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138 電波大系ジュラハザード最終話(前編)
2003.5.30(金)21:44 - ゲンキ - 5906 hit(s)

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最終話「未来電波(前編)」



「説明しよう!!」

 対峙する少女とじゅらいの間に、ゲンキがフェードインしてきた。

「彼女の名前は『ルリ・ルーリルラリル』!! じゅらいさんの電波が生み出した妄想世
界のラヴリーシスター『12人の妹達』の1人であるっ!! 設定上はじゅらいさんの腹
違いの妹であり、ちょっと控え目、おまけにクール!! しかしイベント発生時にはいつ
もより大胆になる傾向があり、今日も今日とて家族旅行でスキーに来たのを機に、大好き
なお兄ちゃんにアタッ──ごへえっ!?」

 ホワイトワイバーンの一匹に尾で跳ね飛ばされて、電波男は吹っ飛んだ。

「違う……私はリアル・レコーダー……妹でも、ない」
 自分の額を抑え、くぐもった声で訂正する少女リアル・レコーダー。両目をつぶり二度
三度と軽く頭を振ってから、呟く。
「私の思考回路にまで影響を及ぼすなんて……これが『電波』の力」
 どうやらさっきの「お兄ちゃん」発言はじゅらいの電波を至近距離で浴びたために発せ
られたものだったようだ。
「えー、じゃあ君は拙者の妹ではないでござるか?」
 とても残念そうにじゅらい。彼の頭の中では実は少女が自分の生き別れの妹で、他にも
11人ほどまだ見ぬ妹達がいるんだけれど、その彼女達がこれから次々と自分の目の前に
現われて、しかもみんな彼のことが大好きで、一緒に暮らすようになったらドキドキ大ハ
プニングの連続。もうお兄ちゃんモテモテ。まいったなあ、ははははははっ──的な想像
が膨らんでいたのだ。
 しかし、リアルはそんな電波などまったく無視して話を進める。
「ようこそ、電波の後継者達。私はあなた達がやって来るのを待っていました」
「なんだって? 電波の後継者?」
 じゅらいは首をかしげる。その言葉はどこかで聞いたような気がした。それがいつどこ
でなのかを思い出そうとするのだが、少女の言葉はそのまま続く。
「まずはカグヤを眠りから呼び覚まし、私の封印も解いてくれたことを感謝させてもらい
ましょう……偶然とは言え、あなた方の活躍が無ければ私は永久にあの船の中で眠り続け
なければいけなかった」
 その言葉の意味は、じゅらいにとって半分も理解出来ないものだった。ただ一つ彼にも
何を指しているのか分かったことは──
「かぐや殿だって?」
 それは最近じゅらい亭の従業員に加わった女性の名だ。宇宙を漂流し続けた果てにこの
星へ墜落し、長い眠りの中で周囲の生物に自らの『マルター能力』を分け与えてしまって
いた異星からの来訪者。
 そのかぐやを、知っているということは──
「君は、もしかして、かぐや殿の知り合いなのかい?」
「そう、私は彼女をよく知っている」
 じゅらいの問いかけに、髪も、肌も、真っ白な少女は頷いて、微笑んだ。

「何故なら彼女は私を裁く者だった。
 私は彼女に裁かれていた。
 禁忌を犯した錬金術師は追放されるのが掟。
 私は、あの人を生き返らせようとしたの、ただそれだけ。
 それが罪。それが私とかぐやを縛り付けていた鎖。
 同胞は全て私を裏切り、私一人を封じるために、自らの娘をイケニエにした」

「イケニエ?」
 追いついて来たクレインが、突然の言葉について行けず、聞き返す。
 続いてルネアや幾弥、眠兎達もやって来た。
 これでこの場に必要な全ての人間が揃ったことを確かめ、リアルは改めて説明を始める。
「そう……あなた達の知るカグヤは、私のためのイケニエだったのです」



