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202 じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ>
2005.7.23(土)14:54 - ゲンキ - 23344 hit(s)

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 そこは、小高い丘の上だった。
 見渡せば、眼下にはそれなりに大きな川の流れと、水辺で、川の向こうの丘で、そこか
しこで青々と茂った草を食んでいる草食竜の群れ。
 流れる水が清らかな証に、繁殖場所として清流のそばを好む光虫が、昼だというのに草
むらの中を飛び回っていた。
 呆然とそれを見つめる火狩の隣では、クレインがやはりぼけーっとつっ立ったまま、空
を見上げていた。ところどころに真っ白な雲が漂い、澄み切った青さが気持ち良いその光
景の中には、なんだか微妙な違和感を放つ黒い影が、ぽつり、ぽつり。

 鳥──にしては、あまりにも巨大すぎる。

『え〜、それでは皆さん』
 拡声器片手に、丘の頂上──常連ズのいる場所より一段高くなっているところに陣取っ
ていたじゅらいが、挨拶を始めた。
『本日は、私どもじゅらい亭の開店記念パーティーにお越しくださいまして、まことにあ
りがとうございます。今年は天気も良く、例年通り、こうして祝うことが出来て助かりま
した。去年などは立て続けの台風による雨の中、何故か屋外で──』
 と、いう彼の言葉に耳を傾けている者は何人もいない。集まった常連ズはそれこそ数十
人からいるのだが、みんなそれどころではなかった。

 開店記念パーティー。

 そう、今日は七月二十二日。じゅらい亭の開店記念日である。じゅらいの後ろに立てら
れた二本のポールの間には「○周年おめでとう! ありがとう!」と書かれた垂れ幕が下
がっている。

 だが問題はそこではない。
 この場所である。

『──そんなわけで、拙者はその時に思ったのでござる。これはもう冒険者の店やっちゃ
うしかねーなと。というのも、思い起こせば千年前、ラヴリイな月夜が──』
「ちょ、ちょっと待った!!」
 長い長い挨拶だかスピーチだかを続けていたじゅらいの言葉を遮って、声を上げたのは
アレースだった。その彼の方にじゅらいは振り向き──

 カチン。ドゴン!!!

 懐から取り出したリモコンスイッチらしきものを押すと、アレースと、その周囲にいた
数人の常連ズの足元が爆発していっしょくたに吹き飛ばされた。店主の娘自慢を邪魔した
者には、たとえ神だろうが魔王だろうが、等しく滅びが降りかかるのである(無関係な常
連巻き添えにした時点で不平等だが)
 張本人を爆破したことで怒りは収まったのだろう、じゅらいはいつも通りのにこやかさ
で問いかけた。
「なんでござるか、アレース殿?」
「……」
「あ〜……えーちゃんはコゲてて立ち直れないみたいなんで、かわりにオレが」
 と、亡き(違)アレースに代わって口を開いたのは、兄貴分のクレインだった。彼はま
ず人差し指をピッと立てて、問いかける。
「あのさ、じゅーちゃん。さっき『例年通り』とか言ってたけど……なんか、これってい
つものパーティーと違うと思うんだけどな〜、オレは?」
 爆破されたくはないので、こころもち控えめな口調での質問。だがじゅらいは不思議そ
うに小首をかしげて、逆に問い返した。
「記念パーティーを開く、という、その行為自体はいつも通りじゃろ?」
「ま、まあ、そりゃそうなんだけどね……」
 言われて今度は、立てた人差し指の先っちょを地面に向けるクレイン。
「場所が……全然違うんじゃないかい?」
 そもそもここはどこだ? と訊きたいのが、クレインと他常連達の本音だった。なにせ
彼等、招待状を持ってじゅらい亭に集まり、全員が揃った時点で現われた悠之に誘導され、
店の奥にあった謎の扉をくぐった途端、何故かここにいたのである。
 空間を跳び越えて、どこかに連れて来られたのだということはわかる。そういう能力を
持った者もじゅらい亭常連には多いからだ。
 しかし、肝心の「ここがどこなのか」がさっぱりわからない。そして、そもそもどうし
てこんなところに連れて来られたのか──も。

 その疑問に答えたのは、じゅらいではなく、彼の隣に控える風舞だった。
 いわゆる黄金パターン。

 彼女はじゅらいの手から拡声器を受け取ると、スイッチを入れて説明を始めた。
『ここは、異世界です』
「「「「「ええええええええええええええええっ!?」」」」」
 いきなりな一言に、何人かの常連ズから悲鳴が上がる。しかし彼等は比較的最近になっ
て常連になった者達ばかり。元々異世界から来た常連や、古参の者達などは、その程度で
は驚きはしない。風舞は気にせず続けた。
『今回のパーティーは、特殊な食事形式とさせていただいております』
 特殊な? 居並ぶ常連ズの表情に困惑が浮かぶ。
 今までのじゅらい亭の祝賀関連行事での食事と言えば、大体は立食パーティー形式。予
め用意された食事を、好きな時に、好きなだけ取って来て飲み食いできるというものだっ
た。さもなくば普段と同じ、各自から注文を取って、それに対応するという形。
 だが、特殊な──と付くからには、それら今までの形式とは違うということだ。そして
それはつまり、こういうこと≠セった。
 ようやく初めて、全員に驚きをもたらす言葉が風舞の口から発せられる。

『原則として食材は現地調達!! この世界にあるものならなんでも持ってきて構いませ
ん!! そこいらの雑草でも、モンスターのフンでも、ドラゴンのお肉でも!! お金を
かけずに皆さんの手で食べるものを探して来てください!!』

「なっ……」
 誰が発した一言だっただろうか?
 ともあれ、次の瞬間──常連ズは声を揃えて絶叫した。
『なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいっ!?』










じゅらい亭日記・狂走編
 <モンスター・ハンターJ>


『○周年記念パーティーを成功させろっ』


  契約金 借金200ファンタ以上
   報酬 特殊な食材やアイテムを獲得した場合には個々に応じたボーナス
      (ただし自動的に返済に回される)

 勝利条件 食材の調達
 敗北条件 死亡、もしくは食材調達の失敗


*クリアしてもハンターランクポイントは上がりません










「ううっ、どうしてこんなことに」
 鬱蒼と茂る木々。背の高い草やシダ植物の垂れ下がった枝葉をかき分けつつ進みながら、
快活そうな黒髪の少女、風花はため息を吐いた。
 一時間ほど前──にっこりきっぱり風舞に言い切られた言葉を思い出す。

『最近の経営状態に鑑みまして、当店ではしばらくの間「節約・倹約・常連さんはすり切
れるまで働かせよ」をモットーにすることにしました。場合によっては借金返済のための
ボーナスが出ることもあります。皆さん、がんばってくださいね(はぁと)』

 ……顔は笑っていたが、目がちっとも笑っていなかった。
 まあたしかに、しかたないとは思う。ここ数ヶ月、じゅらい亭の収支は真っ赤だという
話は、風花も聞いている。
 何故かと言うと、常連達がいつもの「仕事」で羽目を外しまくったからである。
 大きな仕事ばかりだったというのも、たしかにある。たとえば強敵と戦った時、少しば
かりの被害が周囲に出てしまったとしても仕方あるまい。また、依頼された品を探し出し
て安全に送り届けるというような依頼で、注文通りの品がどうしても見つけられないとい
うようなこともあるだろう。
 でも、だからといって山一つ余波で消し飛ばしてしまってはいけないし、ダンジョンの
中に眠るマジックアイテムを探し出して送り届けるという依頼で、注文の品が見つからな
かったからと言って、代替品として自分で製作した怪しげなツボを依頼人に渡した上、不
良品で苦情をもらいまくったなど、あってはならないことだ。
 そして、そんな「あってはならないこと」が立て続けにあったがために、最近常連ズの
借金は雪ダルマ式に増えていってるのだと言う。元々が借金まみれなのに、それを返済す
るための仕事でますます増やして来たというのだから、それを肩代わりしているじゅらい
や、彼等に仕事を斡旋している風舞が怒るのも無理はない。
「でもなー」
 そもそも、私には借金なんて無いのに──「じゅらい亭の良心」と呼ばれている気がし
ないでもない、比較的害の無い常連である風花にとってみれば、今回の措置は納得いかな
いものだった。どうして自分まで? そう思ってしまうのである。
 おまけに……唇をとがらせつつ前へ前へと進む彼女の服装は、いつもとは全然違うもの
だった。魔法使いとしての白いローブから、メイド服にしか見えない格好へと着替え、そ
して背中にはピンクの傘を──否、傘のように見えるライトボウガンを、小さく畳んだ状
態で背負っている。
 その後ろから追いかけていく少年──青バンダナのグラサン小僧、おなじみ魔王ゲンキ
の方はと言えば、革製のライトメイルに、金属板をうろこ状に重ね合わせて繋げた腰甲に
具足という格好である。
 剥き出しの両手は正気を疑われそうな巨大なウォーハンマーを、重そうに引きずって歩
いていた。どうやら自分の体格と腕力を考慮せずに武器を選んでしまったらしい。
 彼は、よたよたずるずる歩きながら、前をすたすたすたすた進んで行く風花に悲痛な声
で呼びかけた。
「ま、待って下さいよ、姫!?」
 が──
「待たない」
 あっさり言うと、風花はまたすたすたすたすたと一人で先に行ってしまう。それを追い
かけてゲンキは重いハンマーを引きずり、やっぱりよたよたずるずると進んで行く。
 かれこれ一時間、こんなことが続いている。
「いやあ、怒ってるダスなあ」
 他人事のように気楽に言ったのは、そんなゲンキのさらに後ろを身軽な格好でついて来
ているボルツ将軍だった。他にも加瀬架などといった別名を持ち、合計で「七つの名前を
持つ男」などと呼ばれている。ちなみにどれが本名かは自分でも忘れているらしい。
 彼の格好はシャツと皮製の手甲。やっぱり皮のベルトにグリーンのジャージというもの
で、足元はブーツ。武器は盗賊らしく(?)金属の片手剣アサシンカリンガである。
 これらの装備は、全て「食材調達」のために、じゅらい亭から貸し出されたものだった。
普段使っている武器は「やりすぎる」可能性を考慮して取り上げられている。異世界とは
言え、人間の文明はあるらしいので、やっぱり借金を背負う可能性はあるのだ。
 そんわけで、それぞれ好きな装備を借りたのだが、さすがにレンタル料を取られること
こそ無かったものの、壊したら弁償しなければならないらしい。というわけで金の無い二
人は比較的安い装備を借りたわけである。
 対して風花のメイド服は、とてつもない高級品である。全損した場合の弁償金はファン
タに換算して三十万だとか。しかも損傷した場合の払いはゲンキとボルツで折半すること
になっている。なんでかとじゅらいに問い詰めたら「風花殿には借金無いしね。かわいそ
うじゃん?」と言われた。反論できない。
「じゅらいさん達もかなりキレてたなあ。やっぱりあれかな? 山一つ消しちゃったのが
まずかったかな?」
「マツタケの名産地だったらしいダス」
「でもほら、次の仕事はきっちりやり遂げたじゃん? そりゃまあ依頼された『全自動洗
濯ツボ』は見つからなかったけど、僕が全く同じ機能のやつを作ったんだしさ」
「暴走して依頼人のオッチャンを吸い込んだ挙句、全身の毛根が死滅するまで洗っちまっ
たダスけどな」
「いいじゃないか、エステいらずで」
「髪の毛まで絶滅したのが問題なんだと思うダスが……っと、まずい」
 ごちゃごちゃ喋っている間にも、風花はどんどん一人で先へ進んで行ってしまっていた。
ゲンキを追い越し、慌てて追いかけるボルツ。よたよたとそれに続くゲンキ。一瞬振り返
ったボルツが心底呆れた表情で言う。
「もうちょっと使いやすい武器を選べダス」
「いやあ、ごっつくてカッコよかったもんで」
 苦笑いしつつ、スピードを速めるゲンキ。
 と──突然、前方を行く風花の足が止まった。そして三人の頭上を行き過ぎる巨大な影。
「や〜っと、出てきましたかね」
 追いついたゲンキは、ため息ひとつ吐き出して、なんとかハンマーを持ち上げた。戦闘
ともなれば、その体に漲る無限の魔力を使い、見かけからでは想像もつかないパワーを生
み出すことが可能なのだ。
 ボルツは剣と盾を構え、ボウガンを組み立てる風花の前に壁として立ちはだかる。
 そんな三人からは少し離れたところに舞い降りる、翼持つモンスター。
 この世界に置いて最小の飛竜──イヤンクック。
 慌てて逃げ出していく、周囲で草を食んでいた草食竜達。ゲンキのサングラスの下に隠
された「千里眼」が、そして内に封印された「もう一人」の存在が、敵の性質を読み取り、
判断する。

