なんで?」
  誕生日にケーキを焼くのはじゅらい達や藤原家の世界の習慣である。だからヘリオスが
知らないのは仕方がない。
「私達の世界ではね、誕生日にはケーキを食べるの。今日は双子の誕生日パーティーやる
から、じゅらい亭スタッフからのプレゼントとしてケーキ焼いてるってわけ」
  ヘリオスは身軽に棚に上り、自分がボトルキープしているテキーラを棚から下ろした。
「なるほどにゃ〜」
  時魚の説明にヘリオスも納得する。常連にもじゅらい達と似たような世界から来た人間
は割と多いので、じゅらい達の世界の習慣を踏襲したイベントはよくあることなのだ。ヘ
リオスはテキーラを飲んだ。
「でも、自分は甘い物は苦手にゃ。生クリームにお酒を入れると美味しいと思うにゃ♪双
子には年齢を20歳足して食べさせれば良いにゃ」
「こらこら、流石にそれはまずい」
  ヘリオスの提案に時魚が笑いながら突っ込みを入れる。
「そろそろかしら?」
  時魚がオーブンの中を確かめて良く焼けたスポンジを取り出す。生クリームも良い感じ
に角が立っているし、果物も準備万端である。
「さて、飾りつけといきましょっか。生クリームで双子の成長を促す『陣』でも描こうか
しら」
「にゃ♪」
  もちろん時魚の発言は冗談である。…多分。


  カシャーン!と大きな音を立てて美影がフォークを落とす。
「…美影、起きなさい」
  みのりが落としたフォークを拾いながら美影に言う。美影はなんとか重そうな目蓋を開
けてフォークを拾った。眠兎もみのりもその様子を見守る。
「アルテミスの神格を持ってしまったから昼眠いのは仕方ないんだけど、社会で生活する
には昼型にしないといけないからなぁ」
「…ええ」
  双子が生まれてから何度となく交わされている会話である。その点太陽の神ルーの神格
を持つ光流は苦労が無い…のかと思いきや、全然そんなことは無かった。
「父さん父さん!」
  光流が嬉しそうに眠兎に向かって指を指した。眠兎はその仕草を見て焦った表情になる。
次の瞬間、光の筋が光流の指から放たれた。
「…大丈夫?」
  もちろん眠兎はその素早さで避けているのだが、一応みのりは声をかける。
「うん、僕は大丈夫だけど…壁は大丈夫じゃないみたいだ」
  背後の壁に空いてしまった穴を見つつ、眠兎は答えた。光流の放った光線は太陽神ルー
の力である。生まれつき持ってしまった力をコントロールすることを教えるのは親の役目
とはいえ、まさに命がけだ。
「こら光流」
  いくら親バカでもこういうときはげんこつである。
「うぅ、父さん痛いぜ」
  光流は拳骨を食った頭を抱える。
「それは遊ぶための力じゃないんだ、光流」
  殴った頭に手を乗せ、眠兎は厳しい顔をして言った。
「それじゃつまんないぜ〜」
  光流は手足をばたばたさせて抗議した。子供はとにかく遊びたいものなのである。眠兎
だってそれは分かっている。
「その力は、大きくなったらいつか必ず必要になるときが来るから、そのときまでとっと
くんだ。そんなことしなくたって楽しい遊びは沢山あるんだしね」
  そう言って眠兎が光流の前で左手から花を咲かせる。器用な眠兎は子供の機嫌をとるの
によくマジックをするのだ。そのマジックで光流はあっという間に機嫌が良くなった。今
は、まだ言葉の意味が分からなくても良い。いつか分かるときが必ず来るのだから。
  美影は眠そうな目を一生懸命開けて昼食を食べていた。