 それは、ここからずっと遠い星で起きた、はるか昔の出来事。
 リアル・レコーダーは真理を探求する科学者だった。
 持って生まれたその能力で、それまで神の奇跡とされていた数々の神秘を再現し、その
全てを解き明かし、人類の発展に貢献してきた。
 ところが、そんな彼女を人々は追放したのだ。彼女が唯一愛した恋人を喪った時、その
能力で再生させようとした、そのことを理由に。

「死者の蘇生は最大の禁忌。それは私も理解している。でも私は彼等に尽くした。誰より
星の繁栄に貢献した。生まれてからずっと人々の幸福のためと利用され続けていた。なの
に何故いけなかったの? 私が、私の、たった一つの幸せを取り戻すことが……」

 そしてリアルは禁忌を犯した罪人となり、宇宙への追放を余儀なくされた。しかし至高
の錬金術師である彼女の反撃を恐れた王は、彼女の力を封じるために哀れな娘を一人、彼
女と同じ船に搭乗させたのだ。

「それが、かぐや殿……?」
 じゅらいの言葉に、リアルは頷く。
「カグヤはかわいそうな子。この私を封じられる力を持っているというだけで、実の父親
に人身御供にされたの。あの子は純粋で、何も知らなかったから、素直にその役目を引き
受けた。あの船の中で、檻に入れられた私を、じっと見つめていた。
 あの子の成長していく姿を見ていて考えたの。いつかもし永遠に続くはずの流浪の旅に
終わりの来る時が来たら──カグヤには幸せになってもらいたい。だから私は──あの子
の記憶を消し去った」

 故郷の星の記憶、自分の名前、必要最低限の記憶だけを残して他は全て消した。かつて
の王族も人々ももはやいない故郷へ帰って行くのもいい。どこか別の星で生きていくので
もいい。ただカグヤには、なってほしくないのだ。

「あの子は、私のようになってはいけない……たった一つの幸せを追いかけるような人生
じゃなく、たくさんの幸せを掴んで欲しい」

 そう──こんな風に、なってはいけない。

 リアルはうつむき、誰にも聞こえない声で囁いた。
 カグヤに向けてか、目の前の冒険者達に向けてのものか、それともこれから「ここ」へ
辿り着く、過去の自分に向けたものか。
 噛み締めて、彼女は口を開く。
「……まだ、皆さんに集まってもらった理由を伝えてませんでしたね」
「あ、そういえば」
 ようやく復活してきたゲンキが、あることに気が付いてポンと手を打った。
「あのメールの差出人『RR』は──『Real・Recorder』の略だったのか」
「そう、あれは私が送ったものです」
 ゲンキの考えを肯定して、そしてその真意を語り始める。
「ここで、奇跡の秘薬は造られる……ただし、それはあなた方のためのものではない。私
が願いを叶えるために必要なもの。そしてそのために、あなた達にここへ集まってもらう
必要があったのです」

『え?』

 なんのことか分からずに、あるいは期待を裏切られて、彼らは心に「虚」という名前の
隙を生み出す。それを見逃さずにリアルは動いた──カグヤのマルター能力をすら上回る
究極の空想具現化能力『電波』を──

