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139 電波大系ジュラハザード最終話(後編)
2003.5.30(金)21:46 - ゲンキ - 6062 hit(s)

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最終話「未来電波(後編)」



 光が消えた時、そこにあったのは、ただの「無」だった。
 雪崩で運ばれてきた雪は施術の影響で一部がクレーターのようにぽっかりと消え、その
中心に立っていたリアルは、静かに、凍った湖面へと膝を落とす。
 恋人は蘇らなかった。出来うる限りのことをしたにも関わらず、彼女に生命を再生する
ことは叶わなかったのだ。
「……けふっ……っあ」
 呆然と、半分開いていた口から黒い血が吐き出される。喉の奥が熱くて、苦しい。けれ
ど彼女は別段驚きはしなかった。予想通りなのだから。

 錬金術の基本は等価交換。

 禁忌を犯して命を産み出そうとするのなら、命を失う覚悟を持たなければならない。前
回とて失敗したにも関わらず、彼女は数年分の「時」を失い、年齢が逆行した。今回はよ
り高度な錬成に挑んだのだ……この結果は当然である。
 どさり、と彼女は倒れた。

(……よ、かっ……た)

 あの冒険者達がここにいなくて、良かった。こうなると分かっていたから、だから遠ざ
けた。あの優しい思考の持ち主達ならば、絶対に彼女を助けようとしただろう。止めなく
とも、手助けを申し出てくれたかもしれない。

 自分達も、こんな代償を支払うかもしれないと、知っていながら──。

「……もう、いいよ……あなたたち……」
 残された力を振り絞って仰向けになり、上空で旋回を続けるホワイトワイバーン達に向
けて囁く。すると竜達はしばらく名残惜しそうに甲高く鳴いてから、世界中の空へと散り
散りに飛んでいった。
 彼等は元々この星の生物ではない。少し前までの彼女とカグヤ同様、星々の間で流浪を
続ける生命体だ。故郷の星にもいたし、流刑の旅の間にも、何度か見かけた。
『あり……がとう』
 最後は故郷の言葉でそう告げ──リアル・レコーダーは目を閉じた。




『君は、アルジャイルのようになれるよ』

 アルジャイル──自由と平和の象徴として愛されていた白い飛竜達に例え、彼は彼女に
そう言った。互いにもう純粋ではない、それでも、静かな優しい目を持つ青年だった。
「リアル、いつまでこんな仕事を続けるんだい?」
「さあ……きっと死ぬまでよ」
 まだ大人の姿だった彼女はそう答えたのを覚えている。
 本当に、あの頃はそう思っていたのだ。他者の能力や自然現象すら再現する力。そんな
ものを生まれ持っていたために、リアル・レコーダーは物心つく前から、国の研究機関で
働いていた。
 否、正確にはそれは実験動物のような扱いだったのかもしれない。
 研究施設の衛兵の一人だった、あの青年は嘆いていた。
「死ぬまでこんなつまらない仕事を? しかも君は利用されてるだけじゃないか」
「それでも……他に出来ることなんてないわ」
 たくさんのことをして、たくさんのことを知って、それでも彼女にはそうして他人の言
いなりになることしか思い浮かばなかった。自分の意思で何かをしたことなど、ただの一
度も無かったから。

 けれど、彼は言ったのだ。

「なんだって出来るさ、君はアルジャイルのようだから」
「アルジャイル……? どうして私が?」
「だってほら、彼等と同じように君は髪も肌も真っ白だ」
「……それだけなの?」
「いいや、まだあるぞ。僕はアルジャイルが大好きなんだ」
「それで?」
 聞き返すと、彼はしてやったりという表情で笑った。
「だからさ」




「……え?」
 リアルは目を覚ました。喉の奥の熱が消えている。氷の上で寝ていたせいで体が冷たく、
ギシギシと軋むが、不思議な力強さが腹部のあたりに感じられる。
 そして──すぐ側から、その声は聞こえてきた。
「あなたがしようとしたことは復活でも蘇生でもない。あなたの記憶にある彼を再現しよ
うとしただけのこと。電波の力によって、その情報から彼を物質化させようとしたものの、
ほんの僅かに必要な情報量を満たしていなかった」
 黒い影。逆行の中で立っているそれは、真っ黒な長髪を風になびかせ、黒いレンズの円
眼鏡の奥から、リアルを覗き込んでいた。
「いくら神を降ろしたところで、人を創り出すための材料が揃っていなければどうしよう
もない。故にあなたは二度失敗した。失敗であるがために死にはしませんでしたがね」
「あ、あなたは……さっき運ばれて行ったはず」
 起き上がり、自分のことを凝視しているリアル・レコーダーへ、その男──ゲンキはニ
ヤリと笑みを浮かべてみせた。
「あなたも使ってみせたでしょう。空間転移は僕等魔族の十八番ですとも」
「あ……」
 そうだ、たしかにリアルは彼の能力を再現して空間を跳び越えてみせた。
 それと同じことをして、彼は戻ってきたのだろう。
「でも、何故……」
「いやなに、こういうのは僕の得意分野ですからな」