  ぽてぽてぽて。
  やっぱりCDマンボが歩くのを見るとこんな音が聞こえてきそうな気がする。
  ぽてぽてぽてぽて。
  ちなみに赤ちゃん靴を履いているわけではない。
  ぽてぽてぽてぽてぽて。
  CDマンボは立ち止まった。その視線の先には公園があった。アースセブンには公園も
数多く存在する。
「じゅんぺいさんやぁ〜☆」
  公園ではじゅんぺいがトレーニングをしていた。例のスーツこそ着てはいないものの、
激しく体を動かして汗を掻いている。じゅんぺいはCDマンボに気付かずトレーニングに
励んでいる。CDマンボは不用意にぽてぽてとじゅんぺいに近づき…案の定吹き飛ばされ
た。そのまま転がる様子はまるでボールである。転がる直前にうみうさぎはCDマンボの
肩から降りている。
「す、すみませんCDマンボさん、大丈夫っすか!?」
  妙な手ごたえで彼女の存在に気付いたじゅんぺいは慌ててCDマンボに近づく。CDマ
ンボは自力で起き上がりつつも目をぐるぐるさせていた。ようやくそのぐるぐるが治まっ
た彼女はじゅんぺいを見るととても嬉しそうな顔をする。
「すごい〜☆じゅんぺいさんがぐるぐるって。3人くらい居った〜☆」
  落ちる海星を見ながら、それを喜ぶのはどうかとじゅんぺいは思った。しかし大きな怪
我は無いようなのでとりあえず安心する。大体にしてCDマンボが不注意なので本当にす
みません。
「ねえねえじゅんぺいさん、たんじょうびプレゼント何?」
  子供の発言は常に唐突である。しかしじゅんぺいはCDマンボの発言の意味を即座に理
解した。
「光流君と美影さんの誕生日プレゼントっすね?僕は異世界の鉱石を拾ってきましたよ。
原石だから価値そのものは低いっすけど」
「いせかいのこうせき?」
  CDマンボには言葉が難しかったらしい。じゅんぺいは思案顔で彼女にも分かる言葉を
選ぶ。
「ええっと、つまりここでは珍しいものっす」
  じゅんぺいの言葉にCDマンボは首をかしげる。
「めずらしいもの…プレゼントは珍しい物が良いん?」
  CDマンボの言葉にじゅんぺいも首をかしげる。
「そうっすねぇ…やっぱり他では手に入らないような物が良いかと思ったっすけど…」
  そこでじゅんぺいは素早く腕時計を見るような仕草をした。CDマンボは全く気が付か
なかったが、彼の左手の甲にはクリスタルが埋め込まれており、それが青く点滅したのだ。
「すみませんCDマンボさん、僕そろそろパトロールの時間なんで、行ってくるっすよ」
「うん、いってらっしゃい〜☆」
  行ってくると言われれば反射的にいってらっしゃいと答えるCDマンボであった。そこ
は子供で掃除係でも客商売である。CDマンボに見送られてじゅんぺいは公園を後にした。
残されたCDマンボは指を折りつつ呟く。
「水槽やなくて、喜んで、言っちゃいけなくて、珍しいもの…」
  じゅんぺいは自分が送る誕生日プレゼントをあっさり言っている事実には全く気が付か
ない。
「むぅ」
  CDマンボの傍に居たうみうさぎが声を発する。
「うみうさぎ?どうしたん?」
  CDマンボの問いかけにも答えず、うみうさぎは公園の奥へと入っていく。CDマンボ
は慌ててうみうさぎを追いかけた。途中噴水があったのだが、幸いなことに乾いていて中
に水は入っていなかった。水が入っていればCDマンボは飛び込んでしまったに違いない。
  公園ではたくさんの子供達が遊んでいる。桜の木もだいぶ蕾が大きくなってきた。しか
しうみうさぎはその桜の木も通り過ぎていく。公園の一番奥には大きな栗の木が生えてい
た。栗の木は冬にその葉を大量に落とす。そしてCDマンボも大量の落ち葉を掃くはめに
なったりするのだが、再び葉が芽吹くにはもう少し暖かくなるのを待たねばならない。
  その栗の木の根元に、子供の頭ほどのうろがあった。うみうさぎはそのうろの前で、よ
うやく止まった。CDマンボも息を切らしつつうみうさぎのところに追いついた。
「むぅ」
  うみうさぎに促されてCDマンボはうろの中を覗いた。そして目的の物を見つけた。