 出た結論は──美味しそう。

「ゲンキくんは前衛! ボルツくんは私のガードお願い!!」
『あいさっ!!』
 応えて、まずはゲンキが突っ込んだ!!










 一方──こちらは砂漠地帯。
「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「うひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
 陸棲型としては大型に分類される砂竜ガレオスの、珍味として名高い「砂竜のキモ」を
ゲットするべくやって来た眠兎とCDマンボは、一心不乱に走り続けていた。
 逃げているのである。砂塵を蹴立てて後方に迫る、巨大な顎から。

 その大口の主は、角竜ディアブロス。
 この砂漠の主とも言える、巨大な飛竜である。

 途中までは上手く行っていたのだ。音に弱いというガレオス達を砂の中から引きずり出
すため、CDマンボに歌ってもらい、出てきたところを手早く眠兎がかっ捌く。やはり彼
等もじゅらい亭から支給された装備品で身を固めていたが、眠兎は素手でもめったやたら
と強いし、元々戦闘向きでないCDには、そちらでの活躍は求められていない。
 よって、戦力的には普段となんら変わりない二人であったが、だからと言って、それな
らなんにでも勝てる、というわけではない。

 ぶっちゃけ、こんな巨大なドラゴンと戦うことなど、想定の範囲外だった。

「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「うひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
 悲鳴を上げて突っ走り続ける二人。正確には眠兎がCDを小脇に抱えて一人で爆走して
いるわけだが、さすが伝令神の器を持つじゅらい亭最速の男。それでもグングンとディア
ブロスとの距離を離し、ついには振り切ってしまった。
 念の為、飛竜の目から隠れられそうな岩壁の隙間に身を隠して、ようやく一息つく。
「はあっ、はあっ……た、助かった」
 肩で呼吸しながら、そう言う眠兎の装備は防具がランポスという小型肉食竜の鱗と皮か
ら作った防具一式に、武器が麻痺毒を仕込んだ片手剣のデスパラライズ。ディアブロスの
ような大型竜と戦うには役不足の武装かもしれないが、彼には元々「神」としての能力が
備わっている。戦えば勝てない相手ではなかっただろう。

 一人なら、だが。

 CDマンボの装備は、涼をとれることを最前提においた(つまり露出度の高い)ボーン
セットと呼ばれる動物と竜の骨から作った軽量装備と、持たせておいても(味方に)危険
の無さそうな、ネコの手が先端についた棒切れオモチャ・メラルーツール。
 武器はともかく、何故防具だけでも強力なやつにしなかったのかと言うと、前述した通
りハーフマンボウである彼女にとって、この砂漠の暑さは大敵だからである。今は体温調
節をしてくれるクーラードリンクの効果が効いているからいいが、万が一にでもそれが切
れたら、命取りになりかねない。
 一応、耐暑装備という熱気を遮断してくれる防具もあるにはあったのだが、装備させて
みたところ、重すぎて動けないというので、このボーンセットに落ち着いた。本来なら日
中の砂漠で肌を露出させるこそこそ重度の日焼け症に繋がる厳禁行為なのだが、そのへん
は時魚の作ってくれた特製UVケアクリームとやらのおかげで平気なようだ。
 ともあれ……この後、することはもう決まっていた。
「そろそろ帰ろうかね」
「そうやね」
 眠兎の意見にあっさり同意するCD。食材調達に出たのは自分達だけではない。無理を
する必要はないだろう。なにより、砂竜のキモの他に、草食竜の肉と、食用に出来るサボ
テンも入手してあるから面子は立つはずだ。食材をいくら調達しようと、死んでしまった
ら食べられないのだし、何事も命あってのものだねである。
 二人はしばらくそこで休憩した後、予備のクーラードリンクを飲んで、出発することに
した。じゅらい達の待つ丘へ戻るためのトンネルは、ここからならすぐ近くだ。この世界
の人々の手によって岩山に掘られたという、その「通路」の中にはモンスターも出ないし、
あそこまで行ければ助かる。
「よし、モンスターはいない」
 砂漠では草食竜すら人を見ただけで襲いかかって来るので油断はできないが、基本的に
走るスピードではどのモンスターも眠兎に敵わないようだ。体力も回復した今、いざとな
ればさっきのように、CDを抱えて走ればなんとかなる。
「さ、行きましょう」
「はいは〜い☆」
 眠兎が差し出した手に、ヒトデを飛ばしつつ掴まるCD。
 二人は岩陰から飛び出し、砂漠の出口めがけて走り始めた。
 スピードはCDに合わせているので速くはない。しかしトンネルの入口は本当に目と鼻
の先である。これなら楽勝──そう思った時だった。


 ブワッ!! 風圧で砂が舞い上がり、思わず足を止める眠兎とCDマンボ。
 その目の前に、そいつはゆっくりと巨体を降下させた。
 トンネルの入口を塞ぐように立ちはだかり、凄まじい咆哮を上げる。


 砂漠の女王・リオレイアがそこにいた。










 そして、こちらは火山地帯。
 クレインと火狩が二人並んで岩山を登っていた。
 クレインはフルフルという暗闇の中に棲む飛竜の皮で作られたフルフルセットに、初心
者向けだが、その分、扱いやすいと定評のクロスボウガン改を装備していた。いつもの黒
ずくめの格好とは真逆に、ボウガン以外の部分は白い。
 火狩は胴と腕とにリオレウスの鱗で作ったレウス系防具を装備して、下半身はつがいで
あるリオレイアの鱗から作ったレイア系防具。耳には護りのピアスと呼ばれる守護石をあ
しらったアクセサリーをつけ、武器は火に強いモンスターの徘徊する火山地帯だと言うの
に、よりにもよって火属性の大剣・レッドウイングを担いでいる。彼女自身「火」の属性
を持つ者なので、やはりこうでないと落ち着かないらしい。
 道すがら、二人にはイーオスだのアプケロスだのランゴスタだのが次々と襲いかかって
来たが、片っ端から火狩の剣の一振りで薙ぎ払われていた。属性効果などものともせずに、
単純に剣技と腕力だけでぶちのめしているらしい。
(オレ、出番ないなあ……)
 モンスターが現われる度、ボウガンを構えた時には戦いが終わっているので、ちょっと
さみしげなクレイン。しかしそんな彼の心情には気付かず、隣を行く火狩の方は上機嫌で
ある。
(くふふふふ、今日はヴィシュヌちゃんもいないし、クレインさんをひっとりじめっ!!
やりいっ、ボクってらっきー!!)
 などと、内心ガッツポーズまで取ってたりする。
 余談だが、やたらと巨大で無骨な剣を構えるその姿も、ある意味「ガッツ」ポーズだと
言えるのではないだろうか?(オヤジギャグだよ)
 ともあれ、やがて二人は火山地帯の最奥、噴火口へと辿り着いた。いかなる原理か、溶
岩溜まりから噴き上げた炎は竜巻のような渦を巻きながら、天へ向かってそそり立ってい
る。なかなか壮観な眺めだ。
 だが、あまり悠長に眺めてもいられない。暑さから身を守るクーラードリンクは、各自
残り一本ずつ。ここに来るまでの時間で効果が切れたということはないが、聞いた話では
そう長くは保たないらしい。帰りには重い荷物が増えることを考えると、周辺一帯の熱気
の中心であるこの場所からは、なるべく早く離れたかった。