 そう──彼が、言った瞬間だった。

「!?」
 驚愕するリアルの視線が見上げた先──上空に先程と同じ巨大な錬成陣が現われた。呪
文を一切唱えずに式を展開したというのか。
「あなたは……一体?」
 リアルはその男の思考を再現出来なかった。ゆえに尋ねる。
 男は背中を向けて歩き出しつつ、答える。
「冒険者です」
 掲げた右手には、見覚えのあるペンダントが握られていた。



 銀色の石をその中心に閉じ込めた水晶。
 船の中で、カグヤがそれをペンダントにして身に付けているのに気付き、リアルは檻の
中からイケニエとして自分に捧げられた少女へと、訊いた。
「それはなんなの?」
「わかりません。お父様が旅立つ直前、私に下さいました」
「その中心に閉じ込められているものは、メモリーチップのように見えるけれど」
「そうなのですか? さすがにリアル様は博識なのですね」
 この少女は、罪人となった自分にすら、丁寧な言葉遣いをする。あまつさえこちらは外
見的に同じ年頃にまで退行しているというのに。
「あなたは父親が憎くないの? 自分一人こんな酷い役目を押し付けられて」
 親、というものがリアルにはわからない。
 いなかったから実感できないのだ。
 だから、親に捨てられた娘の感情というものを知ってみたい。
 しかし質問に対して、目の前の少女の心境は動揺こそしているものの、怒りや憎しみに
燃えているようではなかった。思考を再現して感じ取る、不可解な感覚。
「お父様を憎むことはありません……リアル様が他の科学者達から受けていた仕打ちを知
らされた時、私達は後悔したのです。玉座に座り、ただ臣下達の顔を眺めているだけでは
分からないことがあったのだと……」
「……今更な話ね」
 よく分からない。よく分からないがこれ以上彼女の思考を再現してはいけない気がして、
リアルは話を打ち切った。檻の中で少女に背中を向け、じっと壁を見つめる。
 冷たい雫が、頬を伝った。背後でカグヤが何かを言う。
「お父様は言っていました……『いつかこの旅の終わる時が来たならば、もう誰も彼女を
縛り付けるもののない世界に辿り着いたならば、これを渡してやれ』……と」
 その手に握られているのは、ペンダント。
 何かを封じ込めた、水晶だった。



 飛び去ったホワイトワイバーン達が戻って来る。
 そうして再び作り出される生命の錬成陣。元からあった魔力の陣と重ね合わせた、その
中心に立ってゲンキは言った。
「ちょっと前に、カグヤさんの失われた記憶を取り戻すという仕事をしましてね」
「な……そんな、まさか」
 あの娘の記憶は完全に消去したはずだ。そんなことが、出来るはずはない。
 しかし、しかしこの男なら、もしかしたら──。
 ニヤリとそいつは笑って続けた。
「これはね……その時に見つけた、ある人の『遺伝情報』を記録したものなんですよ」
「っ!?」
 目を見開き、リアルの見つめるその先で、男はたった一つの呪文を唱えた。


『クゼラティオン・ダルカ・ダルク・インベトラ・クル・レセオ・エゥリムパルト!!』


 先程に倍する膨大な光が周囲を包み込んだ。その中でリアルはあることに気付き、絶叫
する。

「やめてっ!!」

 錬金術は等価交換。人体錬成の代償は術者の命。まして彼女のように神の補助を受けて
の施術ではない。いくら巨大な魔力を有していようと自殺行為である。
 しかし──


クゥオンッ!!!