  ぴんぽーん。
  ちょっとレトロな音で藤原宅の呼び鈴が鳴った。もちろん一番に反応したのはみのりで
ある。
「…来た」
  今日は双子の誕生日であるから誰が来てもおかしくはないのだが、大抵の友人は今夜じ
ゅらい亭でお祝いをしてくれることになっている。しかし流石にみのりは来客者を知って
いたようである。
「…光流、美影、玄関出てちょうだい」
  みのりは敢えて子供達に玄関に出るように促した。光流が眠兎の肩から降りて元気良く
玄関へと駆けて行く。美影はゆっくりとその後を追った。
「あ、すぃーだぜ!」
  扉を開けた光流がCDマンボの姿を見て叫ぶ。あとから美影も追いついてきた。CDマ
ンボは二人の姿を認めると上気した顔でまくし立てた。
「あのねあのね、たんじょうびプレゼント見つけたん〜☆」
  美影が眠そうな目を少しだけ開ける。光流もCDマンボと同じくらい上気した顔になる。
「…たんじょうびプレゼント〜?なぁに〜?」
「なんだぜすぃー?」
  そうするとCDマンボはためらった。
「えっとね、言ったらいけんから、公園行こう〜☆」
  CDマンボがそう言うと、二人とも頷いた。CDマンボが外に出ようとすると、双子の
背後に大きな影が差した。CDマンボが振り向くと双子の父親である眠兎だった。
「や、CDマンボさんじゃないですか。おや、今日はお友達は居ないんですか?」
  相変わらず優しそうな笑顔で眠兎は来訪者に挨拶をする。CDマンボはうみうさぎを連
れていない。そのことに触れられたCDマンボは追い詰められたような表情になった。
「あの、あの、おたんじょうびプレゼントは言ったらいけんから!」
  眠兎はわけが分からない。眠兎がきょとんとした顔をしている間にCDマンボは二人の
手を引っ張った。
「二人とも、夕方までには帰ってくるようにね。今日はじゅらい亭で皆がお祝いしてくれ
るんだから」
  眠兎は壁にかけてある時計を見る。時計の針は3時を差していた。CDマンボは自分の
落とした海星を拾うと、光流と協力して美影に肩をかけさせる。
「じゃぁ父さん行って来るぜ!」
  子供達はそう言って出かけていった。玄関には一人きょとんとした眠兎が残された。
「…出かけた?」
  頃合を見計らったのか、みのりが玄関に出てきた。
「うん、出かけたけど…なんだったんだろうね?」
  眠兎の疑問は最もだ。しかし子供には子供だけの秘密があるもので、大人が入ってはい
けないときもある。
「…大きい毛布を出しておかなきゃね…」
  みのりが小さくそう呟いた。


  CDマンボはなんとか元の公園に戻ってくることが出来た。その頃には少し夕日が傾い
ていたが。
「こっちこっち」
  CDマンボは一人でわくわくしながら双子を栗の木の下に誘導する。栗の木の下ではう
みうさぎが子供達を待っていた。うみうさぎを肩に乗せつつCDマンボは栗の木の根元の
うろの中を覗き込む。うみうさぎがずっと居てくれたお陰もあって、それはまだちゃんと
そこに居た。
「何だぜ何だぜ?」
  光流もCDマンボと同じようにわくわくした表情で、CDマンボの横からうろを覗き込
む。美影も薄く目を開けて栗の木の下に座った。
「ぴるぴるぴる」
  最初に聞こえたのはそんな声だった。続いて小さな火のような物が見えた。うろの中に
居たのは、なんとドラゴンだった。大きさからして恐らく赤子である。
「プレゼント〜☆水槽やないし、珍しいし、誰にも言ってないよ〜☆」
  あとは喜ぶかどうかなので、二つの海星を拾いつつCDマンボは二人の双子を見る。し
かしその顔はさあ喜べと言わんばかりであった。
「すぃー、すげーぜ!」
「…可愛いドラゴンね〜」
  最初に口を開いたのは光流であった。実際彼はかなり喜んでいた。美影も目は眠そうだ
が嬉しそうである。CDマンボは二人が喜んだことを確かめて満足の笑みを浮かべた。
「えへへ、やった〜☆」
  CDマンボがそう言った瞬間、乾いていたはずの公園の噴水が勢い良く噴き出した。そ
して噴水の周りの池に水が溜まる。CDマンボはその一部始終を虚ろな表情で眺め、そし
て当然のように池に向かって歩いて行き、飛び込んだ。双子には止める暇も無かった。

  ばちゃーん!

