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176 短編 じゅらい亭日記奔走編2【聖夜 ジングルオールザウェイVer.J】改
2003.12.26(金)01:27 - ゲンキ - 23414 hit(s)

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「じゅらい亭日記 奔走編」






 星暦七○一八年十二月二十三日の朝。
 その男は走り出した──


「うあああああああああああああああああああっ、売り切れるうっ!!!」


 じゅらい亭最速の男、藤原 眠兎。
 その手に特売のチラシを握り締めてのスタートだった。







【聖夜
    ジングル・オール・ザ・ウェイ・じゅらい亭Version】







 全ては今年の六月、じゅらい亭でのこと。
 友達のゲンキに、彼が売り出したある物を奨められたのがなにもかもの始まりだった。
「へぇ……移動式超快適居住空間『コロンブス』……ですか。面白そうですね」
 渡されたチラシをざっと眺めた後の素直な感想。
 浮いているから土地がいらず、見た目も大きさも重量すらも普通のタマゴと変わらない
ため、置き場所にも困らない。そんな新しいスタイルの「家」だというのが今回の商品の
ウリのようだった。
 要はキャンピングカーの凄いバージョンなのだろう。割とアウトドア好きの眠兎として
はなかなかに魅力的な商品だし、お値段もかなりリーズナブルに設定されている。
「七○○○ファンタですか……買えなくはないですねえ」
「でしょう? 休日の家族サービスにももってこいの商品ですよ」
 ニコニコと、揉み手と共に迫ってくるゲンキ。愛想を振り撒いているつもりなのだろう
が彼がやると詐欺師と向き合っているような、そんな気分になる。やめさせた方が友とし
ての務めなのだろうかと頭の片隅で考えつつ、彼は尚もチラシに目を落とした。たしかに
安くはあるが、決して安すぎる買い物というわけではない。じっくり見定めて後悔の無い
選択をする必要がある。ていうか、そうしないと奥さんに怒られる。
「う〜ん……」
 このセブンスムーンでは一部の人間を除いて車などの機械的な乗り物を使用しない。よ
く分からないが「便利な物」を敬遠する傾向が、古くからの住人にはあるのだ。おかげで
交通機関はまだまだ未発達なままである。異世界から来た眠兎には、時折それがめんどう
に感じることもあるのだ。
 この「コロンブス」とやらを買えば、その点は解消されそうである。目的地を告げるだ
けで自動的に移動してくれるというし、便利すぎてかえって怪しいくらいだ。
 だが、そう、やはり……。
「すいません、やっぱり今回はやめときます」
「そうですか……」
 がっくりと肩を落として、つっ返されたチラシを受け取るゲンキ。その姿を見ていると
申し訳ない気分になるのだが、こればっかりは仕方ない。子供が二人もいる彼には、そう
そう独断で大金を払える余裕などないし、なにより「便利すぎる」ところが今一つ購入意
欲をかき立てない。もうちょっとこう、ローテクな方が最近の好みなのだ。このへんはセ
ブンスムーンの住人として慣れてきた証なのかもしれない。
 眠兎はナハハと愛想笑いを浮かべながら言った。
「まあ、みのりちゃんや子供達が欲しいって言ったら、別ですけどね」