 光が収束した。そこには相変わらず、右手を掲げて立っている男。握られたその手の中
から紅色の光が微かに漏れ出している。振り返り、平然とそいつは言った。
「いっぺん死ぬくらい、どうということもないんですよ。なんせ不死身なんで」
「不死……身?」
 なんて反則。なんて強引な理屈。しかし、それでも術は──
「結局……あなたも失敗したのね」
 光の消えた後には、何も無い。ホワイトワイバーン達は湖面へと舞い降り、こちらを見
守っているが、その中心にいる自分達のところには、他に誰もいない。結局どんな方法を
以ってしても、死者を蘇らせることなど不可能だったのだ。
 リアルはうなだれて、息を吐いた。運良く生き延びたようだが、これから自分はどうす
ればいいというのだろう。己の行った式より、よほど完璧な術を見せ付けられ、それでも
不可能だと知ってしまった。
 彼を生き返らせることは出来ない。はっきり理解して、それでも心のどこかで諦めきれ
ずにいる自分。もう行く当ても無い。するべきことも見えない。
「これ以上……何をすればいいの?」
 こんなことなら死にたかった。彼と同じ場所まで行きたかった。そう思っていると、不
意に視界に影が差す。
「まあ、そう言わずに育ててください」
「え?」
「なんだ気付いてないんですか……あなたの術は完全に失敗じゃなかったんですよ」
 と、そう言って彼はリアルの前にしゃがみ込むと、右手を差し出し、ずっと握っていた
手の平を開いて見せた。そこには薄紅色のかすかに輝く透明な石が乗っている。錬金術師
である彼女にすら何なのか分からないような代物だ。
「これは……?」
「奇跡の秘薬ですよ」
「秘薬……?」
 なんのことか分からなかった。しかし、そういえばたしかに先程冒険者達の思考を再現
した時に、そんな記憶が混じっていたような気がする。
 ゲンキはまた、ニヤリと笑った。
「ホワイトワイバーンの調査依頼を出したのはあなたでしょう?」
「え、ええ……そうですけれど」
「それを見て、ちょいと思いつきましてね。ちょっとした嘘をついたわけですよ」
「嘘……?」
 やはり、なんのことだかリアルには分からない。首を傾げる彼女にゲンキは笑いながら、
自分の手の中にあったその石を、少女の手に握らせた。
「錬金術師を名乗るのなら覚えておくことです。この世には『賢者の石』というものが存
在する。そしてそれは──」

 石はリアルの手の中で光に変わり、彼女の体へと吸い込まれた。
 その瞬間──下腹部で感じた、たしかな鼓動。

「あなたの術に足りなかったものを補い、新たな命を産み出す『奇跡の秘薬』となる」
「あ……あああ……ああ」
 自分の腹部に手を当てて、リアルは理解した。自分の術は完全に失敗していたわけでは
なかったのだ。考えていたのとは違う形で、彼女は「彼」をこの世界に呼び戻すことが出
来ていたのだ。
「僕は『賢者の石』に、あなたの恋人の遺伝情報を記憶させて、あなたの中にあった生命
の『素体』へと定着させた。産まれてくる子をどう育てるかは、あなた次第ですよ」
「う……うう……っ」
 説明したゲンキの目の前で、リアル・レコーダーの姿はどんどん大人の女性のものへと
戻って行く。これはまあ、過酷な出産に挑む彼女への、彼なりのサービスだ。
「最後に、かぐやさんからの伝言です」


『父王より託されたものを今こそお渡しします。
 あなたから幸せを奪ってしまったことを、ずっと我々は後悔していました。
 だから、今度こそあなたに、アルジャイルのような自由と幸福があることを祈ります』


「カグヤ……」
 完全にかつての姿を取り戻したリアルは、その場で泣き崩れた。ずっと心の奥にあった
星王を始めとする故郷の人々への憎しみも、幸せになれなかった悲しみも、もうない。
「ありがとう……ありがとう」
 今ここに、ようやく彼女は愛する者を取り戻せたのだから。
「……」
 魔王は、そっとその場を離れて行った。




「おっと、いかんいかん」
 はたと気付いてゲンキは足元の雪を掘り返した。
 すると、そこでこっそり隠れて様子を窺っていた妖精がびくりと肩を跳ね上げる。
「スターティさん、こんなところにいたんですね」
「あわわわわわわわわっ、そーなのデスよ、なんか出るタイミングを見逃しちゃったって
いうか、雪崩に飲み込まれて気絶してー、気付いたらなんかすごいことになってたってい
うかー、なのですですです」
「そうですかー、じゃあ一緒に帰りましょう」
 と、彼はいつも彼女が星忍の肩や頭でそうしているように、自分の頭の上にちょんと座
らせてあげた。と──