「私が、奪うために」



 突如としてリアルは走り出し、その標的をクレインに定めた。
「うわっ、ちょっとまった!?」
 じゅらい亭一のナンパ師クレインは無論女性に対して暴力など振るわない。しかも相手
は素手なのだ。少なくとも彼と、周囲にいた者達はそう思った。
 ところが──
『ゴルディノック・ハンマー』
 囁くような声と共に、リアルの手の中に巨大な黄金のハンマーが現われた。
「マ、マジでえっ!?」
 ようやく自分が窮地に陥っていると気が付いた時にはもう遅い。巨大な質量を持つそれ
がクレインの顔面へと──
「破ッ!!」
「っ!?」
 すかさず横合いから割り込んだルネアのキックが、ハンマーごとリアルの体を吹き飛ば
した。さすがに同性だけあってこちらは容赦が無い。
 しかし、吹き飛ばされながら今度はその姿を忽然と消し去る少女。その消え方に゛それ゛
が何なのか気が付いたのは、二人だけだった。
「魔王呪法ソルクラッシャー!!」
「みのりちゃん、危ないっ!!」
 みのりの背後に空間を越えて出現したハンマーを魔法で吹き飛ばすゲンキと、みのりの
手を引いてその場から助け出す眠兎。そしてまた、二人が同時に振り向いた方向に出現す
るリアル・レコーダー。ゲンキはフッと呼気を吐き出しながら、構える。
「空間転移ですか……僕の十八番なんですがねえ」
「どうやら私の『ポジビリティ奪取』と同じような能力ですね」
 同じくからくりに気づいた眠兎の言葉によって、他の常連達もそれを理解した。リアル
の能力は他人の特殊能力を奪い取り、自らが用いるというものなのだ。
「じゃあ、もしかしてさっきから拙者達が能力を使えないのは、そのせい?」
 じゅらいの問いかけに、眠兎は頷く。
「ええ、おそらくあの時から、我々は彼女の術中にはまっていた」
「その通りです、もう気付くとは……さすがですね」
 リアル自身も、それを認める。
「私は他人の力を奪い取って、自在に扱うことが出来る能力者。その対象は人だとは限ら
ない。例えば、こんなことも出来ます──」
 スッと彼女が手を上げた途端、それまで周囲を囲み、じっと静かに成り行きを見守って
いたホワイトワイバーン達が一斉に咆哮した。同時に地響きと猛烈な突風が起こり、白い
飛竜達は空へと舞い上がる。
「な、なんでござるかこれはっ!?」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーっ、ちょ、ちょっとあれっ!! あれっ!?」
 うろたえるじゅらいの肩を叩いて、山頂の方を指差すルネア。するとそちらから再び巨
大な雪の津波──雪崩が押し寄せてきているではないか。
「俺んとこに集まれーーーーーーっ!!」
 誰かが叫んだ。その声の元へと一斉に走り出す冒険者達。そして数秒の後、彼等を飲み
込んだ膨大な雪を、上空から見下ろしてリアルは呟いた。
「正確には私の能力は『再現』……他人の能力を再現し、自然現象を再現し、カグヤが私
を封じ続けていた能力を再現して、あなた方の力を封じ込める。見る・聞く・触る・感じ
取ることで理解し、写し取るのが私の力」
 そんな彼女の姿は、先程までのものとは違う、純白の羽の優雅な鳥のものになっていた。
幾弥の「あらゆる鳥に変化する能力」を再現したのである。
「けれど私は一度記憶した能力以外は使うことが出来ない……だから、あなた達がこれで
倒れることは有り得ない」
 人の姿に戻り、再び雪上に降り立った彼女の視線の先で、雪に埋もれた一角が魔法の光
で消し飛んだ。その下から現われたのは、光の盾に覆われた冒険者達と、倒れていたため
に逃げられず、彼等の背中で庇われた仲間達。
「サ……サンキュ、クレインさん」
「おっけーおっけー」
 雪崩から皆を守ったのはクレイン=スターシーカーだった。カグヤの能力を『再現』し
たことで多くの召喚神は封じられているはずだが、それでも使えるものがいくらか残って
いたらしい。そして雪を吹き飛ばしたのは──
「あ〜、びっくりした」
 気楽な調子で雪中から這い出してくる魔王ゲンキ。この存在はリアルを少なからず動揺
させた。カグヤの封印を持ってしても力を封じられず、ソルクラッシャーという魔法を二
度も見ているというのに、どうしても写し取れない。

(……理由が分からない、けれど必要ない)

「あなた一人で、あなた以外の全員に勝つことは、出来ないのだから」
 呟き、彼女は構わず右手を彼等に向かって突き出した。その手の平の前に炎の塊が突如
として出現する。それに気づいて雪の上に出たルネアがぎょっとした。
「今度は私の炎輝吼っ!!」
『その通りです』
 ズドンッ──という衝撃を撒き散らして、炎の塊は撃ち出された。ミサイルのような速
度で本来の術者であるルネア自身を襲う。だが無論、黙ってそれを喰らうような性格をし
ている彼女ではない。自分の手にも炎を生み出し、突き出した。
「なめない、でよねっ!!」
 炎と炎がぶつかり合い、炸裂する。弾け飛んだ火炎はルネアとリアルには焦げ跡一つ付
けぬまま、周囲の雪を蒸発させて大量の湯気を生み出した。
「どんなもんよっ!!」
『うあちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃーーーーーっ!?』
 後ろで鳥と魔王に引火しちゃってるのは、この際気にしてはいけない。
 得意気に胸を反らすルネア。その首筋へ──