  もちろんCDマンボはまんぼうに変態してしまった。しかし所詮は噴水の池であったた
め、横たわっても体の半分ほどしか水が無い。
  双子が池のほとりまで来た。CDマンボは口をぱくぱくさせている。うみうさぎは池の
縁に立っていた。
「すぃーがまんぼうになっちゃったぜ!」
「…困ったわね〜」
  悪いことは重なるもので、そのときちょうど夕日が沈みきってしまった。光流がばたん!
と大きな音を立てて後ろに倒れた。
「ぐ〜〜〜〜だぜ〜〜〜」
  太陽神ルーの神格を持つ光流は日が沈むと同時に寝てしまうのである。逆に美影は先程
よりは元気そうになったのだが、元より少しぼんやりしている性格である。
「…ん〜、光流も寝ちゃった〜。どうしようかなぁ〜」
  うみうさぎが美影の肩に乗って一声鳴いた。
「むぅ」
  美影は動物の言葉を解することが出来る。
「…そうね〜。すぃーはこのままでもしばらくしたら人間になるし、すぃーが人間になる
の待つわ〜」
  美影はそう言うと木のうろからドラゴンを抱いて連れてきた。日が沈みきった公園には
もうそんなに子供も居ない。ドラゴンを出しても大丈夫だ。
「ぴるぴるぴる」
  美影はドラゴンを抱っこして先程出たばかりの月を眺めていた。


  噴水の池に、一尾のまんぼうが横たわっている。
  水は体の半分しかない。
  こんなところに横たわっていれば、普通魚は苦しい。
  しかし彼女は口をぱくぱくさせるだけ。
  彼女のそばに、太陽と月が居る。
  月と太陽が出会うことは、まんぼうにとって特別なこと。
  彼女はそれを感じている。


  CDマンボは目を覚ました。
「むぅ」
「…あ、おはよう〜」
「ぐ〜ぐ〜だぜ〜〜〜」
  既に周りはかなり暗かったが美影はCDマンボにそう声をかけた。腕にはドラゴンの赤
子を抱き、肩にはうみうさぎ、光流はばたんと倒れた場所に放置している。CDマンボは
起き上がるとその三つを交互に見た。うみうさぎが一声鳴きつつCDマンボの肩に飛び乗
る。
「…すぃー、私ドラゴンを家に連れて帰るから、すぃーは光流持って〜。そろそろパパが
心配しちゃう〜」
  そう、じゅらい亭での誕生日パーティーが始まりそうな時間なのである。いわゆる「親
バカ」である藤原眠兎は今ごろ心配でセブンス†ムーン中を探し回っているかもしれない。
「うん、分かった〜☆光流くん、おきて」
  落ちた海星を拾い、CDマンボは光流の体を揺さぶった。
「むにゃむにゃだぜ〜」
  変な寝言を言いつつも光流は起き上がりCDマンボの肩に捕まる。CDマンボはなんと
か頑張って光流をおんぶした。うみうさぎはCDマンボの肩から頭の上に移動した。
「…じゃ、行きましょ〜」
  美影はドラゴンを抱いて公園を出た。


  帰りは方向音痴ではない美影が先頭を歩いたので、真っ直ぐ藤原宅に帰ってくることが
出来た。玄関の扉を開けると同時に眠兎が飛び出してきた。
「あっ!ああ、よかった…今から探しに行こうかと思ってたんだよ。一体どこに行ってた
んだい?」
  そしてすぐに美影が抱いているドラゴンに気が付く。
「ん…?そのドラゴンはどうしたんだい?」
  美影がドラゴンを眠兎に掲げるようにして見せた。ドラゴンが小さく火を吹く。
「…すぃーちゃんからの誕生日プレゼント〜」
「むにゃむにゃ、もらったんだぜ〜」
  光流も眠いながら主張をしている。
「えっと…まさかドラゴンをうちで飼うっていうんじゃないだろうね?」
  眠兎が恐る恐る言うと双子は揃って頷いた。眠兎は苦笑いしながら腕を組んだ。ドラゴ
ンを飼うというのは動物を飼うのとはわけが違うのだ。種類によっては大きくもなれば人
間以上の知能を持つこともある。最悪の場合セブンス†ムーンの自警団が動き出すだろう。
「うーん…うちではドラゴンは飼えないよ」
  双子とCDマンボは揃って頭を振った。
「むにゃむにゃ、飼うんだぜ〜」
「…パパはドラゴン嫌い…?」
「せっかく見つけたプレゼントなのに〜」
  眠兎は弱ってしまった。
「二人とも…あと、CDマンボさんもよく聞いて欲しい」
  眠兎は三人の目の高さまで屈むとゆっくりと話し始めた。
「今は赤ちゃんでも、ドラゴンはどれくらい大きくなるか分からないんだ。この家より大
きくなっちゃうかもしれないんだよ。そしたら街が大変なことになってしまう」
  CDマンボはうつむいた。珍しくしょんぼりしている。
「…じゃぁ、今日の夜だけ、一緒に寝ても良い〜?」
  美影がそういうと、眠兎は苦笑しつつ頷いた。結局子供には弱かったりする。
「しょうがないなぁ…今晩だけだよ」
  その言葉で双子は揃って笑顔になった。
「むにゃむにゃ、わ〜いだぜ〜」
「…すぃーちゃん、ドラゴンのお友達見つけてくれてありがとう〜」
  その言葉で、少ししょげていたCDマンボもやっと笑顔になった。