 二人に与えられた役目は、他の常連達とはちょっと違った。
 彼等の役目は、調理に使う燃料の確保なのである。

 じゅらい亭のキッチンでならツマミをひねるだけでコンロから火が出るが、野外で調理
となるとそうもいかない。もちろん野外調理用の設備というのもあるらしいのだが、今回
風舞は、徹底的に出費を節約する方向でプランを立てた。
 つまり、燃料代も浮かすつもりで。
 と言っても、最初は焚き木でも拾ってきて燃やすはずだったようだ。しかし焚き木拾い
を始めようかと彼女達看板娘が森の中へ入ろうとした途端、調理役の一人であるゲンキが
タダをこねはじめたのである。そこらの森で拾える焚き木程度を燃やして得られる火力で
は、彼にとっては不足だと言うのだ。
 ならばと近くの村で聞き込みしたところ、この火山地帯には火力が高レベルで安定した
まま長時間燃え続けるという、まさに理想の燃料があるらしい。そこに時魚の「研究材料
にしてみたい」という一言も加わり、急遽燃料調達チームが編成されたわけである。
 火山地帯は危険がいっぱい!! ということで、チームには他の常連も何人か振り分け
られているのだが、この広い場所から目的の物を探し出すのに固まって行動していても意
味が無い──という火狩の主張が通り、今は分散して行動中。何か自分達だけではどうに
もならない危険に出くわしたら、けむり玉で狼煙を上げて合図し、何事もなければ指定し
た時間にあらかじめ決めておいた集合地点へ集まる、ということにしてある。
 今のところ、狼煙は一本も上がっていない。たしかにここはモンスターだらけだが、そ
もそもじゅらい亭常連からしてモンスターの一種である(ぇー) そう簡単にピンチに陥
るようなこともあるまい。
「じゃあ、とりあえず、ここ掘ってみようか」
「そだね、よいしょっと」
 言って、武器を地面に下ろし、代わりにピッケルを構える二人。この辺りで採れる燃料
とは、石炭のような石らしい。
 がつんとピッケルを振り下ろしつつ、クレインはボヤく。
「なんとな〜く、こういうのは、えーちゃんあたりの仕事のような気がするなあ」
「アレースさんは沼地とかいうところに行ったらしいよ」
「へ〜」
 がっつんがっつん。会話をしながらも、硬く尖ったピッケルで岩を叩きまくる二人。
 だが、彼等は気付いていなかった。

 それが岩のようでいて、決して岩ではないことを。
 掘るべき場所を間違えて、掘ってはならないものに手を出しているということに。

 火口の底で眠っていた、白銀の巨竜が目を覚ます。
 がつんがつんという音に、いまだ孵らぬ我が子の卵に迫った危機を察して──
 鎧竜グラビモスが立ち上がった。










 そして沼地。
 アレースはスリーマンセルのチームの一員として、この場所に来ていた。
 が……問題がある。
 果たしてこの編成は「スリーマン」と言えるのだろうか?

 アレース、WB、ぴぃ。
 人! 犬! 犬!! である。

「不公平だ……」
 今さらだが、がっくりと膝をついてうなだれる。
 みんな人間(っぽい生き物含む)同士で組んでるのに、どうして自分だけ仲間がム○ゴ
ロウの動物王国なのだろう? しかも犬オンリー。どちらかと言えば彼は鳥の方が好きな
のに(味の話だったりするが)
 まあ、理由が無いわけでもない。この沼地はあちこちに様々なキノコが生えた、いわば
キノコの楽園といったところらしいのだ。
 しかしながら、場所は異世界。キノコの種類も元いた世界とは全く異なるため、食用か
否かを見極めるのは、人間の感覚では難しい。
 そこで、ニオイでキノコの位置も探し出せるし、危険度も嗅ぎ分けられるぴぃとWBの
出番となったわけである。
 アレースは、そんな二人(?)の護衛役ということだ。
 現地の村人の話では、洞窟にさえ入らなければ、沼地にはそれほど危険な生き物は生息
していないらしい。実際さっきから出会うのは一刀の元に切り捨てられるザコばかりだっ
たりするので、話は本当のようだ。
 ちなみにアレースは、鋼鉄の大剣バスターソード改とゲネポスの鱗から作ったゲネポス
セットを装備していた。この沼地にいるモンスターで最も厄介なのは毒を吐き出すイーオ
スと、爪や牙に即効性の麻痺毒が仕込まれているゲネポスというモンスターらしい。イー
オスの毒は浴びても解毒薬を飲めば平気だというので、防具は麻痺毒を防げるゲネポス系
防具で固めることにしたのだ。
 残念ながら、ぴぃとWBは何も装備していない。さすがに犬用武器や防具といったもの
は用意されていなったらしい。
「わふん! あっちからマツタケもどきのニオイがしますよ!!」
「おおうっ、この濃厚な香りからして、十本はありそうだぞ!!」
 口々に言って、駆け出していく二人(?)。マツタケモドキというのは彼等が勝手につ
けた名前で、地元では特産キノコと呼ばれているものらしい。実際味も香りもマツタケに
良く似ていた。見かけはけっこう違うのだが。
「んじゃ、それ採ったら帰ろうか」
 アレースの言葉に同時に振り向いて「わふん」と答えるぴぃとWB。アレースは左手に
大の大人でも膝を抱えて入ればまるごと収まりそうな巨大なカゴを携えていた。中にはす
でに食べられるキノコがぎっしり詰まっている。途中で倒したモンスター達の肉も剥ぎ取
ろうかと思ったのだが、イーオスやゲネポスは肉食な上、人間も襲って食うということな
のでさすがにやめておいた。
 ケルビとかいう鹿に良く似た草食動物もいるらしいのだが、今のところ一頭も見かけて
はいない。

 と──突然、妙な視線を感じてアレースは後ろを振り返った。

「ッ!?」
 だが、そこには何もいない。
 気のせいか……? 首をかしげた直後、しかし、今度は頭上で奇妙な鳴き声が上がった。
「なんだ!?」
 見上げたアレースの上を、丸いシルエットの巨体が通り過ぎて行く。それは弧を描くよ
うに旋回しながら、なおも奇怪な声で鳴き続けた。
「わふん!」
「やばそうなニオイがするねっ」
 戻って来たWBとぴぃが次々に吠え立てる。その視線の先に降り立ったのは、一羽の怪
鳥だった。発光するトサカ。ずんぐりむっくりの体型。翼には、羽毛の代わりに黒い鱗と
ゴム質の皮膚。
 その名はゲリョス。沼地の毒怪鳥と呼ばれる飛竜である。










  突然、風舞が言った。
「本当に良かったの? じゅらい君」
「無論でござる」
 丘の上からパーティーの準備風景を眺め渡しつつ、じゅらいはにこやかに頷く。
 実を言えば、今回の企画の発案は彼だったのだ。
「タダメシ食わせたりすれば、みんなはいつしかそれが当たり前のように思ってしまうか
もしれないでござろう。それでなくとも最近は調子に乗ってあれこれやらかしてくれてる
のに……暴走したり借金したりが当然と考えるような輩がいたりもする。元々はそれを抑
止するための借金でござったが、最近は効き目が薄れてる様子。ならばこうして自分達が
負債者であるということを再確認させ、返済への意欲を取り戻すことで、自浄努力を促す
のが最良でござろう」
「まあ、そうかもしれないけれど……」
 成功を確信しているかのようなじゅらいの物言いに、風舞は不安を覚えるのだ。
 あの常連達が、本当に、そんな計算通り≠ノ動いてくれるだろうか──と。










 最初の一撃を打ち込んだのは、ゲンキではなくクックの方だった。
「へぶるわっ!?」
 長い尻尾で弾き飛ばされ、あっさりボルツ達の前まで戻されて来るゲンキ。
 ボルツは、その背中をブーツの底で受け止めてやると、敵を指差し叱咤した。
「戻るな!! 行け!!」
「おうよっ!!」
 言われた通り、ハンマー構えてめげずに突っ込んで行くゲンキ。
 そして再びしっぽで叩かれ押し戻されて来た。

 ごろごろごろ、がばり!!

「あいつ強いぞ!?」
 さすがは不死身、あっさり起き上がって言うのだが──
「んなこたわかってる、行け!!」
 またまた蹴りだされて、ハンマー構えて突っ込んでいくゲンキ。
「チクショォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
 いつもこんな役回りだっ!!
 心の叫びを迸らせながら、三度目の正直とばかり、尻尾が当たる直前で横へ回避する。
そこへ、最高のタイミングで風花のボウガンから貫通弾が撃ち出された!
 尻尾を振って後ろを向いていたクックの尻にヒット!!
「クエエエエエエエエッ!!」
 当たりどころが悪かったのか、ひどく痛かったらしく、いきなり口から火を吐きつつ激
怒する怪鳥。口から火を吐き出しながら、ぴょんこぴょんこと飛び跳ねるその足にパワー
を溜めたゲンキが接近して行き──
「うおらあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
 ボル○ォッグの大回転魔弾も真っ青な回転攻撃!!
 続けて勢いを殺さぬままに、その巨大な鉄塊を頭上に振り上げる!!
「ホームラーーーーーーーーン!!」
 ゲンキの気合の声に応えるように、カキーンという音が、現実に鳴り響いた。
 クックの大事なところ≠ノ直撃したからである。
 叩いたゲンキや、離れた場所にいたボルツまでもがあまりのことにフリーズする中、怒
り状態でジタバタすることも忘れ、涙目で硬直するクックに──
 風花の撃ち放った、貫通弾が直撃した!!




 身を低くして突撃して来たリオレイアのタックルを、とっさにCDマンボを抱えた眠兎
は、すんでのところでかわしてのける。
 そして、そのままトンネルに突っ込もうとしたところを──
「がはっ!?」
 左右に大きく揺れていた長大な尻尾に打ち据えられ、岩壁に叩き付けられた!
「眠兎さん!?」
「だ、大丈夫……」
 そう答えはするものの、実際かなりのダメージである。対してCDは無傷に近い。彼女
への直撃を阻止するため、尾が当たる直前、その体だけを上に放り投げたのだ。下は砂地。
それなりの高さから落下したとは言え、彼女はピンピンしているようだ。
 しかし、無防備な体勢で受けた眠兎は無事とはいかない。
 元々、スピードはあっても、耐久力のある方ではない──これはかなりの深手だった。
「と、とりあえず、先に逃げて……!!」
「そんな!?」
 トンネルの入口は目前。震える足で立ち上がりながら指示する眠兎に、しかしCDはな
かなか動こうとはしなかった。
 まずい──視線を逆方向に移動させれば、突撃することをやめたリオレイアが振り返り、
その眼差しを彼ではなく、CDの方に向けていた。
 巨大な顎が開き、その奥に赤い炎が揺らめき始める。
 竜族の十八番、ファイアー・ブレス!!
「すぐに行くから、早く……!!」
 今危険なのは自分ではなくCDの方だ。深手を負ったとは言え、眠兎は神の器を持つ者。
そう簡単にやられはしない。
 しかしCDはそれを理解してないのか、なかなか動き出そうとはせず──
 巨大な衝撃が、大地を揺らした。