トンッ

「あ……」
 白い蒸気に紛れ、瞬時に背後に回ったリアルの目にも止まらない手刀が、ルネアの意識
を刈り取った。その体を倒れる前に抱き止め、額に手を当てながら、異星の錬金術師は静
かに、確認を兼ねて、呟く。
「これで、一人」



「今の攻撃は、どっちかというと私の能力っぽいですね」
 ルネアの体をそっと雪の上に横たえさせたところで、横合いから声がかかった。
 優しげな風貌の青年。その顔に似つかわしくない、しかし何故かしっくりと彼の雰囲気
に馴染む自動小銃がその手に握られている。藤原眠兎だ。
「……」
 リアルは目の前に現われた彼と同時に、周囲にも警戒した。
 この場所に全員が固まっていたはずなのに、気付けば姿が見えるのは彼一人。さすがに
歴戦の冒険者達。こちらの脅威を認識して自ら行動を始めたようだ。完全に散開しては各
個撃破の的となる。おそらく先程のリアル同様、この蒸気の中に紛れて彼女の周囲を囲ん
でいるのだろう。
「私と同じ動きが出来る……それは言い換えれば、私なら止められるということです」
 リアルに対して、そして周囲で隙を窺っている仲間達に対しての眠兎の言葉。たしかに
その通りで、いかにリアルが眠兎の能力を再現し同等のスピードで動いたとしても、オリ
ジナルの動きを上回ることは出来ないのだ。
「私が隙を作ります……後は──」

 眠兎の姿が、消えた。

「──なんとかしてください」
 言葉は途切れることなく、リアルのいた場所の真後ろで発せられた。しかしその瞬間に
は彼女もまた眠兎の能力「光速機動」を再現して別の場所へ移動している。本来これだけ
の速度で動けば摩擦熱で肉体は消滅し、発生した衝撃波で周囲がズタズタに引き裂かれる
のだろうが、それがない。余計な弊害を招かず光速での移動を可能にする、まさに神域の
力だ。自在に操るには相当な訓練が必要だろう。
 しかし──眠兎は究極の速度でリアルを追いかけ回しながら、戦慄した。相手は完璧に
自分の「光速機動」を使いこなしている。いや、というよりはこれは──。

(私の「経験」までも再現しているのか!?)

 だとすると、まずい──彼は一旦停止して、それによって自分の姿を視認できるように
なったはずの仲間達へ向けて、警告を発した。
「皆さん、気をつけて!! 彼女は……」
「ぐあっ!?」
 遅かった。蒸気が風で流され、姿の現われたクレインが一撃で昏倒させられた。続いて
じゅらいへと攻撃を仕掛けるリアル。眠兎は全速力でそれを阻止しようとした。女性を攻
撃するのは躊躇われるが、今ばかりは仕方が無い。
「間に合えっ!!」
 まだ何が起きているのか分からず、立ち尽くしているじゅらい。それは時間にして一秒
の何万分の一にも満たない時間だったろう。時が止まったような世界の中をリアルと眠兎
の二人だけが普通の速さで動いている。このまま行けばギリギリで止められる──眠兎は
そう考えた。そしてその考えは──彼の思考を「再現」するリアルの頭にもあった。
 だから……彼女は、こうする。

