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120 連作「パール(ぴぃ)」―じゅ亭登場編―
2003.3.15(土)13:56 - ぴぃ - 2758 hit(s)

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いくつもの未来を変えていった。
彼を支配する女神の意にあわせ。
暴君となり、賢者となり、死人となり、魔性となり、鬼畜となり・・・・・・
そして彼はたどり着く。
ひとつの休憩所に・・・・・・


1.運命の女神
「まずい……非常にまずい……」
金色の九尾の狐が舌打ち交じりでつぶやく。
「お姉様?あら?」
その声に不信気に答える相対する銀の九尾の狐。
糸をつむぐ金の狐のつぶやきの意味を、銀の狐はその時
理解した。
2本の糸が風もないのに宙に舞う。
その瞬間、数百本の糸が糸車から外れ、消えた。
さらに黒い糸が一本、数秒漂って消え、新たに赤い糸が誕生した。
そしてもう一本の青い糸、それは糸車から外れ、ゆっくりと、ふわりと他の糸に絡みつく。
「不思議ですわ?まるで引かれるかのように・・・・・・」
絡みつく糸は漂う糸の左上にあった。青い糸は2匹の狐にとっては
大切な使い≠ナあった。
青い糸は糸を導く金の狐の手を離れ、そして別の糸に絡み合った。
糸は世界、糸車は時間、紡ぐ2匹の狐は運命の御使い。
「エミーナはどう思う?」
「彼がたどり着く先はここですか。かえってよいのではありませんか?」
運命の糸を惹きつける何かがそこにある。エミーナと呼ばれた銀色の狐は
その手で器用に糸車を回す。青い糸は他の糸にからまり、運命を織り成す
彩となる。その彩の一部として、彼は悪い色は与えていない。
「さあ、これで時空を旅しても元の場所に戻れましょう。誤差・・・・・・2時間というところかしら。」
同じ時空間にもどってきても100年や1000年単位で時差が生じるのだから、
極めて高い、時間精度といえるだろう。
「そうね、あとはこの極彩色の糸の群れがどのような色をだすか、だけ。」
「ルシーダ姉様?」
一人ごちるようにつぶやいた金の狐に銀の狐がからかうような視線を向ける。
「心配ですか?」
金の狐、ルシーダは眉間にしわを寄せたが、ふと思いとどまって表情を和らげる。
「今回は相手が悪すぎた。それにあの者は我らの代理人、それゆえ失うわけにはいかぬ、違うか?」
「はいはい、そういうことにしておきましょう。」
クスクス笑うエミーナにルシーダはムッとした表情を返したが、それだけだった。
「姉様、少し見守りましょう、彼らの影響が吉と出るか凶とでるかはいずれわかることですから。」
金の狐からの答えはない。
エミーナはじっと糸を見入る姉を微笑しながら見つめていた。


2.黒曜大帝
その世界の恐怖からの開放は目前だった。
圧政に苦しむ民衆の放棄は確実に実り、革命の嵐は首都を制圧した。
そして、民衆がその革命成功の喜びを分かち合うのを見届け、パールは一人、最後の敵
1000年以上を生きるという魔帝の城へもぐりこんだ。
そして彼女≠フ住む黒曜宮の宮殿はこの一人の剣士の力で崩壊の道を歩んでいた。
異空間に佇む巨城は下界と城を結ぶ8500段の階段に仕込まれた結界魔法によってつな
がっていたが、戦闘によって生じた破壊のせいで、空間に歪みが生じ、その影響で自
壊をはじめていた。
魔帝の目を楽しませていた、巨大な庭園もそれを支えた大地もいまや無の虚空に瓦礫と
化してその姿を消し、魔帝の城は徐々にその姿を消していく。
巨大な岩塊が降り注ぐ中で対峙する2人。
長時間の戦闘で乱れかかる息を特殊な呼吸法で無理やり整える。
その間も決して相手から目は離していない。