  そしてじゅらい亭では予定通り誕生日パーティーが開かれた。じゅらい亭の壁には二つ
の横断幕がかけられており、一つは『みかげちゃん、みつるくん、お誕生日おめでとう』
もう一つは『ご入学おめでとう』と書かれている。今年は双子が小学校に入学する入学祝
いも兼ねているのだ。
  常連達が一斉にクラッカーを鳴らす。
「「「「美影ちゃん、光流君、誕生日おめでとう!!!!」」」」
  時魚特製のケーキに、歳の2倍である12本の蝋燭が刺さっている。それを双子が頑張っ
て吹き消した。全てを吹き消すと常連達から拍手が起こる。
「むにゃむにゃ、ありがとうだぜ〜」
「…どうもありがとう〜」
  美影は件のドラゴンを抱いている。光流は夜なので半分寝ている…というよりはむしろ
眠っていて発言が全て寝言のような状態である。
「今日は我々の子供達のためにこんなパーティーを開いてくださり、本当にありがとうご
ざいます。僕もみのりちゃんも子供達を立派に育てるようにこれからも頑張ります。もう
ほんとに」
  眠兎が常連達に挨拶をし、みのりが深々と頭を下げた。双子の許には次々とプレゼント
が渡されている。
「はい、光流君にはサッカーボール、美影ちゃんにはアーチェリーの矢だよっ♪」
と言って渡しているのはクレインだ。広瀬は双子の似顔絵を描いてみのりに渡した。
「…毎年ありがとうございます、広瀬さん」
  スケッチブックの双子を見て、みのりが微笑む。
「いえいえ、こうやって毎年描けば、去年と比べてちゃんと成長してるのが分かるでしょ
う?」
  広瀬はそう言ってスケッチブックを一枚前に戻した。確かにこうやって比べればちゃん
と双子が成長しているのが分かる。
「僕は八丁味噌味のほねっこです」
  嬉々として双子にほねっこを渡しているのは言うまでもなくWBだ。他にもルネアが美
影にナックルを渡したり、フェリシア使いが光流にお魚を渡したりしている。
  その光景をカウンターからぼんやりと眺める少女が一人居た。じゅらいが彼女を見咎め
て声をかける。
「どうしたんだい?すぃー殿」
  CDマンボはかなりびっくりした様子で声がした方を向いた。うみうさぎは彼女の頭に
乗っていたのだが、CDマンボの急な動きに驚いて膝に降りる。じゅらいがCDマンボの
隣に座った。
「人間はね、こうやって年に一回生まれたことを祝うなりよ。生まれておめでとうってね」
  CDマンボはもう一度双子を見た。親に抱かれて幸せそうな2人の子供の光景が写る。
「なんですぃー殿は誕生日が無いんだろうね?」
  少し酷かもしれないと思いつつ、じゅらいはCDマンボに疑問を投げかけてみた。CD
マンボは首を傾げて考えている。まだ早いか、と思ってじゅらいが話を変えようとしたそ
の時。
「人間が特別やから」
  CDマンボが発した言葉に、今度はじゅらいの方が驚いた。しかしその驚きはすぐに笑
顔になり、じゅらいはCDマンボの頭をぐりぐりと撫でた。まだ子供なのだ、はっきりと
理解する必要などない。少なくとも自分が人間とは違うことを自覚することが出来た。
「よーし、それじゃぁ拙者がすぃー殿に記念日をあげよう。5月27日って何の日か知って
るかい?」
  CDマンボが、今度は心底不思議そうな顔でじゅらいを見上げる。何の日か分からない
のだろう。
「すぃー殿が初めてじゅらい亭に来た日なりよ。10年前だけどね」
  そう言ってじゅらいはCDマンボにウインクする。
「ほぅら、これですぃー殿だって特別」
  『かころぐ君』と呼ばれるじゅらい亭の日誌を全てきちんと保存していることは、店主
の密かな自慢だったりする。
「じゅらさんありがと〜☆」
  CDマンボが笑顔になる。じゅらいはその笑顔に満足しつつ、少し顔を引き締めた。
「でもすぃー殿、今日はお仕事サボって外で遊んでたから」
  じゅらいはそう言ってCDマンボの頭に軽くげんこつを当てた。
「あぅ、ごめんなさい〜」
  CDマンボも素直に謝った。パーティーの夜は更けていく。