「くっ……なんてやつ!!」
 突然現われた白銀の竜に斬りかかった火狩は、その体のあまりの硬さに顔をしかめた。
手がジンジンと痺れている。甲殻の隙間を狙って刃を打ち込んだはずなのに、それでも剣
が弾き返されてしまったのだ。
「ええい、一旦逃げるぞ、火狩ちゃん!! ここじゃ戦い辛い!!」
 クレインの指示に応え、一旦彼の近くまで戻って来る火狩。人の歩ける火口の外縁部分
は狭く、炎の竜巻の中から攻撃を仕掛けてくる巨大な竜と立ち回るには不利な条件だ。す
ぐさま二人は元来た道を取って返し、岩山を下り始めた。
 それを追って、巨竜グラビモスもまた、羽ばたく。
 信じられないほど大きな巨体が空に舞い上がり──やがて、山から下りて来たばかりの
二人の目の前へと降り立った。
「んなっ!?」
 体型からして陸上をテリトリーとしていそうなグラビモスが、まさか飛び上がるとは思
わなかったのだろう。驚きの声を上げるクレイン。
 だが、彼も火狩もプロの冒険者。事実を受け止め、思考を切り替えるのは素早かった。
「火狩ちゃん、援護する!! 足元を狙って攻撃を仕掛けるんだ!!」
「わかった!!」
 ボウガンを構えるクレインと、大剣を手に駆けて行く火狩。接近を阻もうとグラビモス
が動き出すが、クレインはその顔めがけて通常弾を連射。気をひきつつ、視線を火狩から
遠ざけるように移動し、安全な距離でリロードしながら、煙玉を取り出した。
「みんな──来てくれ!!」
 一条の狼煙が上がり、それと同時に、グラビモスの口から、彼に向かってオレンジ色の
レーザーブレスが吐き出された。




「くっそおおおおおおおっ、だまされたーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 毒吐く巨体に追いかけられながら、アレースは叫ぶ。背負ったカゴからキノコがポロポ
ロこぼれ落ちているが、今はそれを気にしている場合ではない。
 ゲリョスは問答無用で襲いかかって来た。アレースとしては必要な食材を手に入れた以
上、無駄な戦いをするつもりはなかったのだが、これが意外や意外。かなり素早い。
 そこで、やむなく剣を抜いて反撃を試みたのだが、その一発目がたまたま会心の一撃と
なり、結果──こういうことになった。
「うおわあっ!?」
 足元めがけて飛んできた毒の塊を、危ういところでジャンプしてかわすアレース。解毒
薬は持っているが、これがイーオスの毒と同じ性質だとは限らない。まして薬の数には限
りがあるというのに、ゲリョスの吐き出す毒は無尽蔵──とは言わないまでも、相当な蓄
えがあるようだった。かれこれ二十発は吐き出されているが、いまだに尽きる様子が無い。
 ちなみに「だまされた」とは、沼地について教えてくれた村人、というか村長のことで
ある。彼は言った。洞窟にさえ入らなければ、沼地にはさほど危険なモンスターはいない
と。たしかに、はっきり。

 が。

 気になるところはあったのだ。何故だか話を聞いてる最中にも、そして話が終わった後
にも、しきりに村長は「ウーン、ウ〜……ン?」と唸っていたから。もしかして何か伝え
忘れてることがあるんじゃないかなーとは思っていた。
 それが、よりにもよって、こんなことだったとは!! ゲリョスに追いかけられながら、
後で絶対村長のこともしばき倒してやると、アレースは心に固く誓った。
「ともあれ、そろそろ反撃だっ!!」
 なおもしばらく走った後、突然にアレースは振り返り、再び剣を抜き放った。
 その背後では、ゲリョスがゼェゼェと息を吐いて、苦しげによたついている。アレース
はタフさだけで言えば、じゅらい亭でも一・二を争う冒険者。某ゲーム風に表現するなら
スタミナ数値は十万とんで百五十!! その彼と「かけっこ」などという体力勝負をした
ことが、そもそも間違っていたのだ。
「今だぜ、二人(?)とも!!」
 その彼の言葉と共に、今まで草陰に隠れていたぴぃとWBが飛び出した。
 二人(?)とも、口には導火線に火のついた小タル爆弾をくわえている。彼等はそれを
よたつくゲリョスの足元に、左右から駆け抜けざまに置き去りにして──

 閃光。そして爆発。

「わふん!」
「どんなもんだいっ!!」
「よっしゃあ!」
 足へのダメージで倒れこむゲリョス。そこへアレースが斬りかかった!!




 突然、風花がそれに襲われたのは、クックに貫通弾を撃ち込んだ直後だった。
「きゃあ!?」
「な、なにっ!?」
 慌てて振り返ったボルツの目に飛び込んできたのは、体色の青い小型のモンスターにの
しかかられ、その牙と爪との攻撃をボウガンでなんとか防いでいる彼女の姿だった。
「くっ、なんだこいつ!!」
 小型とは言っても、それはクックなどと比べた場合で、体長は人間の大人以上に大きい。
細身だが、その力は間違いなく人間以上だろう。
 が──とりあえず、牽制だけでも出来ればいい。ボルツは湾曲する刃の切っ先を器用に
使って、モンスターの首筋めがけて突きを放った。すんでのところで気付いた相手は風花
から離れ、こちらに向かって威嚇の雄叫びを上げる。
 森のハンター、ランポス。肉食で獰猛。家畜だけでなく時には人間をも襲い、喰らって
しまう凶悪な小型竜。
 その習性は──群れでの狩り!
 声は四方八方からした。
「なっ!?」

 ざん、ざんっという複数の足音にボルツが振り返れば、そこには新たに現われた四匹の
ランポス。彼の手を借りた風花の視線の先には、最初の一匹の後ろから静かに駆け寄って
来る、やはり新たな二匹の姿。
 どうやら、さっきのは威嚇の雄叫びではなく、獲物を見つけたことを仲間に報せる合図
だったらしい。

 そして──忘れかけていたイヤンクックの怒りの咆哮が、ランポス達の声を掻き消した。
「うぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 見れば、硬直の解けたクックのクチバシによる連打に、ゲンキが眼前に構えたハンマー
ごとつっつき回されているところだった。あの様子ではこちらに助けに来ることは出来そ
うにないし、こちらから助けを出すことも出来ない。
「どうしたもんダスかね……」
「物語だと、ここで助けが入るんだろうけどね……」
 じりじりと包囲の輪をせばめて来る七匹のランポス。背中合わせにそれと対峙しながら、
ボルツと風花は囁き合い──
 跳びかかって来た一匹を、風花が通常弾で打ち落としたのをキッカケに、残りの敵全て
が二人に向かって殺到した!!




 それが幸か不幸かを、瞬時には計りかねた。
 CDに向かってファイアー・ブレスが吐き出されようとした瞬間──リオレイアに体当
たりをかましてくれたのは、先程二人を追いかけて来た、あの角竜ディアブロスだったか
らである。

 二匹の咆哮と巨体がもつれ合い、牙が、角が、尾が互いを打ちのめそうとせめぎ合う。

 これは──幸運だ。眠兎はそう判断した。
「眠兎さん!!」
 駆け寄って来たCDに肩を貸してもらいながら、彼は弱々しい声で呟く。
「今……だ。逃、げよう」
「うんっ!!」
 そして二人は再び砂漠の出口であるトンネルへ向かって動き出した。
 と言っても、落下した時に足でも挫いたのか、CDマンボの歩調はぎこちなく、眠兎は
リオレイアの尾の直撃を受けたダメージで、元々走れる状態にない。
 ゆっくり、ゆっくり二人は出口へ向かって近づいて行く。
 だが、その手前までやって来たところで──竜達の戦いに決着がついてしまった。

 大地を揺るがし、リオレイアが倒れる。
 その腹には、ディアブロスの角が一本、折れたまま深々と突き刺さっていた。
 勝利した角竜は、一度大きく天に向かって咆えた後──視線を、逃げようとする獲物へ
と向ける。

「まず、ぃ……!!」
 傷の痛みをこらえながら、眠兎は強引に歩くスピードを速めた。
 CDも必死で足を動かす。
 そんな二人に、横からドスンドスンという重い足音を立てて迫って来るディアブロス。
 牙が、眠兎の体に届きかけた──直前!!

 CDマンボが悲鳴を上げた!!

 途端に、ディアブロスは足を止め、体を上に向かってのけぞらせながら硬直した。
『ォォォォォォォォォォォォォォォン……』
 苦しげな咆哮。ディアブロスは危機を感じたりした場合、ガレオス達と同じように地中
に潜って活動出来る竜なのだ。そのため、地中から地上の様子を探るために、聴覚が発達
している。
 そこに、人間でも気絶するほどの強烈なCDの悲鳴!! たまったものではなかったの
だろう。ディアブロスは慌てて地中に潜り、そのままいずこかへと逃げ去って行った。
 呆然と、その遠ざかる気配を見送り──眠兎は呟く。
「た、助かった……」
 彼の場合は長いことじゅらい亭常連やってるおかげで、いくらかCDの悲鳴には耐性が
ついていた。全く平気というわけではないが、気を失うほどではない。
「あー、こわかった」
 と、言葉とは裏腹に、どこかのほほんとした調子で胸を撫で下ろすCD。その声に眠兎
は苦笑しつつ、顔を上げた。
「ははっ、とにかく、帰りましょう」
「そうやね〜☆」
 そして二人は、よたよたと歩いて、トンネルの中へと入り──しばらく進んだところで、
少し休憩することにした。
 この辺りの石には発光性の物質が含まれているらしく、中はそれほど暗くない。並んで
壁際に腰かけた途端、CDが話しかけて来た。
「眠兎さん、大丈夫?」
「うん、平気」
 答える彼の言葉は、今度は強がりではなかった。
 ゲンキのような理不尽な不死性というわけではないが、眠兎にもそれなりに人間離れし
た回復力がある。ダメージは、少し無理をすれば走り回れる程度には回復していた。
「この鎧のおかげだね」
 ひしゃげて壊れた胴の部分は呼吸が圧迫されるので脱ぎ捨て、笑う眠兎。普段は機動力
重視なのでこういったものは身に付けない主義だが、なるほど、防具でガチガチに身を固
める人間の気持ちというのも少しわかった。
 むしろ、今となってはCDの足の方が問題である。
「大丈夫?」
「うん、ちょっといたいけど、へーき」
 その「ちょっといたい」のが問題なんだけどな……眉をしかめて、傷の具合を確かめる
眠兎。幸い骨は無事なようだが、やはり捻挫している。しばらく走ったりするのは無理だ
ろう。
 そのことを伝えて、しばらく静かに息を整えてから──眠兎は、おもむろに立ち上がっ
た。そして、同じく立ち上がろうとしたCDの前に背中を向けてしゃがみ込み、言う。
「その足じゃ歩かない方がいいよ。背中に乗って」
「わーい、ありがとう☆」
 てっきり「いいよー」とか言ってごねられるかと思ったが、案外素直に背中におぶさっ
てくるマンボウ。細い腕で首根っこにしがみつかれながら眠兎は再び立ち上がった。壊れ
た鎧は──弁償代が発生するのは痛いが、置いて行くしかあるまい。食材だって持ち帰ら
なければならないのだ。
 その食材の入ったズタ袋はCDが持つことにして、彼女と、結局ズタ袋の分の重さも背
負っていることになる眠兎は、ゆっくり歩き出した。