「欲しいな……」
 翌日、新聞の折り込み広告として入ってきた「コロンブス」のチラシを見て、そう呟く
妻の姿を彼は見てしまった。顔を洗って居間に入ろうとしていたのだが、咄嗟に扉の陰に
隠れてしまう。
「皆で旅行に行く時、便利そう……」
 うっとりとした表情(といっても眠兎にしか判別不可能)で広告に魅入っているみのり。
そんな彼女の前に姿を現すことは別に悪いことではない。そう何も悪いことなんてしてい
ない。夫が独断であんな高い買い物をしていいわけないじゃないか。決して友達特別割引
で五○○○ファンタまで落としてもいいと言われていたことなど関係無い。そうだ自分は
何も悪いことはしていない。堂々と出て行こう。眠兎は決意した。
「よし、おは──」
「あっ、それなんだぜ母さん?」
「タマゴ……?」
 先に、子供達が現れてしまった。出るタイミングを潰された父は、光の速さで扉の陰に
舞い戻る。そのまま出て行けばよかっただけなのに。私のバカバカバカ。自分を責め立て
ていると、続けてこんな声が聞こえてきた。
「うわー、ゲンキさん面白そうなもん作ったなー」
「便利そうね……」
 無邪気に顔を輝かせる光流と、母親そっくりの顔でうっとりする美影。こんな梅雨時の
雨の日にはよさそうねだとか、四人でキャンプに行ったりしたいねとか、そんな会話がさ
らに続けられる。もうお父さんめった打ち。

「わ、私は……なんてことを」

 どうして昨日、格安で売ってくれるという友の申し出を断ってしまったりしたのだ。い
かん、こうしちゃおられない。光速で自室に戻った眠兎は、素早くいつもの服に着替えた
かと思うと、一瞬だけ居間に入って「おはよう」と告げ、そのまま家を飛び出して行って
しまった。呆然とする家族達。
「父さん……どうしたの?」
「なんか急いでたぜ」
 子供達が首を傾げる横で、一人だけみのりは、苦笑した。
「バカね……」





「すいませーん、ゲンキさんいますか!!」
 まだ閉まっていた銀行のシャッターをこじ開けた挙句に準備中だった行員の皆様に銃を
突きつけて強引に下ろしてきた五○○○ファンタを手に握り締め、藤原眠兎はじゅらい亭
のドアをくぐった。
 ところが、いない。いつもなら夜中に騒ぎ通してそのまま床に寝転がってたり、奥さん
と一緒に朝の散歩がてらに立ち寄って陽滝さんになついて浮気だなんだと喚かれて、しば
き倒されて、トドメに塩漬けにされて神聖な教会の中に放置されて瀕死の状態に陥ってい
るはずの大魔王ゲンキの姿がどこにもない。
「じゅらいさん、ゲンキさんは!?」
「ゲンキ殿なら急ぎの仕事でナインスの方に向かったでござるよ」
「お帰りは!?」
「多分一週間後くらいじゃないかなあ。結構大変な仕事だし」
「うだああああああああああああああっ!!」
 この肝心な時に、仕事に出かけるとはなんと不届きなっ!!
 掃除したての床の上でのたうち回りホコリを立てる眠兎に、じゅらいはうっすらと額の
青筋を浮かべながら問い返した。
「彼に用事だったのかい?」
「昨日ゲンキさんが言ってた『コロンブス』とかいうのを買いたかったんですよ〜!!」
「ああ、これね」
 と、カウンターに置かれていた今朝の朝刊の下から、やはり折り込み広告のチラシを取
り出すじゅらい。そして、はたと気付く。
「いや待て。直接ゲンキ殿から購入しなくたって、販売店に問い合わせればいいじゃん」
「へっ? 販売店……ですか?」
「ほら、ここに販売代理店『クロックドッグ』って書いてるよ」
 そう言って店主が指差したチラシの端には、たしかにその店の名前と住所、加えて通信
機械の登録番号が記されていた。
「電話お借りします!!」
「はいはい」
 じゅらいが答えた時にはもう、眠兎は店の隅に設えられた通話ボックスの中へと飛び込
んでいた。その指が人間技とは思えない速さで番号をプッシュする。