「ッ!?」

 眠兎は、リアルに大して銃を突きつけようとしたその直前の姿勢で、動きを止めた。時
間は急速に動き出し、突然目の前に現われた二人を見てじゅらいは慌てて後ろに飛び退る。
「うををっ」
 身構える彼の前で、眠兎は硬直していた。今がチャンスだ。銃で脅かすにしろ、素手で
捕まえるにしろ、他者の能力を再現するというとてつもない脅威をなんとかするには、今
もっともその近くにいる彼が行動するしかない。
 けれど……動けない。
「ち、ちがう……そんなはずはない」
「何が違うの、眠兎君?」
 目の前で、みのりが首をかしげていた。さっきまでたしかにリアルがいた位置に、突如
として現われ、そして今、硬直している眠兎の手から取り上げたベレッタの銃口を、彼の
額に押し当てる。
「こんなものを私に向けるなんて……どうしたの?」
「う、ううう……ち、ちがうんだよ」
 おそらく、何かの方法でリアルが化けた偽者だとは思っても、確証が持てずに眠兎は反
撃出来なかった。すると目の前のみのりは優しく微笑み、引き金を引く。
「眠兎くんっ!?」
 一足遅く本物のみのりの声が周囲に響き渡り、眠兎は雪上に倒れた。その額に銃で撃た
れた形跡はない。そもそも彼は銃を奪われてなどいなかった。だというのに気絶した青年
を見下ろし、他の人間からはずっとその姿のままだったリアルが、呟く。
「三人目……」
「な……」
 あまりのことにじゅらいは呆然としてしまった。ルネア、クレインに続き、常連ズの中
でも戦うことにかけてはズバ抜けた腕利きである眠兎までもがやられてしまった。まだ確
認出来るだけでも彼とみのりが残っているが、果たしてあの三人を倒すような相手に勝機
があるというのだろうか?

(や……やばいよ拙者達。肝心のハンマーも使えないしさ)

 どうしたものかと考えて、とりあえずじゅらいは尋ねてみた。
「あ、あのさ……リアル殿……だっけ?」
「なにか……?」
「なにかって……いや、拙者達を倒して、君は何がしたいの?」
 そう、そもそもそれが謎だ。さっきの説明で彼女が何者であるかや、今はじゅらい亭で
皿洗いでもしているであろうかぐやとの関係は分かった。彼女が死んだ恋人を蘇らせよう
としていることも、そのために自分達が集められたという話も理解はしている。
 問題は、そこで何故戦いになるかなのだ。事情を聞けばこちらから進んで協力したくな
るようなことなのかもしれないではないか。

(まあ、そうじゃないからいきなり襲って来たんだろうけど……)

 内心じゅらいがそう呟くと、リアルは頭を振った。
「私の目的はあなた方を倒すことじゃない……あなた方の力を借りること」
「え、そなの? なんだだったらそう言ってよ、それならさー」
 事と次第によっては手伝うよ?
 彼はそう言おうとした。
 しかしその言葉を言い切る前に、瞬時に間合いを詰めたリアルの手の平が、額に触れる。
「けれど……あなた達が起きていると、都合が悪いんです」
「へぇはれ……?」
 グラリ、と頭の中が揺れた後、じゅらいは意識を失った。リアルの赤い瞳にほんの僅か
だが謝意のような感情が浮かぶ。
 その瞬間──
「マナナーン・マクリール!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「てやああああああああああああああああああっ!!」
 みのりの召喚した至高の魔術師マナナーンと、雪中に隠れて隙を窺っていた星忍兄妹が
同時にリアルへ攻撃を仕掛けた。
「汝、風の呪いと共に!!」
 マナナーン・マクリールの唱えた呪文は衝撃波となり、少女の額を割った。鮮血が噴き
出して雪を赤く染める。
「忍法・火柱!!」
「忍法・雷ゴロゴロッ!!」
 星忍兄妹のそれぞれの術が炸裂して、リアルを焼き尽くそうとする。
 が──