 そして──立ち止まる。

「どしたの?」
 問いかけるCDマンボには答えず、耳を澄ます眠兎。
 トンネルは奥へ行くほど広く高くなっていた。入口が狭かったのは、大型モンスターの
侵入を防止するためだろう。
 だが、その入口にしても大人が立って歩けるほどの大きさはあった。ならば小型のモン
スターくらいは入り込んでいてもおかしくはない。

 トコトコトコトコ。

 文字にするとコミカルな感すらある足音が、次第にこちらに近付いて来る。CDもそれ
に気付いたのか、不安げに呟いた。
「なんやろ……?」
「わからん……」
 入口より広くなったとは言っても、高さは五メートル。幅はその倍あるか無いかという
程度。眠兎はもうほとんど回復しているが、それでもCDマンボと大量の食材を背負って
出せるスピードには限りがある。
 一旦彼女と荷物を下ろして戦うにしても、何が来るかすらわからない現状では判断しづ
らい。逃げるか、戦うか? せめて姿が見えれば──対応を決められず、正面の薄暗がり
に目を凝らしていた眠兎は、しかし数瞬の後──ぞっとするような悪寒を覚えて、その場
から前方へと跳んだ。途端、今まで彼等の立っていた場所に立ち上る白煙。
「!? 上かっ」
 叫び、見上げてみれば、そこには──闇に棲む不気味な飛竜・フルフルが天井にへばり
つき、二人を見下ろしていた。




 火狩は「善戦」していた。
 B.E.P.S.と呼ばれる「神の器を有する生体兵器」だった彼女には、本来ならいかな巨大
竜とて敵ではない。
 しかし、他者を庇いながらの戦いとなると──それは彼女にとって、未知の領域だった。
「クレインさん!」
 背後に彼を庇いつつ、剣を振る火狩の呼びかけに、答えは返って来ない。
 クレインはグラビモスの放ったレーザーブレスの直撃を受け、倒れていた。死んではい
ないようだが、意識を失っている。当然、ダメージも浅くはない。
「くっ!?」
 巨竜の牙を、爪を、剣で弾き返しながら火狩は考えた。
 目的の燃料は手に入れられていないが、このままでは自分はともかくクレインが危ない。
ここは一旦退くべきだ……そう結論を下すのに、時間はかからなかった。
「クレインさん、ちょっとガマンしてね!!」
 言って、振り回された尾を弾き、一瞬相手に隙が出来たところを狙って、倒れているク
レインの襟首を掴む火狩。
 そのまま彼の体を引きずるようにしてダッシュをかける。尻尾で攻撃したグラビモスは
当然こちらに背を向けており、そこから振り返ろうとするが、その視界の外へ外へと逃れ
るようにして回り込んで行く。
 やがて、巨竜の目が完全に元の方向を向いた時には、火狩はその後方に回り込んでいた。
二人の姿を見失い、敵が戸惑っている間にクレインの体を肩に担ぎ直し、再び走り出す。

 ──!!

 グラビモスの視線がこちらを向いた。だがその時にはもう、火狩は「安全地帯」へと逃
れていた。周囲には火山から流れ出したのだろう、赤く燃える溶岩の川が蛇のように蛇行
しながら流れており、彼女の今いる場所は、そんな「境界線」を数本またいだ向こう側だ。
空を飛べるにしても、あの巨竜が降り立つには、この辺りでは足場が狭い。まして地上を
追って来ることなど──

(って、ダメだよ!?)

 あの巨竜は、そもそも「火口の中」から出て来たのだ──その事実を思い出し、火狩は
慌てて走る速度を上げた。その視線の先でグラビモスは身を屈め、グッと力を溜めたかと
思うと──次の瞬間、溶岩流をものともせずに、逃げる少女を追いかけ始めた。




「ふう」
 やり合ってみれば、意外に楽な相手だった。
 地に巨体を横たえたゲリョスを眺め、アレースは安堵のため息を吐く。
 あの後──爆発のダメージと爆圧とで倒れたゲリョスの首筋に、アレースは手にした大
剣で力任せの一刀を叩き込み、それだけで決着はついてしまった。
「こいつの肉は美味いかな?」
 近付いて来て、そう問いかけたぴぃの言葉に、アレースは「毒のある生き物はたいてい
美味いらしいぜ」と答えようとして──吹っ飛ばされた。
「ッ!?」
 声にならない声をあげて、宙を舞う。
 突然のことに混乱したか、吠え立てて逃げ出そうとするぴぃとWBに、しかし羽ばたき
の風圧で足止めをかけながら、そいつはあっさり立ち上がる。

 嬉しげに、ぴょんぴょんと飛び跳ねる毒怪鳥が。

 大きな音を立てて、ぬかるみに落下したアレースは、体勢を立て直しながら毒づいた。
「ックショゥ、死んだフリかよ!?」
『クエッ!!』
 小馬鹿にするように一声鳴いて、そいつは肩口からタックルをかけた。目標はアレース
ではなく──ぴぃとWB!!
「きゃいん!?」
「ぐえっ」
 悲鳴を上げて吹っ飛ばされる二人(?)
 それだけでもう、彼等は戦力ではなくなったと確信したのだろう。ゲリョスは再びアレ
ースの方へと目を向けた。
「上等だ!!」
 怒りで頭に血を上らせて、正面から突っ込んで行くアレース。しかしそれはゲリョスに
とって格好の標的だった。頭のトサカが怪しく光り輝き──突然、目を眩ます強烈な閃光
を発した!
「うあっ!?」
 反射的に目を閉じたが、遅かった。目を灼かれ、動きの止まった彼の体に、トドメとば
かり今度こそ──

 毒の塊が直撃した。










 怒り狂ったクックの猛攻は「怒涛の」という表現がまさに相応しかった。
「くううううううっ!?」
 ハンマーを両手で顔の前に持ち上げ、クチバシによる立て続けのついばみ攻撃を受け切
る。だがそこから反撃に転じるより早く──鞭のようにしなる尾が、ゲンキの胴体を捉え、
横殴りに吹っ飛ばした。
 普通の人間なら、ここで意識が飛ぶだろう。だが彼にとっては、この程度のダメージは
日常的。素早く身を起こし、今度こそ反撃に転じようとして──さらに、追撃のファイア
ー・ブレスに直撃され、火ダルマになって吹き飛んだ。

 炎というのはヤバイ。

 打撃や斬撃で受けた傷ならすぐさま回復するが、火は燃え続けている限り肉体を破壊す
る。吹っ飛んで転げ回ったおかげでいくらか消火されたが、右腕にまだ炎は燃え残ってい
た。回復する端から肉が焼けただれていく。
 ──即座に、素材の剥ぎ取り用に支給されたナイフを使って、その腕を自ら斬り落とし
た。そして新たに生え出す右腕。

 驚いたのか、それを見たクックが硬直する。

「悪いけど、こういう体なんでね、そう簡単にはやられないぞ」
 ニヤリと笑って立ち上がるゲンキ。
 その時、クックの向こうでは、跳び上がったランポスを風花の放った弾丸が撃ち落とし
たところだった。そこに生じた隙を突いて、二人は包囲を脱出する。
 とはいえ撃たれたランポスも、その一発だけでは息絶えないらしい。次々と襲いかかる
モンスター。逃げつつ応戦する二人。助け船を出したいところだが、こちらも手一杯。ま
してあの逃げ方……あのランポス達がこちらに来るのを防いでくれているらしい。という
ことはつまり、こっちのデカブツはこちらに任されたということだ。
「任されたからには、なんとかしますか」
 魔法を使えば簡単に片付くだろうが、なにせ手加減というものが苦手なので、この位置
関係でそれをやってしまうと味方も巻き込むかもしれない。
(なら、なんとかこいつで……)
 姿勢を低く、腰を落として、ハンマーを腰だめに構える。
 クックは威嚇か、それとも己を高揚させるための儀式のようなものか──長い鳴き声を
上げた後、真正面からこちらを睨み付けた。

 実に良い性格の飛竜だ……ゲンキはニヤリと笑う。
 どうやら互いに、同じことを考えているらしい。

 小手調べなし。小細工なし。考えなし!!
 一撃必殺必勝狙い──力と力の、真っ向勝負だ!!
「来いッ!!」
 パワーブーストのための魔力が一瞬、ゲンキの体を青く輝かせた。
 クックはクチバシの隙間からチロチロと炎を吐き出しつつ、足場をならして──次の瞬
間、ファイアー・ブレスを連打しながら突撃して来た!!




 またしても、眠兎達は逃げることを余儀なくされた。
 その後を、暗闇の飛竜フルフルは、あの「トコトコトコ」という足音を立てながら追い
かけて来る。

 天井にへばりついた、そのままで。

 逃げなければいけない理由はこれである。天井までの高さは今では七メートル以上。い
くら眠兎でも、CDと食材を背負ったまま跳躍して届く高さではない。かといって彼女と
荷物を地面に下ろして戦ったとしても、彼を無視して、足を挫いたCDの方を狙われてし
まえばまずいことになる。
 幸いなのは、砂漠の方に追い立てられなかったことだ。体はほとんど回復している。相
手の足もさほど速くはない。このまま逃げ切れば無事に脱出できるはずだ。

 が──やはり何事も、そう上手くはいかないものらしい。

「眠兎さん、あれ!」
「げげっ!?」
 前方に、もう一匹フルフルが現われた。そいつはこちらに気付くと、四肢を床について
しゃがみこみ──
「やばっ!?」
 咄嗟に、眠兎は壁を蹴って三角飛びの要領で上に跳んだ。その足元を前方のフルフルが
放ったプラズマ・ブレスが通り過ぎて行く。

 ヴルアッ!!

 後方から追いかけてきたフルフルが、吠えると同時に天井から首を伸ばし、空中の二人
に噛みつきを仕掛ける。
「ひあああああああああああああっ!?」
 CDが悲鳴を上げるが、相手は怯む様子も見せない──音ではなく、ニオイでこちらの
位置を探っている!?
「くそっ!!」
 抜刀し、その勢いで強引に空中での姿勢変更をしながら、眠兎はその刃を敵の口に放
り込んだ=I!

 ガギッ!

 今度こそ、フルフルは悲鳴を上げてのたうち回る。口の中で剣がつっかえ棒になってし
まい、せっかくの獲物を喰らいそこねたのだ。
 その唇に蹴りを叩き込んだ眠兎は、勢いを利用して前方のフルフルの背中に飛び乗ると、
すかさずダッシュをかけて跳び降りた。

 ジュバッ!!