プルルルル ガチャッ

『はい、こちらクロックドックです』
 男とも女とも分からない、中性的な若者の声が受話器の向こうから発せられた。
「あ、もしもし、私はゲンキさんの知り合いで藤原というものですけれど」
『藤原様ですか。長……じゃない、社長は現在こちらにはおられませんが』
「あ、はい。そのことじゃなくて、例の『コロンブス』のことで」
『なるほど、お買い上げでございますか?』
 話の分かる人だ。
「はい、実は昨日一度断ったんですけど、やはり一つ購入したいと思いまして」
『そうですか、それはありがとうございます。ではとりあえずお名前とご住所を』
「はい、名前は藤原眠兎。住所はセブンスムーンの……」
 と、一通り電話で済ませられる手続きを済ませたところで、眠兎はとても重要なことを
思い出した。
「あの、それでですね。割引というのは……」
『は?』
 受話器の向こうから、なんだか驚いたような呆れたような声が返ってくる。
「いやあの、ゲンキさんからは五○○○ファンタにしていただけると……」
『はあ……しかし当社ではそのようなサービスを行ってはおりませんが』
「ええっ、でも」
『失礼ですが』
 と、突然相手の声が硬く鋭いものに変わった。
『おさ……社長のお友達だという証明ができる物や、情報をお持ちでしょうか?』
「え、ええっ!?」
 そんなことをいきなり言われても、一体何を答えればいいのやら。
 しばし考えて、眠兎はハッと一つ思いついた。
「ゲンキさんはドラ焼きが好きではないでしょうか!?」
『……』

ガチャン ツーツーツー

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああっ!? 『ないでしょうか』ってなんだよ私!?」
 やってしまった失敗に、頭を抱えてぐったり落ち込む。
 しかし、これで一つ分かったことがある。
「ゲンキさんが戻ってくるまで割引してもらえない!!」
 イコール「コロンブス」はそれまで買えないということだ。なにせ銀行に行ってみたら
口座にはきっかり五○○○ファンタしか入ってなかったのである。もうちょっと貯蓄して
いたような気がしたのだが。
「くっ、買えないものは仕方ない……一週間待つか」
 そう呟いて、彼はとぼとぼと店を出て行った。
 そんな寂しげな背中を見送りながら、じゅらいはポツリと呟く。
「ローンを組めばいいだろうに」
 教えてあげない彼はいじわるな店主。





 悲劇は二ヵ月後に再び起こった。
「え……予約しても半年待ち……ですか?」
「はい、なんか急に人気が沸騰しまして。外国からの受注が増えてるんですよ」
 申し訳無さそうにゲンキが頭を下げる。
 あれから二ヶ月。結局仕事が長引いたらしく、今日になってやっと戻って来たゲンキの
いの一番の説明がそれだった。
「そんな! 家には『コロンブス』がくるのを心待ちにしている妻と子供達がっ!?」
「いやでも前にいらないって言ってたじゃないですかーーーっ!!」
 がくんがくんと襟首掴まえて揺さぶる眠兎に、がくんがくんと襟首掴まえられて揺さぶ
られながら反論するゲンキ。たしかにもっともその通り。しかし二ヶ月待ってさらに半年
待たされるというのはないだろう。
「くっ、家族全員で『コロンブス』に乗ってのサマーキャンプ……楽しみにしてたのに」
 がっくりと肩を落とす。とても悲しげな姿だ。きっと主に楽しみにしてたのはみのりさ
んなのだろう。怒られるんだろうな、大変だろうなーとゲンキは同情する。
 その同情ゆえに余計なことを申し出た。
「でしたら、今度うちと一緒に行きますか? 前に作った『コロンブス』一号でどこかに
出かけようって皆で相談してたところなんですよ」
「なんですと!?」
 顔を上げた眠兎の目がギラリと輝いた。あまりの眩しさに邪悪な魔王が苦痛を覚えて床
でのたうち回るほどだ。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「ありがとう、ゲンキさん! このご恩は一生忘れない!!」
 そう言っておきながら、数日後に二家族合同サマーキャンプin浜辺を行ったことで眠
兎は恩を忘れることとなる。原因はもちろん「コロンブス」だ。