  次の日、セブンス†ムーンから少し離れたある山で、槌の音が響いていた。
「さて、これで完成だ。ドラゴンの巣が出来たよ」
  眠兎が最後の釘を打ち終えて汗を拭く。傍には元気な光流と眠そうな美影が居る。
「父さんありがとうだぜ!」
「…ありがとう〜」
  藤原家はここにドラゴンの巣を作ってときどき様子を見に来ることに決めた。出来れば
人間を襲わないドラゴンになるように、自然の中でドラゴンを育てることにしたようだ。
「やれやれ、しばらくは面倒を見に通う必要がありそうですね…」
  今回最も割を食ったのは眠兎であった。
Fin.


〔ツリー構成〕

[76] CDマンボ 2002.8.17(土)01:32 CDマンボ (206)
・[77] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」 2002.8.17(土)01:42 CDマンボ (16955)
・[78] 感想みたいなもの 2002.8.17(土)17:29 モリリン (514)
・[81] re(1):感想みたいなもの 2002.8.17(土)21:01 CDマンボ (303)
・[79] 感想:短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」 2002.8.17(土)19:24 藤原眠兎 (977)
・[82] re(1):感想:短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」 2002.8.17(土)21:20 CDマンボ (1009)
・[80] ちょっと遅いですがあとがき。 2002.8.17(土)20:48 CDマンボ (891)
・[83] 感想〜♪ 2002.8.19(月)23:16 ゲンキ (288)
・[89] re:感想〜♪ 2002.8.22(木)23:49 CDマンボ (522)
・[145] じゅらい亭日記CDマンボ的ー労働編ー 2003.6.29(日)23:20 CDマンボ (14997)
・[146] あぅち 2003.6.29(日)23:24 CDマンボ (333)
・[159] 感想:じゅらい亭日記CDマンボ的ー労働編ー 2003.7.8(火)11:01 藤原 眠兎 (285)
・[163] どもです〜☆ 2003.11.20(木)23:24 CDマンボ (318)
・[162] たまに読み返すのよ 2003.11.18(火)07:33 じゅらい (450)
・[164] あわわ 2003.11.20(木)23:36 CDマンボ (486)
・[179] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー年末編ー」 2003.12.29(月)06:29 CDマンボ (36374)
・[180] 今回の教訓 2003.12.29(月)06:36 CDマンボ (375)
・[181] 今年最初の感想 2004.1.1(木)01:12 ゲンキ (373)
・[183] 今年最初のお返事 2004.1.6(火)18:52 CDマンボ (276)
・[182] いやあ、ご苦労様です。 2004.1.2(金)10:42 じゅんぺい (286)
・[184] いえいえ、感想感謝です〜☆ 2004.1.6(火)18:55 CDマンボ (360)
・[185] 読了〜♪ 2004.1.8(木)16:54 カイオ (438)
・[186] 感無量〜☆ 2004.1.15(木)22:29 CDマンボ (298)
・[193] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的水走編」 2005.2.15(火)22:44 CDマンボ (20455)
・[194] あとがき 2005.2.15(火)22:49 CDマンボ (196)
・[195] 感想 2005.3.9(水)16:36 ゲンキ (153)
・[196] どうもです〜☆ 2005.3.11(金)16:40 CDマンボ (116)
・[208] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー贈物編ー」 2006.1.14(土)18:09 CDマンボ (22962)
・[209] あとがき 2006.1.14(土)18:15 CDマンボ (224)
・[210] 読みました! 2006.1.15(日)14:30 じゅんぺい (277)
・[211] ありがとうございます〜☆ 2006.1.15(日)19:00 CDマンボ (164)
・[212] 感想 2006.1.16(月)09:37 藤原眠兎 (317)
・[213] ありがとうございます 2006.1.18(水)17:39 CDマンボ (191)
・[214] 拝読しました 2006.1.23(月)16:38 ゲンキ (154)
・[215] ありがとうございます。 2006.1.31(火)11:55 CDマンボ (218)

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