ルシーダの操る、運命の糸の流れに従い、あらかじめ予定された邂逅と死と離別、そして調和と破滅。
そして革命は成就し、剣士パールはその界における彼の役目を果たし、そしてこの界での使命
が最終段階にあることに気がついていた。
最後の使命、それはこの大魔導師を倒すことであった。
眼前に立ちふさがる強大な敵は、同時にその界で賢魔導師という最高位の称号をもつ者。
徐々に崩壊しつつある、パレスの石作りの床に彼女は直接立っていない。
不思議な光に包まれ、宙に浮いていた。
一撃で星を吹き飛ばし、時空をゆがませる、そんな禁呪すらもなんなく操るその魔導師
を普通の意味で殺すことなど、不可能に近い。
自分の部下を倒され、城が崩壊をはじめても、その魔導師は口元に微笑をとめて、その
吸い込まれそうな紫水晶色の瞳で彼を見つめる。漆黒の髪は時空結界の綻びで生じた巨
大な時空嵐にもそよともなびかず、その姿勢は泰然として対面のパールに対して戦う構
えも見せるでもない。
(さすがは1000年を生きる魔帝プロメテウス……
並みの存在感ではないな・・・・・・やはり、滅殺は無理か。)
この城にパールが現れてから数時間、城兵との激しい攻防にもかかわらず、意外にも無傷だった。
そして最深部奥の宮はこの異次元の中にあった。
この強大な力を誇る魔導師にパールは一応の切り札をもってはいた。
北流派剣術中、総本家たる藤流には特殊な奥義がある。特にこのような大魔導師との戦
闘にはかかせないものであるが、強大なエネルギーを制御できる者がおらず、この技を
伝え、使いこなす者は初代のみと言われた。
そして始祖の再来と言われた彼、パールはその力の唯一の後継者であり、その技のおか
げで魔女に対峙できる自信はあった。
「さて……」
女帝が静かに口を開いた。
稟とした美しい声。
「この城もそうかからずに崩壊しよう。見てのとおり、ここは異界、城と一緒に結界が
吹き飛べば汝の魂も終わる……」
パールは無言だった。
「が、このまま去れば、汝の使命は終えられ、我は邪悪な魔導師=A汝はそれを倒した
英雄として、現世に降りられよう。」
「そうもいくまい、せめて一矢報いんと、雇い主にもいい顔できん。」
彼女の微笑は、余裕の、というより、心底面白いおもちゃを見つけた少女のようなものに
変わった。
「よい、ならば一矢報いてみよ。片目の剣士よ。汝の雇い主に恨まれるのは避けたいと
ころであるが、汝が望むならば仕方なし。」
不意に、魔女の周囲に半透明な帯が出現した。
腕の一振りで約1000の言語を統率し、巨大魔法を瞬時になしえる、それがこの賢魔導師の力
だった。そのすでに人知を超えた圧倒的な力の発現に、パールは呼吸法のみをもって
恐怖心を克服していく。
半透明の帯は彼女の唱える術をエーテルをもって図式化し、彼女の周囲に積層型魔
法陣を形成していく。
対してパールはゆっくりと背に背負った、大刀を引き抜いた。
異界でも冬香≠フ冷気は有効であった。崩れ振り落ちる岩塊が瞬時に霜を降らせ、氷つ
く。地に突き刺した瞬間、各所でひび割れ、もろくなった石畳は頑丈な氷のアイスバ
ーンとなり、氷の床として、パールの足元を支えた。
冬香をゆっくりと引き抜き、左下段に構え、そして目を閉じる。
高まり行く巨大な気は彼のイメージに添い、時空の、続いて次元の扉を開き、その外
へと意識を伸ばす。
そしてそれは深淵部にして最下層、次元の卵生体たる点≠ノたどり着き、その力
を一気に吸い上げる。数々の時空と宇宙の卵を内封した、その膨大なエネルギーは彼の気を
弁として必要量のみ体と精神に流入する。
ガンっと叩きつけられるような衝撃に耐え、パールはそのエネルギーを己がイメージ
にあわせて変形させていく。
「卵生の次元から力を得るか、力の本流を支えるその精神力、見事・・・・・・。」
莫大な気の放出は毛ほども彼女には感じないのだろうか?