 実際乗ってみたら、自分でも欲しくなってしまったのである。





 十月になった。一応コロンブスは予約したものの、納入まであと四ヶ月かかる。予約の
キャンセルがあったら優先的に回すからと言われているのだが……。
「まだキャンセルないのかなあ……」
 ぼーっと、テントの中で考える眠兎。湖畔のキャンプ場。いつものように一家揃って遊
びに来たところである。色づいた木々の葉が美しく、子供達も楽しそうにはしゃぎ回って
いるが、彼の心はずっとあの小さなタマゴを想ったままだ。
「あれがあったら、もっと楽しかったろうなあ……」
「無いもののことを考えても仕方ないでしょう」
 と、突然頭上から声がかかった。いつの間にか入口にみのりが立っている。
「みのりちゃん、ごめんね……あの時、私が断らなければ」
「何度も聞いたわ」
 ふうとため息を吐き出して、隣に腰掛ける妻。いつまで経っても若いまま、幼い姿の彼
女がそういう仕草をすると、なんというか……くる。
「みのりちゃん……」
 つき動かされるままに眠兎は妻の手を取り、その唇に向かって顔を近づけた。突然のこ
とに抵抗もできず、みのりは顔を赤くする。
「え、眠兎君……ちょっと、まっ……」
 そうして、二人が重なろうとした瞬間だった──
「あーっ、父さんと母さんがキスしてるぜーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「……っ!!」
 慌てて離れる眠兎とみのり。そんな二人をニカーッと嬉しそうな笑顔で眺めている光流。
遠くでは美影が「邪魔しちゃだめよ」とかそんなことを言っている。
「は、ははは……いつ戻って来たんだ?」
「父さんが母さんの手を握ったあたりからだぜ」
「そ、そうか」
 ということは最初から見られていたわけだ。ちくしょうこんがきゃあいいとこで戻って
きやがって。頭の中でそう考えていると、後頭部にフライパンがめりこんだ。
「バカなこと考えてないで、そろそろ夕飯の支度よ」
「は、はい〜」
 ぐったりポーズで突っ伏す眠兎を置き去りに、外へ出て行くみのり。光流が「キシシシ
シ」などと小憎たらしい笑い方をする。やっぱりだ。やっぱりこれではだめだ。
「もっとみのりちゃんと二人っきりになれる環境が必要だ!!」
 そのためにも、アレが欲しい。





 そして話は冒頭の十二月二十三日に戻る。
 結局あれからも「コロンブス」の順番が回ってくることはなく、もんもんと待ち続ける
だけの日々が過ぎ、とうとう年の終わりも目前に近付いたこの日──新聞の折り込み広告
の一つを見て、眠兎はすぐさま家を飛び出したのだ。そう、かつてのように。
「売り切れるうっ!!」
 なにがかと言えば無論一つしかあるまい。そう「コロンブス」がである。
 その手に握られたチラシには、たしかにこう書かれていた。


【中古コロンブス一斉大特価セール!!
    一○○○〜三〇〇〇ファンタにてご奉仕!! 詳しくは下記展示会場にて!!】


 売っている!! 中古ではあるが「コロンブス」が格安で、しかもこの街の中で売られ
ている!! それを知った彼がおとなしく待っていられるはずはない。家を飛び出し眠兎
は自慢の光速の脚でチラシに書かれている展示会場へと向かった。

 当然、すぐに辿り着く。

 しかし辿り着いたものの、展示会場として示されていたセブンスムーン市民会館はまだ
開場していないらしい。また十時からのオープンと書いているのにまだ七時なのだから当
たり前ではあるが、そんな当たり前のことが通用するならこの世にじゅらい亭常連など存
在しないと言っても過言ではない。
 眠兎はそのまま突っ込んだ。

バリーン!!