 一瞬遅れてフルフルの体がスパークを放つ。危ないところだった。
「大丈夫かいCDさん!?」
「あ、ぁ〜い」
 予想通り、返って来た声は間延びしていた──今のけっこう無茶な機動のせいで、目を
回してしまったらしい。
 だが、だからと言って休憩させている場合ではない。
「来る時はなんにもいなかったのに、どうなってんだ!?」
 悲鳴を上げる眠兎の目の前で、次から次へと新たなフルフルが顔を出し始めた。
 それをなんとかいなし、あるいはかわして突っ切りながら、CDを背負って走り続ける
眠兎。

 おそらくは、ここを通って砂漠に行った時、フルフル達は眠っていたのだろう。それが、
採れ立ての砂竜のキモから漂う血臭を嗅ぎつけて、目を覚ましたのだ。
 村人達がこのトンネルにモンスターがいることを知らなかったのは、最近になってフル
フルが棲みついたからに違いない。戻ったらこのことを報告しなければ。

(ともあれ、逃げ切れるか!?)
 もう前方には敵影はない。だが後方から迫って来る足音は今や「トコトコ」から「ドス
ドス」に代わっている。一体何匹現われたのやら──焦る眠兎の行く手に、しかしその時、
光が見え始めた。
(出口!!)
「眠兎さん、出口や!!」
 指差すCD。それには答えず、代わりに速度を上げる眠兎。
 やがてその光が目前へと迫った時──

 ゴガラッ!!
「なっ!?」
「え──」

 突然、音を立てて地面が崩れ──二人は、地下の空洞へと落下して行った。




「プロテクト・シェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーードッ!!」
 突然──火狩とグラビモスの間に割り込んで来た人影は、気合の声と共に構えた巨大な
盾で、巨竜の突進を受け止めてしまった。盾の前の空間が一瞬、波打つように揺れる。
「レジェさん!?」
「否、今の私はレジェレジェガーだ!!」
 答えた彼、レジェンドは黒い重甲冑と長大なランスとで武装していた。レウスキャップ、
タロスメイル、ディアブロアーム、ドラゴンウイング、ドラゴンフット、そしてガトリン
グランスである。
 レジェ──もといレジェレジェガーは、グラビモスと対峙し、火狩に背中を向けたまま
で言葉を続けた。
「行きなさい! ここは私と彼等で引き受けた!!」
「かれら!?」
 驚いて、気配を察した火狩が頭上を見上げると、黒く曇った空の彼方から金色の光が舞
い降りてくるところだった。
 その光から放たれた、無数の弾丸が雨となってグラビモスに降り注ぐ!!


 ズドドドドドドドドドドドド!!


 巨竜の悲鳴。その岩の鱗に突き刺さった弾丸は、数瞬の間を置いて、次々と爆発する!
「す、すごい!!」
「さあ、クレインさんを連れて逃げて!!」
 頭上から火狩に声をかけたのは、金色の巨鳥に変化した幾也の背中に跨り、ライトボウ
ガン鬼ヶ島を構えるルネアだった。グラビモスはそんな彼等を見上げてレーザー・ブレス
を浴びせかけようとするが、幾也は巧みにそれを避けて飛び回る。


 そして──またも突然、グラビモスの腹の下で、大爆発が起こった!!

「忍法、逆微塵隠れ!!」
「ですのっ♪」
 爆風に乗って、地面の下から飛び出して来る忍者と妖精。星忍とスターティだ。
「さあ、行くんだ!!」
 レジェンドに促されて、火狩はわずかに迷った後──頷いた。
「ありがと! クレインさんを置いてきたら、また戻って来るよ!!」
「ふっ、それまでに倒してしまっても構わんのだろう!?」
 これが言いたかったんだ!! と言わんばかりの笑顔を浮かべて飛び回る幾也。その背
中から立て続けに銃撃を放つソァラ。
「がんばって!!」
 言うなり火狩は気を失っているクレインを抱えて走り出した。
 その背中を見送り、レジェンドと星忍は正面から巨竜と相対する。
 グラビモスの方も、とりあえず潰しやすい方からなんとかしようと思ったのか、地上の
彼等に視線を戻した。その目に凄まじい殺気が宿る。
 臆さず槍を構えるレジェ。
「我等スリージェイ機動部隊!!」
「参るでゴザる!!」
「ざるざるっ♪」
 星忍が土遁の術で地中にもぐり、スターティが避難のために天へと舞い上がり──空間
湾曲+シールドによるレジェンドの絶対防御が、グラビモスのレーザー・ブレスを受け止
めた!!




 毒ブレスの直撃を受けた衝撃で、混濁しかけていた意識はかえってハッキリした。
 転がり、立ち上がって顔を上げると、視界はいまだ閃光のダメージから回復出来ずに真
っ白なままだった。それでも適当に見当をつけて横に跳んだ直後、すぐそばを疾風と共に
プレッシャーが駆け抜けて行く。ゲリョスのフライング体当たりを避けられたらしい。

 そして──聞こえて来るのは、ゲリョスの悲鳴と仲間の雄叫び!!

「ケアッケアッゲアーーーーーーーーーーーーッ!?」
「わふわふっわふんっ!!」
「犬をなめるなよ犬をっ!! おらおらおらおあっ!!」
 回復してきた目を擦って振り返って見ると、WBとぴぃがゲリョスの首筋に噛み付いて
奮戦していた。彼等もあの閃光を喰らったはずだが、流石は犬。嗅覚で敵の位置を嗅ぎ分
けていちはやく反撃に転じたらしい。
 だが、やはり軽量級の哀しさか──振り飛ばされて、二人(?)は沼地の上を再び転げ
回って行った。自由になったゲリョスは怒りの視線をWBの方に向けて──そこに、アレ
ースが斬りかかる!!
「ありがとう、二人(?)とも!!」
 そう呼びかけるアレースの顔色は、すっかり元通りに良くなっていた。WBとぴぃの稼
いでくれた時間を使って解毒と回復を完了させたのである。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 雄叫びを上げて正面から突っ込んで行くアレース。それを無謀と見て取ったか、ゲリョ
スは逃げようとはせず、再び毒ブレスを吐き出そうとして──直前、アレースは斜めに走
る軌道を変えた。その横の地面に毒玉が着弾し、直後、彼はさらにゲリョスへと向かうよ
うに軌道修正をする。
 今までの戦いから、相手が毒を吐いた後には若干のチャージ時間が必要だとわかってい
た。慌ててゲリョスは羽ばたき、逃げようとするが、もう遅い。
「おらあっ!!」
 振り下ろしでその翼を一撃。たまらず落下したところを薙ぎ払いで腹を裂き、返す刃で
首筋に斬り上げ。
 無論、それだけで止まってやるつもりはない!!
「う・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・
お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 袈裟斬り、薙ぎ払い、斬り上げ、打ち下ろし、体を一回転させて再び斬り上げ、そこか
ら二回転続けての薙ぎ払い!!

 が──敵は恐ろしくタフだった!!

「ゲアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 奇声と共に頭を振り回し、クリスタルのトサカが偶然にも打ち下ろされた剣と激突して、
砕けながらもその刃を弾き返す。
 アレースがひるんだ隙に、ほとんどノーモーションで怪鳥は体を回転させ、薙ぎ払いの
お返ししばかりに尻尾で彼を殴りつけた。吹き飛んだところに、ダメ押しのタックルが炸
裂する!!
「ガハッ!?」
 肺の中の空気を一気に吐き出し、その場であお向けに倒れこむアレース。タックルで弾
き飛ばされるのではなく、足で踏みつけられ、あの巨体で押し潰されたのだ。鎧を身につ
けているとは言え、ダメージはあまりに凄まじい。
「くっ、う……」
 それでも彼は立ち上がろうとした。視線を走らせれば、ぴぃとWBもまだダメージから
立ち直れずに倒れ伏している。ということは、今ここで頑張れるのは、自分だけだという
ことだ。剣を支えに、やっとのことで身を起こすアレース。

 だがそこに──再びゲリョスのタックルが直撃した。

「……ッ」
 声も出せずに吹き飛ぶ。剣がある程度盾になってくれたが、この二連発でアバラが数本
イカれてしまった。ひしゃげた鎧が呼吸を圧迫する。内臓にまでダメージが及んだ証拠に、
口の端からは血が溢れ出した。
 それでも、ここで倒れてしまうわけには──三度立ち上がろうとするアレースに、ゲリ
ョスが向き直る。その目が狙いを定め、姿勢が低くなった。

 そして──目も眩むような閃光が、アレースの視界を埋め尽くした。










 流されて行く──それに気付いた途端、眠兎の体を、何かが下から押し上げた。
「へ?」
「……」
 無言で彼を水上に持ち上げたそれは、マンボウの姿になったCDだった。
 多分、意図してのことではないだろう。彼女を背負ったまま水に落ちたから、結果的に
そうなっただけだ。
「こ、ここは……?」
 いくらか意識を失っていたのだろうか? 気が付けばそこはさっきまでとは全く別の場
所だった。洞窟の中、という点では同じだが、床は無く、二人はプカプカと浮かびながら
流れる水に身を任せている。どうやら地下水脈に落ちてしったようだ。
 上のトンネルと同じく壁や天井には発光性の物質が含まれているらしく、ぼんやりと淡
い輝きがあたりを照らし出している。さすがにフルフル達もここまで追いかけてきてはい
ないらしい。水の流れる音以外は静かなものだ。
 ──ふと思い出して手を見ると、食材の入った袋をしっかり握り締めている。CDが持
っていたはずだが、落ちる瞬間、無意識の内に自分の手で掴まえていたのだろう。偉いぞ
僕!! 内心で自分を誉める眠兎。
 しかし……この先どうなるのかがわからないのは不安だった。見れば流れの先には小さ
な光が見て取れる。出口はあるようだが、その先に何があるのかまでは、流石にわからな
い。方向もわからないので、最悪、また砂漠に戻されているということも……いや、これ
だけ豊富な水が流れているのだから、それはないだろうか?
 まあ、ともあれ今はのんびりしよう……ぷかぷか漂うCDマンボウの背で、ヒレにしが
みつきながら、眠兎は体を休めることにした。さっきまでとは逆の立場に内心おかしなも
のだと笑って──

 その顔が引きつった。

 ギャォォォォォォォン……などという雄叫びが、後ろから聞こえてきたからだ。フルフ
ルのものではない。その証拠に、上流で、水が激しく飛沫を上げているではないか? そ
の合間から、長くのたくる鱗に覆われた体と、魚の尾びれのようなものも見える。
「今度はなんなんだあ!?」
 他の地域に行った皆もこんな災難に見舞われまくっているのだろうか? なんとなくそ
んな奴は自分達だけのような気がしながら、眠兎はあわてて足をバタつかせ始めた。