「あなた達では、止められない」

 額の傷は瞬く間に塞がり、一閃されたハンマーの輝きが炎も雷も無害な光へと変えてし
まった。ゲンキの再生能力と、じゅらいのゴルディノック・ハンマー。
「あわわわわわっ、やっぱ無理だったよ」
「ど、どどどどどうすんだおっ!?」
 慌てふためく星忍兄妹。その二人の首筋に、瞬時に移動して軽く手刀を打ち込むリアル。
マナナーン・マクリールにすら捉えられない眠兎の動き。そして魔術師に向けて放たれた
のは──
『召喚、リヴァイアサン』
「ぬああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
 少女の手の平から出現した巨大な海蛇は、己の周囲に渦巻く激流でマナナーンを飲み込
み、そのまま何処かへと連れ去って行った。
「クレインさんの……力」
「そう……もう、あなたの能力も再現できるわ」
 呆然としているみのりに、リアルは無造作に近づいて行った。その目には威圧感は無い
し殺気も感じられない。ただほんの少しの申し訳なさと、それでも決して揺るがぬ硬い決
意だけが見える。
「あなたは……」
 みのりは、たった一つだけ尋ねた。
「何を、手に入れたいの?」
 やろうと思えば皆を殺めることも出来たのに、そうとはしない異星の少女。
 その真意を尋ねる言葉に、彼女はただ一言答えた。
「愛する人を」
 かつて在った、唯一心を許せる存在。
 彼を蘇らせたい。リアルにとってはそれだけ叶えばいい。それが全てなのだ。
「……そう」
 みのりは目を閉じた。彼女にもその気持ちは理解出来たから。
 この少女の願いが叶うなら、力を貸そうと思った。
 みのりの思考を再現して、それを知ったリアルは、わずかに驚き……うつむく。
「……ありがとう」
 そっと額に手を伸ばし、彼女はみのりの意識を眠りへと誘った。触れるのは力を奪うた
めではない。すでに「見る」ことで再現可能な状態になった彼女にそれは必要無い。必要
なのは眠らせること。彼等にこれから起きることを知られぬこと。

ゴツ

 不意にリアルの足は何かにぶつかった。
「……」
 姿が見えないと思ったら、こんなところにいたらしい。先程の炎輝吼同士の衝突で延焼
したまま黒コゲになったゲンキと、何故かタンドリーチキンと化している幾弥がそこで気
絶(?)している。
 わざわざ探して眠らせる手間が省けた。なによりこのゲンキという男は再現不可能な能
力を有する奇妙な相手だ。起きていたら厄介なことになっていたかもしれない。
「ホワイトワイバーン達!!」
 上空を旋回し続けていた竜達に呼びかけると、数匹が地上へと降りてきた。その彼等の
背中に意識を失っている冒険者達を乗せ、リアルは命じる。
「彼等を遠い場所へ。しばらくは戻って来れない、どこか遠くの、安全な場所まで連れて
行ってあげて」
『ガフォッ』
 荒々しく息を吐き出すような返事をして、竜達は南の方角へ飛び去っていった。
「……さようなら」
 優しい人間達だった。
 思考を再現して、彼等がどんな人間かが分かったために、リアルは彼等を遠ざけなけれ
ばならなかった。
 これから、彼女がしようとすることを知ったなら──絶対に、止めようとするから。
「カグヤを……あなた達が連れ出してくれて、よかった」
 長い長い流浪の旅で、ずっと側にいた少女は、これでようやく幸せになれるだろう。
 あの冒険者達ならば、きっと、きっと……。
「私の結果が、どうであれ」



 歌うように、複雑な呪文がリアルの口から紡ぎ出される。
 それと同時にタテヤマ山脈の上に巨大な魔方陣が浮かび上がった。
 否、それは錬成陣と呼ばれる錬金術における秘法を文字と図によって力ある形に組み替
えた物。この錬成陣の効果によって彼女は己の持つ再現能力の規模を極限まで拡大させな
ければいけないのだ。

(けれど、これだけでは、足りない)

 かつて彼女は、ここまでと同じ方法で死んだ恋人の再生に失敗した。そして禁忌を犯し
た罪人として捕らえられ、宇宙へと追放されたのだ。

 人体錬成は神の御業。

 いくら特殊な能力を有していようと、人の力を用いて人を造りだすことは出来なかった。
人の肉体と魂とを再生し、定着させ、完全な人間としてこの世に復活させるためには人間
以上の力が必要になるのだ。
 だからリアルは彼等に目をつけた。神の器を持つ者。神を喚び出す力を持つ者。そして
無から有を生み出す──電波と呼ばれる特殊な才能を持つ者達を。