「すいません!! 『コロンブス』ひとつくださいな!!」
 ガラス戸を突き破り、血塗れになりながら突然侵入してきた男の出現で、驚いたのは一
人だけ。掃除のおばちゃんだった。
 おばちゃんはプルプルと手を震わせながら、モップの柄で眠兎のいる場所を指す。
「あ、あんた……」
「ああ、こりゃすみません。ガラスは弁償しますから『コロンブス』売ってください」
 いかん。会話が成立してない。この場にまともな人間がいたならそう思ったろう。しか
し実はこの時、ここにまともな人間は一人もいなかった。
 そう、一人も。
「ホァタッ!!」
「げふっ!?」
「アンタなんてことしてくれんだい! せっかくおばちゃんが掃除したばかりだってのに
まったくもう最近の若いのはおふざけがすぎるじゃないのさチョイサヨイサホイサ!!」
 クルクルと掃除用具を手の中で躍らせて、華麗な連続攻撃で眠兎を宙に浮かせる掃除の
おばちゃん。強すぎる……それが、眠兎が最期に思ったことだった。





 まあ、当たり前だが死んでない。ぼこぼこに叩きのめされた挙句、破ったガラスの掃除
もして、平謝りした末ようやく許された眠兎は、途端親切になったおばちゃんに招かれて
用務員の休憩室にやって来た。
 そこでおばちゃんからお菓子とお茶をすすめられつつ、開場の時間を待つことになった
彼は、現在「暇だから」と話しかけてきたおばちゃんと世間話に興じている。
「ですよねえ、やっぱりM−16は傑作突撃銃だと思うんですよ」
「そうかい、でもおばちゃんは最近のブルバップも結構好きで」
 二人にとっての「世間」はどうも一般的なものとやや隔たりがあるようだったが、当人
同士で話が弾んでいるようなので触れる必要はないものとする。
「おっと、そろそろ時間ですね」
 休憩室の壁掛け時計を見上げて眠兎は立ち上がった。なんだかとても長い時間話し込ん
でいた気がする。実際三時間近くここにいたわけだが。
「お茶、ありがとうございました。そろそろ行きます」
「また来ておくれ。あんたと話するのは楽しいからね。でもガラスは破るんじゃないよ」
「ははは、すいませんでした、興奮してたもんで」
「それも若さかねえ」
 カラカラと笑うおばちゃん。その笑顔に見送られて休憩室を後にする眠兎。なんか窓の
外が奇妙に暗いけど、空が曇ってるんだろうくらいに思った。
 そして、眠兎が去った後の休憩室で、おばちゃんは気付く。
「あらあ、この時計壊れてるわ」





「……」
 かつてないぐったり感に眠兎は押し潰されそうだった。
 まさか、まさかあの休憩室で゛十二時間゛も話し込んでいたとは。
 中古「コロンブス」の展示会場ではすでに明かりが落とされ、入口に「完売」の文字が
でかでかと記された看板も立っている。
「もう……だめだ」
 ほっといても四ヵ月後には届く。しかし彼は今朝チラシを見つけた時点であることを思
いついていたのだ。明日の聖夜。家族を乗せて「コロンブス」で空を飛び、街の夜景を楽
しもう。そう願っていたのだ。
 しかし、おばちゃんとの世間話で全て無に帰してしまった。
「私はバカだ……」
 とぼとぼ、とぼとぼと家路を歩いていく。街灯があるのに、真っ暗な道。
 やがてわずかに灯りが見えた。家の前で、みのりが立っている。
「おかえり、眠兎君」
「ただいま……待っててくれたの?」
「待っていたかったから……」
「そうかい」
 ありがたいなあ。本当に、心の底から感謝して、眠兎は頭を下げた。