 基本的に、マンボウという魚は泳がない。
 どんなピンチでも、ぷかぷかぷかぷか、潮の流れの漂うままに任せる。

 イコール、彼が加速してやらねば、すぐに追いつかれてしまうということなのだ。休む
どころではない。こんなところで襲われれば流石の伝令神もひとたまりもない。眠兎は必
死に泳いだ。その手でマンボウをぐいぐい前に押してやった。あわただしいのが不満なの
か、唇を尖らせているようにも見えるマンボウ。泳げ!! ツッコミたかったが、そんな
場合ではない。彼のツッコミ属性はまだ命をかけられるほどに高くない。
「たあすけてくれえ、みのりちゃあああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああん!!」
 その叫びは予知能力を持つみのりの耳には届いていたが、彼女は今現在、丘でぐらぐら
煮立つ土鍋とにらめっこしている真っ最中なので、手が離せない。助けは期待出来そうに
なかった。

 そして、光がようやく目前へと迫り──その先が滝であることに気付いて、眠兎が絶望
したのと同時──水面を割って、水中の王者・魚竜ガノトトスが顔を出した。




 イチ! ニ! サン! シ! ゴ!
 体ごと回転し、数えながら繰り出されたハンマーの連打は、突き出されたクックのクチ
バシと激しくぶつかり合い、眩い火花を五度散らした。
「オラアッ!」
 五度目の回転の勢いを殺さず、斜めから打ち下ろされた一撃が、ついにそのクチバシを
砕いて尖った金属塊を内部にめりこませた。舌を破壊された怪鳥はくぐもった苦痛のうめ
き声を上げて──それでも、痛烈な頭突きと尾の連続攻撃をゲンキにぶち当てる!

 バシイッ!!

 鞭のようにしなる尾を、しかし右膝を盾にして受け止めるゲンキ。これまでのような威
力は無い。相手が弱っていることを確信し、彼は左足一本で立ったその体を、グルリと右
回転させた。かと思うと、両手をハンマーから離し、今度は左に回転しながら、クックが
体勢を立て直すよりも早く──

 ドゴンッ!!

 至近距離から放たれた強烈な右フックが、怪鳥の眼窩に直撃した!!
 悲鳴を上げて空へと飛び上がるクック。その足元に一瞬早く走りこんで来た風花とボル
ツを追って、ランポス達が殺到したが、風圧によって動きが止まる。そこにすかさず!!
「ボルツくん、ゲンキくん、蹴散らして!!」

 呼びかけと共に風花の放った散弾の雨が炸裂し──

『おうっ!!』
 これまでのダメージをものともせずに走り込んだ頑丈な少年二人の攻撃が、ランポスの
群れを蹴散らすのに、さしたる時間は必要なかった。
 だが、全てのランポスを倒した三人が空を見上げると、クックは反撃には転じようとせ
ず、そのまま飛び去って行くところだった。形勢不利と見て逃げるつもりだろう。冗談で
はない。

 やっと弱らせた食材を、このまま逃がしてたまるものか!!

「追うよ!!」
『あいさっさ!!』
 走り出した風花の後にも再び声を揃えて続くゲンキとボルツ。草木をかきわけ、茂みを
強引に突っ切り、やがて三人は川べりの広いスペースで足を止めた。正面と右に小高いガ
ケ。左には水量の豊富な急流。丈の高い草が辺り一面に生い茂っている。
 クックはその中央部上空で羽ばたき、ホバリングしながらこちらを見下ろしていた。

 最初に気付いたのは、ゲンキ。

「あれは!?」
 砕けたクチバシの破孔から炎が噴出している──ファイアー・ブレス!! すぐさま風
花とボルツも危険を察して、三人は思い思いの方向に散ろうとした。しかし、動き出した
一瞬後に、再び足を止める。
 いつの間にか、周囲には再びランポス達が群らがり、彼等のことを取り囲んでいた。草
の中に身を潜ませていたのだろう。迂闊に動けば一斉に跳びかかられる。だが逃げなけれ
ばクックのブレスが飛んでくる。
 クックの狙いはこれだったのだ。逃げると見せかけて、新たなランポスの群れの中に三
人を誘い込む。そうして退路を断ちながら、上空からのファイアー・ブレスで勝負を決め
る。
 もちろん、風花達もむざむざやられてやるつもりはない。だが、ランポス達を強引に突
破するか、それともなんらかの手段で炎を防いでから反撃に出るか──一瞬の迷いが致命
的な隙を生み出した、次の瞬間!!


 水飛沫を上げて、そいつらは乱入した!!
「うわあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
 ギャォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


 良く見知った顔の少年が水面を走って′サわれ、それを追って水面から飛び出した巨
大な竜の顎が、偶然にも、空中にいたクックを捕らえて一息に飲み込んでしまった。


『……はい?』


 目を点にして佇む三人の前を、少年とその背中におぶさった少女──ようするに眠兎と
CDが、そのまま駆け抜けて行く。よっぽど慌てていたのか、眠兎はこちらの存在にも気
付かずガケをよじ登ると、またまたそこから走り出して、あっさりすっぱり姿を消した。
 ──後には、陸に上がってじたばた暴れる魚竜と、やはり呆然としているランポス達と、
武器を構える風花達だけが取り残された。

 そのうち、起き上がった魚竜の目が、こちらを向く。

 ギョアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!! びーっ!!!
『んどわああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?』
 ガノトトスの吐き出した超高圧ウォーター・ブレスが、ランポスの群れを一撃で吹き散
らした。絶叫を上げて地面に伏せ、なんとか回避はしたものの──風花、ゲンキ、ボルツ
が顔を上げてみれば、そこにはこちらを見下ろす魚竜の顔。
 表情まではわからないが、目が如実に物語っている。

 エモノは逃がしたけれど、ここにもいるから、まあいいや……と。

 そして三人は、新たな死闘の渦に叩き込まれることとなった!!(押し付けられたとも
言う)




 一方、火山地帯の激闘は最終局面を迎えていた。
 体のあちこちに焼け焦げを作り、岩の鎧を打ち砕かれたグラビモス。
 対するスリージェイ機動部隊(自称)の面々は、空を舞う幾也とソァラこそ無傷でいる
ものの、レジェンドは甲冑の三割近くを破壊され、手にした槍もボロボロ。盾にいたって
は度重なる負荷に耐え切れず、砕けてしまっていた。星忍も用意して来た罠の数々を使い
切ってしまい、先程からは攻めあぐねている。
「くうっ、なんて強いゾンダーなんだ!」
「ゾンダー違う」
 いつものボケと冷静なツッコミが入るあたり、まだ余裕はあるようだが、しかしこのま
までは、耐久力で劣る分、いずれ──
 そう思って表情に焦りの色を滲ませていると、思わぬ救援がやって来た。

 ヒュドンッ!!

 突如レジェ達の後ろから飛来した徹甲榴弾がグラビモスの額に突き刺さり、爆裂する。
 驚いて、そちらに視線を向ければ──

「よっ!」
「約束通り戻って来たよ!!」
 一度は離脱したはずの、クレインと火狩が立っていた。
 レーザー・ブレスの直撃を受けて焼け焦げていたはずのクレインは、何故かすでに回復
している。
 その理由は、彼等の後ろに立っていた。
「ご主人様の〜、ピンチのようでしたので〜、出てきてしまいましたぁ〜」
 間延びした声で、ひょいっと六本の手のうち三本を上げるヴィシュヌ。なるほど、彼女
の力でクレインの怪我は治癒出来たということか。
 槍の柄を握り締め、レジェンドは再びグラビモスに向き直った。
「なら、行こう!! あと一息だ!!」
「おうよ!!」
 鼓舞する声に答えて、まずはクレインがグラビモスの顔めがけて拡散弾を放つ。炸裂す
る火炎と煙が巨竜の視界を覆い隠し、そこにレジェ、火狩、星忍の接近戦組が飛び込んで
行った。
「ガトリングドライバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 穂先を正面に構えて突進したレジェの、機械仕掛けの槍が高速振動によって胸殻を砕く。
グラビモスはそこにタックルを仕掛けようとするが、一瞬早く跳びかかった星忍のニンジ
ャソードが傷ついた顔面へ執拗な打ち込みを浴びせかけ、意識を自分の方へと逸らす。
 そして、火狩が槍を引き抜いたレジェと入れ違いになるように、懐に潜り込んだ。彼女
の手にした大剣レッドウイングは炎に属する武器。本来ならマグマ層の中ですら生存出来
るグラビモスに、大きなダメージは期待出来ない。だがそれはグラビモスの全身が熱を遮
断する強固な外殻に守られていればこその話。


 ましてや、体内で炎が炸裂したならば!!


「クレインさんのカタキィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
「死んでないよ!?」
 クレインのツッコミの声にドズンッという重い音が重なり、レッドウイングの刃は砕け
た胸殻の内部、剥き出しの肉に深く突き刺さった。次の瞬間──刃から発せられた灼熱の
炎がグラビモスの体内を焼き尽くし、巨竜は絶叫にも似た咆哮を上げる。
 だが、それでも生き延びたグラビモスは、力を失い倒れ込む自分の体を利用して、体の
下にいる火狩を押し潰そうとした。慌てて剣から手を放し、離脱しようとする──だがこ
のタイミングでは間に合わない!!

 ズドンッ!!

 衝撃と共に火狩の体は後ろに吹き飛んだ。直後、彼女のいた場所を押し潰して転等する
グラビモス。頭上からソァラの声が響いて、ぶっ飛んだ少女へと謝る。
「ごめんね、火狩さん!」
 火狩を吹っ飛ばした衝撃は、彼女の放った拡散弾の爆発だったらしい。たしかにグラビ
モスの巨体の下敷きになるよりダメージは小さいが、無茶なことをするものである。ちょ
っぴり体の前半分を焼け焦げさせながら、火狩は上空にVサインを送った。

 だが、その表情が凍りつく。

 完全に倒れて動かなくなったグラビモス。しかし、その顔はなおも火狩達の方を向いて
いた。我が子を守ろうとする親の執念──大きく開いた顎の奥から、今、最期の力を振り
絞ったレーザー・ブレスが撃ち出されようとして──


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
 ぎゅむっ。ずばぼんっ!!