しかし、その本質に気がついた彼女の言葉には、賞賛の響きがある。
「そうでなくては・・・・・・時空間の旅などできようはずも・・・・・・ないからな・・・・・・」
無表情でつぶやくパールの手にした冬香が、元の青白い光から七色に変化する。
そしてその刀身からオーバーロードしてあふれ出たエネルギーは凍結した石畳の上で放射状に
広がり、竜のような鎌首をもたげはじめる。
「北流藤派秘奥義 彩明光龍陣、うけてみるがいい。」
パールが剣を振った。
猛烈な冷気の剣風を伴って、無数の光の龍が虚空を駆け抜ける。
それを見届け、プロメテウスは待機状態にあった魔法を順じ発動した。
積層魔法陣が次々と回転し、無明の気の塊がプロメテウスに襲い掛かる光龍を迎撃していく。
不意に周囲の空気が変わった。時空間のエネルギーで特殊化した冬香の冷気がその本質を、あり
うべからざる力に変化させる。
すなわち、パールに直接飛んでくる魔法がその冷気にふれるや、凍結するのである。
炎は炎のまま、風は風のまま、念は念のまま・・・・・・。
「おもしろい・・・・・・、ならばこれはどうかな?
この禁呪にて滅ぶなら、汝はそれまでの者、見事、しのいで見せよ!」
新たに沸きあがる半透明の帯がキューブの列の内側に新たな魔法陣を形成し始める。
積層魔法陣を彩る帯は2層になり、2層目の緑色の帯はその形態をキューブ状に変えた。
内側の一層目は赤く輝きながら、次第に高速回転をはじる。プロメテウスは両手で2種の印
を同時に切った。
Advanst Direct Spell Lording(高位高速呪文詠唱術式)を使用した魔法陣は、詠唱内容を
2進数に変換、大気中の魔力を成分変化させる高等方程式を即座に作り出し、さらにそれを
ルーン文字に置き換え、通常の数百倍の速度で魔法を完成させていく。
中空に一瞬で浮き上がる巨大なルーンの字列、そしてこれまでとはまったく異なる、質的に
変化したエネルギーの本流が女帝の周囲で膨れ上がるその気配を、パールは瞬時に察知し剣
を構えた。
(発動する前に!)
彼自身の体内に抱える膨大なエネルギーの暴発を支えつつ、パールが宙に舞った。
眼下に一瞬見えた底なしの虚空をおそれもせず、ただ一閃、プロメテウスめがけて、パールは
切りかかる。
周囲から襲い掛かる半ホーミング式の迎撃魔法は、やはり半ホーミング式に乱れ飛ぶ光の龍が迎撃
していく。迎撃できなかったものも、彼を守るように取り巻く、変質した冷気のバリアにさえぎ
られ、甲冑の表面を氷塊になって叩くだけであった。
そしてプリズムを纏い、さらに白く輝く冷気の剣が、迎撃魔法のキューブを突き抜け、まさに
プロメテウスの魔法陣に触れようとした瞬間・・・・・・
「Canand!!!」
プロメテウスは発動のワードを叫んだ。
ほぼ同時にパールは内より湧き上がるまったく異なる性質のエネルギーをいっきに開放した。
一瞬にして・・・世界は白い光に包まれた。
「一瞬私が速かったな、しかし見事・・・・・・また会うこともあろう・・・・・・それまで壮健でな。」
心底楽しそうな微笑を最後に、パールの視界は白い光の中でプロメテウスを見失い、そして
精神は闇に包まれた。
小さな異種結界は二つの膨大なエネルギーの猛威にふるえ、隣接する時空間を巻き込み
崩壊した・・・・・・。


3. Seventh Moon
7018年 8月15日AM5:30−−−−

夜が明け始めて間もないこの時間、夢の中で遊ぶ者たちが多いこの時間・・・・・・
猛烈な振動が大地を襲う。
「うぉうわぁぁぁぁ!」
夜通し書き物をしていたクレインはまさに夜明けの一番眠い時間に椅子でこっくり
こっくり船をこいでいたところでくらって、思わず椅子から転げ落ちた。
数分後・・・・・・揺れはなくなった。
「な、なんだ?地震・・・・・?」
いきなりな事態に動転して周りを見るが・・・・・・
「????????????????・・・・・・・え?」
まったく異常はなかった。
地震ならば当然物がおちたり、家屋倒壊はないにしてもなにかしらの事態は起こるはずである。