「あっ、あれっ!?」

 後ろを振り返り、スターティは驚いた声を上げる。ゲンキも同じように振り向くと、そ
こには真っ白い光の軌跡が一筋、空へと上っていくのが見て取れた。リアルが何処かへと
旅立った証だった。
「あの人、これからどうなるでしょー? 気になるー」
「どうなるでしょうねー。産まれてくる子と一緒に幸せに暮らすといいんですが」
「わからないです? ほんとに?」
「はっはっはっ、さーてどんなもんでしょうね」
 ゲンキが笑ってごまかすと、スターティは頬をぷぅっとふくらませ。
「ぷー、ゲンキサンは、ウソツキだからわかりませんせん」
「ああ、そうそう、そうでした」
 ようやく思い出したというように、ポンッ、と手を打つ大魔王。
「奇跡の秘薬うんぬんが僕の嘘だったって皆さんに言わないでくださいね。とてつもなく
ひどい目にあわされちゃいますから」
「それは報酬次第ですのー」
「ハリケーン・ダッツのアイスクリーム」
「ちょっと不足ー」
「じゃあそれにトラYAのヨーカンで」
「おけおけおっけ〜♪」
 と、そんな調子で帰って行く彼等の頭上で、星が一つ輝いた。



 窓を通して真昼の星を見上げ、かぐやはうつむき、瞼を閉じる。
 あの人は幸せになれただろうか。そう思って、静かにそうあることを祈った。
 と、その時──店の入り口に客が現われた。
「イラッシャイマセ」
 まだ慣れないこの星の言葉で、新たな客を出迎える。
 すると、そこにいたのは客ではなく、なんだか疲れた顔をしている店主と常連達だった。
「ドウシタンデスカ?」
「いやー、どうもこうも結局だめでさー」
「あれからまた戻ってみたけど、もうあの女の子も竜達もいなかったしねー」
「結局なんだったんだかなあ、今回のことは」
 口々にそんなことを言う彼等に何があったのか、詳しくは分からなくても、ある程度は
知っているため、かぐやは急いで人数分のお茶を用意した。
「大変デシタネ」
 彼等をだましたことは申し訳ないけれど、これで彼女が幸せになれたなら──今回ばか
りは許してもらおう。そんな風に心の中で考えた。




 宇宙船を「再現」し、再び星々の間へ飛び出したリアルはどこへ行こうかと考えた。
 もはや彼女は罪人ではなく、望まぬ鎖に縛り付けられることもない。産まれてくる子供
のことを考えると自由とは言えないかもしれないが、少なくとも今度の旅路は行き先を自
分で選択出来るのだ。

(どこへ……どこへ行こう)

 突然手に入れた白紙の切符。行き先を自分で選べる程度の自由。しかしその選択の幅が
広すぎて、彼女は決めかねていた。あてどなく宇宙を飛び続け、そしてやがて、まだ彼女
の中に残っていた「彼等」の能力が、それを受信する。

(あ……──)

 それは未来から送られてきた電波。何年後かの自分が現在の自分に向けて送ってきてく
れたもの。空間を越えて時を越えて、受信したその光景を見てリアルは行き先を決めた。

(あの、青い星へ)

 自分を受け入れてくれる、優しき姫と、奇妙な冒険者達のいる星へ。

(戻ろう──ナガセちゃん)

 まだ見ぬ我が子に囁きかけて、リアル・レコーダーはあの青い惑星を目指した。
 数年後の自分達親子の姿を、数秒前の自分に伝えるために──





                            電波大系ジュラハザード2
                        【TATEYAMAジャンクション】
                                     END


〔ツリー構成〕

[125] 電波の後継者達 2003.3.22(土)00:23 電波の後継者達 (1059)
・[127] 電波大系 ジュラハザード2(リレー小説) 2003.3.22(土)00:35 ゲンキ (8015)
・[130] 電波大系ジュラハザード第2話 2003.4.2(水)20:40 夕 (4610)
・[131] 電波大系ジュラハザード第3話 2003.4.10(木)03:45 星忍とスタ (2544)
・[133] 電波大系ジュラハザード第4話 2003.5.19(月)23:02 星忍とスタ (5164)
・[134] 電波大系ジュラハザード第5話 2003.5.20(火)18:29 ゲンキ (3908)
・[137] 電波大系ジュラハザード第6話 2003.5.28(水)18:53 夕 (9576)
・[138] 電波大系ジュラハザード最終話(前編) 2003.5.30(金)21:44 ゲンキ (20778)
・[139] 電波大系ジュラハザード最終話(後編) 2003.5.30(金)21:46 ゲンキ (13409)
・[140] さいしうわのあとがき 2003.5.30(金)21:56 ゲンキ (827)
・[155] 電波大系 ジュラハザード3(リレー小説) 2003.7.7(月)03:25 星忍とスタ (2953)
・[187] 電波大系ジュラハザード3 第二話「マホカンタ様がみてる」ver1.2 2004.1.26(月)03:40 じゅらい (2496)
・[207] 電波大系ジュラハザード episode1:RECKLESS WAVE 2005.10.27(木)20:03 じゅらい (364)

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