 そして今年も、聖なる日はやってきた──
 夕方になり、じゅらい亭でのパーティーに出席するため着飾った藤原家の面々は、早速
家を出ていつものように店へと向かった。途中でクレインや京介と合流し、すっかり暗く
なった頃に店に到着して──なんだか凄いことに巻き込まれる。
「ゲ、ゲンキさんの借金が無くなったあ!?」
 そんな爆弾ニュースが飛び込んできたかと思えば、直後にディルの叫び声。
「雪崩よーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 なんでこんな街中で雪崩が起きるというのか。
 しかし外を見るとたしかに雪崩が起きていた。慌てて巻き込まれた人々の救出に乗り出
そうとする常連ズだったが、どうしたことかそれより先に、飲み込まれた人々が何かの力
で浮かび上がって来る。
 拍子抜けしているとゲンキのところの娘さん達が店から出てきて、雪崩の治まった通り
で雪遊びを始めた。この子らにはこれが最高の聖夜のプレゼントか。ほのぼのとしたもの
を感じつつ、自分はだめだなーとまた落ち込んでしまう。
「家族の皆が望む物を、一つとして手に入れられないんだもんなあ……」
 暖冬のせいでしばらくは降らないと聞いていたのに、何故か雪の降り始めたセブンスの
街。あのタマゴがあったなら、空からこの美しい景色を眺められたのに。まったく自分は
要領が悪い……そう、思った時だった。

コツン

「いてっ、なんだ?」
 突然頭に当たって落ちて来た物を雪の中から拾い上げ、しげしげと眺める眠兎。それは
タマゴだった。とてもツルツルしていて、表面には青く大きな「G」の文字がプリントさ
れている。なんというかあれだ。これはタマゴだが、タマゴであってタマゴでない。奇跡
というものは起こるのか?
「これはあれだよな」
 間違いない。他の何物でもありえない。眠兎はようやく驚いた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 その夜、一人の父親が半年がかりの夢を叶えた。
 家族と一緒に空中散歩。
 その幸福の裏で、別の一人の父親が、借金が二倍になるという巨大な不運に嘆いていた
ことは、あまり知られていない本当のお話。