『……』
 呆然とする一同。突然現われた眠兎が、グラビモスの口を踏んづけて駆け抜けて行った。
口を閉ざした状態でレーザー・ブレスを炸裂させてしまった巨竜は、自分の攻撃で自分に
トドメを刺してしまい、完全に力尽きる。
 少年はそのまま悲鳴を上げながら、どこまでもどこまでも突っ走って行く。背中にしが
みついた少女は目を回してガクンガクンと首を揺らしていた。
 その二人の背中を見送り──火狩達は、ただひたすらに、クーラードリンクの効果が切
れて熱気に身悶えするその時まで、そこに佇み続けていたのだった。




 衝撃が大地を揺らす。
 それはゲリョスの放った目くらましの光などとは、ケタの違う「何か」だった。
 長い長い余韻の後、風に混じる異臭に気付いて目を開いたアレースが見たものは、踏み
潰されて息絶えた自分の体ではなく、黒コゲになって倒れたゲリョスの姿だった。
「なっ……!?」
 何が起きたのか理解出来ない。劣勢だったのは自分達の方だったはずだ。なのにどうし
て毒怪鳥の方がそこに倒れているのか?
 答えを求め、仲間の姿を探して視線をさまよわせる──ぴぃとWBは、先程と同じ場所
で、なんとか起き上がろうとしているところだった──彼等の仕業ではない。

 そして、その視線が、ある一点を見つめたまま。止まる。

 沼地の外れ──木々の合間に、やはりこちらを見つめる白い獣が見えた。
 神秘的な輝きを放つ体。その体表を時折駆け巡る電光。鹿にも馬にも似た姿で、額には
一本の角。ユニコーン? 一瞬そう思ったが、それとも少し違う。
 霊獣キリン。雷を自在に操り、時には飛竜の王リオレウスとすら互角に戦うという伝説
の獣である。

 そうとは知らず、それでも目を離せずに──しばし、獣と見つめ合うアレース。
 だが、やがて獣の方から視線を外し、また森の奥へと去って行った。
「……助け、られたのかな?」
 野生のカンが「違う」と告げていたが、とりあえず相手には自分達とやり合うつもりは
ないようだ。安心して、ゆっくりと動き出すアレース。彼が今度こそ死体となったゲリョ
スに歩み寄って行くと、同じように、ぴぃとWBも近付いて来た。
「死んだ……かな?」
 つんつんと前足でつつきながら、首を傾げるぴぃ。
「真っ黒ッス」
 クンクンとニオイを嗅いで生死を確かめようとするWB。
「でも、また死んだフリだったりしてなあ」
 そんなアレースの言葉に、二人(?)は──
「まっさかあ」
「さすがにそれはないッスよ、わふん」
「そうだよな、あはははははははははははははははははははははははは」


 笑う三人(?)の横で、しかし、おもむろにゲリョスは起き上がった。
 凍りつく三人(?) 黒コゲのくせに元気良く奇声を上げる毒怪鳥。


「くけええええええええええええええええええええええええええええっ」
『どげええええええええええええええええええええええええええええっ!?』
 悲鳴を上げて、三人(?)が逃げ出そうとした時──
 賢明な読者の予想通り、駆け込んで来た眠兎のフライングニーキックが、今度こそ完全
にゲリョスの頭蓋を打ち砕いたのだった。











「というわけで、今回も収支はマイナスでした」
 淡々と言う風舞の言葉に、じゅらいは卒倒しかけた。
 無事(?)終了した祝賀パーティー直後のことである。
 全身ズタボロ、ほうほうの体で帰って来た常連ズの持ち寄った食材と燃料を使って、金
をかけずにパーティーをすることには成功した。

 ──と、思っていた。

 だが、風舞はため息と共に自分の手にした「借金帳簿」の中身を開いて見せつけ、失敗
の原因を説明してくれた。
「装備類をレンタルにしたことがそもそもの間違いだったのよ」


 無事に戻って来た防具類、十七点。

 無事じゃない姿で戻って来た防具類、百二十八点。

 無事に戻って来た武器類、二十一点。

 無事じゃない姿で戻って来た武器類、六十六点。

 帰ってすら来なかった武器防具類、たくさん。


「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああっ!?」
「じゅらいくんが『やりすぎ防止』とか言って、常連さん達本来の装備を取り上げちゃっ
た結果よ……修理費だけでも大変な出費だわ。借金を返させるための企画で、借金を増や
させてどうするのよっ!」
 さすがの風舞さんも、今回ばかりは「もういやだ!」とばかりに帳簿を机に叩きつけて
しまう。
 じゅらいは嫌な汗をかきつつ、そんな彼女の肩に手を置いた。真剣な表情で語りかける。
「風舞……」
「なにかしら、じゅらいくん?」
 うつむいたまま、問い返す風舞。じゅらいは悔しげに拳を固めて呟いた。
「来年は、じゅらい亭ロボット大戦パーティーなんて、どうでござろうか……ねえ!?」
「勝手にやりなさあああああああああああああああああああい!!」


 机の下に隠されていたウォーハンマーの一撃が、じゅらいを天高くカッ飛ばした。










                       (あ、リオレウスにキャッチされた)
                                  (ぎゃふん)


〔ツリー構成〕

[22] ゲンキ=M 2001.12.24(月)19:09 ゲンキ=M (143)
・[23] 短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」 2001.12.24(月)19:12 ゲンキ=M (16136)
・[24] あとがき 2001.12.24(月)19:20 ゲンキ=M (856)
・[25] 感想:短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」 2001.12.25(火)11:43 藤原眠兎 (433)
・[26] 感想感謝でーす♪ 2001.12.25(火)16:51 ゲンキ=M (366)
・[27] うーん、うらやましい。(ぉ 2001.12.25(火)20:52 クレイン (1259)
・[28] 感想感謝2! 2001.12.26(水)00:32 ゲンキ=M (792)
・[90] 長編 じゅらい亭日記──超・暴走編7「竜女再来」 2002.11.27(水)17:24 ゲンキ (996)
・[91] 超・暴走編7「竜女再来」(1) 2002.11.27(水)17:28 ゲンキ (48213)
・[92] 超・暴走編7「竜女再来」(2) 2002.11.27(水)17:31 ゲンキ (57614)
・[93] 超・暴走編7「竜女再来」(3) 2002.11.27(水)17:34 ゲンキ (53509)
・[94] 超・暴走編7「竜女再来」(あとがき) 2002.11.27(水)17:44 ゲンキ (1083)
・[141] 感想 2003.6.8(日)10:22 藤原 眠兎 (530)
・[168] うぃさっさ 2003.12.24(水)15:02 ゲンキ (111)
・[96] 長編 じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」 2002.12.24(火)15:21 ゲンキ (462)
・[97] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」前編 2002.12.24(火)15:25 ゲンキ (52057)
・[504] 削除
・[98] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」中編 2002.12.24(火)15:28 ゲンキ (47780)
・[99] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」後編 2002.12.24(火)15:30 ゲンキ (34765)
・[100] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」あとがき 2002.12.24(火)15:31 ゲンキ (960)
・[101] お疲れ様です。 2002.12.28(土)11:04 じゅんぺい (256)
・[107] ありがとうございます 2003.2.24(月)14:51 ゲンキ (168)
・[142] 感想 2003.6.8(日)10:29 藤原眠兎 (587)
・[169] なんというか 2003.12.24(水)15:03 ゲンキ (169)
・[122] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」 2003.3.16(日)17:50 ゲンキ (1163)
・[123] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」 2003.3.16(日)17:51 ゲンキ (20724)
・[124] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」あとがき 2003.3.16(日)17:52 ゲンキ (1714)
・[143] 感想 2003.6.8(日)10:39 藤原 眠兎 (405)
・[170] ばふぉー 2003.12.24(水)15:05 ゲンキ (79)
・[147] 漫画 じゅらまんが大王 2003.6.30(月)23:11 ゲンキ (189)
・[148] 漫画 じゅらまんが大王1 2003.6.30(月)23:18 ゲンキ (263)
・[152] 感想(画像の投稿ってできたんですね!) 2003.7.7(月)02:37 星忍とスタ (322)
・[156] ご感想ありがとうございます 2003.7.7(月)23:42 ゲンキ (261)
・[149] 漫画 じゅらまんが大王2 2003.6.30(月)23:21 ゲンキ (215)
・[153] 感想(おそるベシ、風舞さま) 2003.7.7(月)02:39 星忍とスタ (48)
・[157] ……ひい 2003.7.7(月)23:43 ゲンキ (32)
・[151] 漫画 じゅらまんが大王3 2003.6.30(月)23:23 ゲンキ (278)
・[154] 感想(インパクト) 2003.7.7(月)02:40 星忍とスタ (64)
・[158] すごいですよね 2003.7.7(月)23:44 ゲンキ (40)
・[160] おお、4コマ漫画だ! 2003.7.10(木)07:31 じゅんぺい (252)
・[167] うへへ 2003.12.24(水)15:01 ゲンキ (79)
・[197] 漫画 じゅらまんが大王4 2005.3.30(水)22:59 ゲンキ (302)
・[199] 感想 2005.4.25(月)11:41 CDマンボ (199)
・[200] 感想どうもでーす 2005.4.30(土)09:33 ゲンキ (139)
・[165] 短編 じゅらい亭日記特走編2「聖夜 魔王の祝日」 2003.12.24(水)14:58 ゲンキ (18491)
・[166] あとがき 2003.12.24(水)15:00 ゲンキ (192)
・[171] うわー…(笑) 2003.12.24(水)19:36 じゅ (582)
・[172] お疲れ様でした〜☆ 2003.12.24(水)19:47 CDマンボ (258)
・[173] 何は無くとも 2003.12.24(水)20:18 藤原眠兎 (372)
・[176] 短編 じゅらい亭日記奔走編2【聖夜 ジングルオールザウェイVer.J】改 2003.12.26(金)01:27 ゲンキ (16950)
・[177] あとがき 2003.12.26(金)01:29 ゲンキ (242)
・[178] かんそうー 2003.12.26(金)02:06 藤原眠兎 (345)
・[188] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】 2004.12.22(水)05:36 ゲンキ (817)
・[189] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】 2004.12.24(金)00:55 ゲンキ (49950)
・[190] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】あとがき 2004.12.24(金)01:18 ゲンキ (585)
・[191] 感想 2004.12.24(金)23:35 CDマンボ (215)
・[192] 感想ありがとうございます 2004.12.24(金)23:43 ゲンキ (151)
・[201] 短編 じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ> 2005.7.23(土)14:50 ゲンキ (272)
・[202] じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ> 2005.7.23(土)14:54 ゲンキ (64063)
・[203] 感想〜☆ 2005.7.23(土)23:29 CDマンボ (315)
・[204] 感想 2005.7.24(日)00:46 眠兎 (178)
・[205] 久々じゃのう(笑 2005.7.25(月)04:38 幾弥 (422)
・[206] 感想ありがとうございます 2005.7.25(月)11:30 ゲンキ (1008)

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