しかし、物ひとつおちていない。
「夢・・・?じゃないよな。」
コップの水だけがわずかに波打っていたが、これはむしろクレインが転げ落ちたときに椅子と
机が接触したせいであろう。
「わ〜〜地震〜地震〜〜地震です〜〜、ご主人さま〜早く逃げて〜ください〜〜」
のんびりとした悲鳴が聞こえヴィシュヌが枕を抱えてあたふたとクレインの部屋に
駆け込んでくる。
「・・・・・・ご主人さま〜そんなところで寝ていると〜風邪ひきますよ〜、でもそれより
急いで逃げないと〜。」
っとそこでクレインは我に返った。
「やっぱり地震だよな、夢じゃなかったんだ。でも、ここで地震なんてきいたことないぞ?」
SeventhMoonに地震なんてあるわけないのである。
だからこそ余計びっくりしたのであるが。
ヴィシュヌも部屋がいつも通りなのに気が付いて目をパチクリさせる。
廊下もさぞかしひどい惨状だろう、と思って振り返るが、やはりなんともない。」
窓の外を見ても、火災の様子もなければ家屋倒壊の様子もない。
しかし、自分以外にもほとんどすべての住人、この『冒険者の店 じゅらい亭』を含む
セブンスムーンすべての住人が感じたものであることは外のざわめきを見ればわかる。
「ヴィ〜、すまないが町中の様子を見てきてくれないか?」
「はいです〜」
シュン!っとパジャマ姿から普段着に入れ替わり、そのまま窓の外に踊りだす。
それを見届けてから、クレインは階下に降りていった。
やはり、というべきかじゅ亭在住の常連たちはそこに集まっていた。宿自体の被害は
皆無であることが、風舞の口からつげられる。
「いやーびっくりしたよ、寝入りばなにズドンってきたからそのまま天井まで吹っ飛んだ。」
頭のバッテン印のバンソウコウをさすりつつダヴォが言う。
「物が吹っ飛んでないのに人間だけはかなり痛い目みてますな。」
と店主じゅらい。
彼も椅子にすわって本を読んでいるうちに椅子から吹き飛ばされたらしい。
「ただいま〜」
宿の扉が開いてヴィシュヌが入ってくる。
「なんだったんでしょうね〜、町中も人は〜出ていますが〜、特に〜問題は〜ないみたいです〜。」
ガチャっと奥の扉が開き、眼鏡をかけた女性がでてくる。
「時魚さんだ。なにかわかった?」
「原因がわかりました。時空震です。」
「時空震……?」
「正確には時空地震、です。他時空でなにか大きな力が作用したのでしょう、その衝撃波です。」
時魚の説明によれば……
時空を伝わる波がなんらかの理由でその外に流出、空間そのものを歪ませる波となって押し寄せた、
ということらしい。
「推定震度はこの周辺でM9.8程度、中心部にいたっては計測不能です。
一個の世界が消滅してもおかしくないものですが、あとはただの衝撃波です。
ただし、時空の振動なので、物理的な破壊力はないと思われます。ただ……」
「普通は時空震を人間が感じることはできません。時空震は紙に描いた絵を波打た
せたようなものです。」
といって時魚は簡単な絵を手持ちの紙に描き、波打たせてみせる。
「なるほど。」
「人間が感じることができたとするならば、おそらく時空一個を崩壊させるほどの
巨大な魔法が使われたのが原因と思って間違いはありません。」
クレインは大体理解できてきた。
「つまりあの地震は精神がゆれを感じただけで、実際に物理的な揺れはなかった、っということか。」
「滅多にないことですし、特に問題はないと思いますが、調査はつづけますね。」
そういうと時魚は奥へ引っ込んでいった。
「さて、なんでもないなら寝直すとしようか。みんなおやすみ。」
じゅらいがそういい、自室に引き上げるにいたって、皆雪崩れ式に引き上げはじめる。
「そーいや、ゲンキさんは?」
ここにいないことに気がついて、クレインが聞く。
「ゲンキさんならまだ寝てると思いますよ。降りてくるとき、覗いてみたら床に寝てました。
起こそうとしたんですが、起きてくれないので、そのままにしてきました。」
「さすがはゲンキさん、剛毅だ……。」
とりあえず、クレインもこのままでは寝不足必死なので、自室で寝ることにした。