                                    おしまい


〔ツリー構成〕

[22] ゲンキ=M 2001.12.24(月)19:09 ゲンキ=M (143)
・[23] 短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」 2001.12.24(月)19:12 ゲンキ=M (16136)
・[24] あとがき 2001.12.24(月)19:20 ゲンキ=M (856)
・[25] 感想:短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」 2001.12.25(火)11:43 藤原眠兎 (433)
・[26] 感想感謝でーす♪ 2001.12.25(火)16:51 ゲンキ=M (366)
・[27] うーん、うらやましい。(ぉ 2001.12.25(火)20:52 クレイン (1259)
・[28] 感想感謝2! 2001.12.26(水)00:32 ゲンキ=M (792)
・[90] 長編 じゅらい亭日記──超・暴走編7「竜女再来」 2002.11.27(水)17:24 ゲンキ (996)
・[91] 超・暴走編7「竜女再来」(1) 2002.11.27(水)17:28 ゲンキ (48213)
・[92] 超・暴走編7「竜女再来」(2) 2002.11.27(水)17:31 ゲンキ (57614)
・[93] 超・暴走編7「竜女再来」(3) 2002.11.27(水)17:34 ゲンキ (53509)
・[94] 超・暴走編7「竜女再来」(あとがき) 2002.11.27(水)17:44 ゲンキ (1083)
・[141] 感想 2003.6.8(日)10:22 藤原 眠兎 (530)
・[168] うぃさっさ 2003.12.24(水)15:02 ゲンキ (111)
・[96] 長編 じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」 2002.12.24(火)15:21 ゲンキ (462)
・[97] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」前編 2002.12.24(火)15:25 ゲンキ (52057)
・[504] 削除
・[98] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」中編 2002.12.24(火)15:28 ゲンキ (47780)
・[99] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」後編 2002.12.24(火)15:30 ゲンキ (34765)
・[100] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」あとがき 2002.12.24(火)15:31 ゲンキ (960)
・[101] お疲れ様です。 2002.12.28(土)11:04 じゅんぺい (256)
・[107] ありがとうございます 2003.2.24(月)14:51 ゲンキ (168)
・[142] 感想 2003.6.8(日)10:29 藤原眠兎 (587)
・[169] なんというか 2003.12.24(水)15:03 ゲンキ (169)
・[122] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」 2003.3.16(日)17:50 ゲンキ (1163)
・[123] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」 2003.3.16(日)17:51 ゲンキ (20724)
・[124] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」あとがき 2003.3.16(日)17:52 ゲンキ (1714)
・[143] 感想 2003.6.8(日)10:39 藤原 眠兎 (405)
・[170] ばふぉー 2003.12.24(水)15:05 ゲンキ (79)
・[147] 漫画 じゅらまんが大王 2003.6.30(月)23:11 ゲンキ (189)
・[148] 漫画 じゅらまんが大王1 2003.6.30(月)23:18 ゲンキ (263)
・[152] 感想(画像の投稿ってできたんですね!) 2003.7.7(月)02:37 星忍とスタ (322)
・[156] ご感想ありがとうございます 2003.7.7(月)23:42 ゲンキ (261)
・[149] 漫画 じゅらまんが大王2 2003.6.30(月)23:21 ゲンキ (215)
・[153] 感想(おそるベシ、風舞さま) 2003.7.7(月)02:39 星忍とスタ (48)
・[157] ……ひい 2003.7.7(月)23:43 ゲンキ (32)
・[151] 漫画 じゅらまんが大王3 2003.6.30(月)23:23 ゲンキ (278)
・[154] 感想(インパクト) 2003.7.7(月)02:40 星忍とスタ (64)
・[158] すごいですよね 2003.7.7(月)23:44 ゲンキ (40)
・[160] おお、4コマ漫画だ! 2003.7.10(木)07:31 じゅんぺい (252)
・[167] うへへ 2003.12.24(水)15:01 ゲンキ (79)
・[197] 漫画 じゅらまんが大王4 2005.3.30(水)22:59 ゲンキ (302)
・[199] 感想 2005.4.25(月)11:41 CDマンボ (199)
・[200] 感想どうもでーす 2005.4.30(土)09:33 ゲンキ (139)
・[165] 短編 じゅらい亭日記特走編2「聖夜 魔王の祝日」 2003.12.24(水)14:58 ゲンキ (18491)
・[166] あとがき 2003.12.24(水)15:00 ゲンキ (192)
・[171] うわー…(笑) 2003.12.24(水)19:36 じゅ (582)
・[172] お疲れ様でした〜☆ 2003.12.24(水)19:47 CDマンボ (258)
・[173] 何は無くとも 2003.12.24(水)20:18 藤原眠兎 (372)
・[176] 短編 じゅらい亭日記奔走編2【聖夜 ジングルオールザウェイVer.J】改 2003.12.26(金)01:27 ゲンキ (16950)
・[177] あとがき 2003.12.26(金)01:29 ゲンキ (242)
・[178] かんそうー 2003.12.26(金)02:06 藤原眠兎 (345)
・[188] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】 2004.12.22(水)05:36 ゲンキ (817)
・[189] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】 2004.12.24(金)00:55 ゲンキ (49950)
・[190] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】あとがき 2004.12.24(金)01:18 ゲンキ (585)
・[191] 感想 2004.12.24(金)23:35 CDマンボ (215)
・[192] 感想ありがとうございます 2004.12.24(金)23:43 ゲンキ (151)
・[201] 短編 じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ> 2005.7.23(土)14:50 ゲンキ (272)
・[202] じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ> 2005.7.23(土)14:54 ゲンキ (64063)
・[203] 感想〜☆ 2005.7.23(土)23:29 CDマンボ (315)
・[204] 感想 2005.7.24(日)00:46 眠兎 (178)
・[205] 久々じゃのう(笑 2005.7.25(月)04:38 幾弥 (422)
・[206] 感想ありがとうございます 2005.7.25(月)11:30 ゲンキ (1008)

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