『クゼラティオン・ダルカ・ダルク・インベトラ・クル・レセオ・エゥリムパルト』
『アスタ・ハル・ティナレムセプトラ・アンダ・カルデ・ギノ・ラブス』
『チリ・レブレブ・アーカ・サイダラ・エノ・レセオ・インベトラ・ナダカジャハス』

 錬成陣によって拡大した能力で、神を降ろす器を、神を喚び出す声を、無から有を生み
出す力を同時に再現する。次第に彼女の目は空ろになっていき、反するように呪を唱える
声は加速していった。
 外見はトランス状態だが、意識ははっきりしている。そんな彼女の中では今、複数の力
がひしめき合っていた。黄金色に輝く体。その光に照らし出されても、深く深くどこまで
も深い闇色に染まっていく彼女の影。胸の前で両手の平を合わせると、剥き出しの腕にザ
ワザワと音を立てて白い羽が生え出す。

(ホワイトワイバーン達……お願い)

 呼びかけに応じて数千数万という数の白い飛竜達は規則正しい編隊飛行を始めた。純白
の翼の連なりが線を描き、線は円を描き、円の中に球が生まれ、やがて彼等はもう一つの
巨大な錬成陣と化した。生命によって形作られた特別な陣。

(命は、新たな命を生み出す……)

 本来ならば十月十日をかけて女が産み出し、十年以上をかけて育てる人の子を「生命の
錬成陣」によって造り出し、神の補助を得て完全な形に成し遂げる──それが長い流浪の
旅の最中でリアルが導き出した答え。この星で偶然目覚め、実現が可能となった彼女の最
後の賭けなのだ──。

『クゼラティオン・ダルカ・ダルク・インベトラ・クル・レセオ・エゥリムパルト』

 それは宣誓の呪文だ。
 神の所業を再現する。人の禁忌を再現する。
 その代償がいかに巨大であろうとも、自分はここに実行する。
 神が、彼女の中に降りて来た。
 人を構成するに必要なだけの「無」が集まり「有」へと変換されようとしている。
 力強く美しい数多の生命が、新たな命を産み出すために協力してくれている。
 これで──ようやく、彼と。


『キー・アルパス』


 最後の呪文が紡ぎ出された時、タテヤマ山脈の上空で光が炸裂し、そして吸い込まれる
ように一点へと収束した。



〔ツリー構成〕

[125] 電波の後継者達 2003.3.22(土)00:23 電波の後継者達 (1059)
・[127] 電波大系 ジュラハザード2(リレー小説) 2003.3.22(土)00:35 ゲンキ (8015)
・[130] 電波大系ジュラハザード第2話 2003.4.2(水)20:40 夕 (4610)
・[131] 電波大系ジュラハザード第3話 2003.4.10(木)03:45 星忍とスタ (2544)
・[133] 電波大系ジュラハザード第4話 2003.5.19(月)23:02 星忍とスタ (5164)
・[134] 電波大系ジュラハザード第5話 2003.5.20(火)18:29 ゲンキ (3908)
・[137] 電波大系ジュラハザード第6話 2003.5.28(水)18:53 夕 (9576)
・[138] 電波大系ジュラハザード最終話(前編) 2003.5.30(金)21:44 ゲンキ (20778)
・[139] 電波大系ジュラハザード最終話(後編) 2003.5.30(金)21:46 ゲンキ (13409)
・[140] さいしうわのあとがき 2003.5.30(金)21:56 ゲンキ (827)
・[155] 電波大系 ジュラハザード3(リレー小説) 2003.7.7(月)03:25 星忍とスタ (2953)
・[187] 電波大系ジュラハザード3 第二話「マホカンタ様がみてる」ver1.2 2004.1.26(月)03:40 じゅらい (2496)
・[207] 電波大系ジュラハザード episode1:RECKLESS WAVE 2005.10.27(木)20:03 じゅらい (364)

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