外のざわめきも段々おちついてきているようである。
さすがに仕事の疲れもあったクレインは、ベットに入るや否やそうそうに安らかな
寝息を立て始めたのであった。



4.白い夜明け
ゆっくりと陽が昇ろうとしている。
どこかの丘の上だった。風になびく草がサワサワと音をたてて揺れる。
その白い夜明けのまぶしさにパールは目を覚ました。
「気がつきました?」
朝日の逆光の中、一人の女性が立っている。
強大な衝撃が彼の頭を揺さぶったせいか、いまいちぼうっとしていた。
その状態は正面に立つ女性をさらに幽玄的なものに仕立て上げ、あたかも夢をみて
いるような気持ちにさせる。
「よく、がんばりましたね、取り逃がしましたが、これ以上は私達でも無理でしょう。
十分な結果です。」
「エ……ミーナ……か?すまん……まだ頭が揺れている……」
エミーナは肩をすくめる。
「無理もありませんわ、あの女帝がなんの気まぐれか、強力な防護魔法をあなたにかけ
たおかげで、傷ひとつありませんけど、光速の数千倍の速度で85952の時空間を突き抜けて
吹き飛んできたのですから。」
ほんと、なんで生きてるんでしょ?っと無責任な独り言が聞こえた気がしたが、多分そのとおり
だろう。
「あの世界は……どうなった?」
一瞬エミーナは躊躇したあと、端的に告げた。
「消滅しました。城の空間とあの世界がつながっていた結果、あなたの技と反発しあった
女帝の魔法があの世界を飲み込み、1千億の星が消滅し、ほぼ虚無の空間と成り果てたわ。」
「そうか……」
破壊規模の大きさに想像力がついてこない、ただ1点、ピンときたことをそのままエミーナにたずねる。
「その消滅も……お二人の予測のうちか?」
コクンとエミーナはうなずいた。
後味の悪さに沈黙するパールの肩にそっとエミーナの手が置かれる。
「ともかく、あなたの運命の糸はこの世界を寄り代とするように織っておきました。
この世界だけは時空間の時差がもっとも少ない値で帰ってこれます。
しばらくここにいて、養生するといいですわ。
あの時の衝撃波はここにまで届いているはずですが、あなたの出現と関連付けられる者は
そうはいないでしょう。」
あなたから話さないかぎりわね、と付け加える。
「ここは……なんというところなのだ?」
おりしも陽が下の町々を照らし、巨大な都市が眼下にその全容を見せ付けようとしていた。
「私たちは時空間に名前をつけたりはしません、キリがありませんからね。
でも、この町の名ならありますわ。数ある月の名をもつ都市のひとつ、Seventh Moonです。」
「セブンス・ムーン……。」
エミーナがかがみ込んで、パールの手に皮袋を握らせる。
「これは・・・?」
「当面の生活資金。それに市民であることの身分証明。住処は自分で見つけなさいな。」
「ああ、なんとかなるだろう。エミーナ……?」
ゆっくりと近づいてくるエミーナの唇が、軽くパールに合わさる。
不意に、体が軽くなった。頭痛と頭の揺れが消え、意識が唐突にはっきりしてきた。
「祝福、ですわ。さ、姉上に叱られるので私はもう行きます。
あとは自力で、なんとかなさい。」
微笑しつつ……、再びエミーナが逆光に溶け、そして消えた。
風だけが静かに吹き抜ける。
こうしてパールはここ、Seventh Moonにやってきたのだった。



5.エピローグ

「御免!」
クレインが遅い朝飯を食べていると、扉が開いた。
ちょっと変わった出で立ちの青年の入場につい、観察してしまう。
黒髪に碧眼、片目は眼帯に覆われていてわからない。
背は高くもなく低くもなく。腰には左に大小の刀、そして背には見事な意匠の大刀を佩いている。
温和そうな雰囲気の中に一瞬だけ見え隠れする鋭い視線は戦場にいたがゆえのものだろうか?
「ん?なにか用かい?」
一瞬きつい視線が向けられたような気がしたクレインはちょっと身構える。
が、男の表情はすぐに緩んだ。
「っとすまん、どうも片目に慣れていなくてな、目つきが悪くなってしまう。」
「あ、ああ、いいよ、いいよ♪ っと、俺はクレイン、ここを常宿にしている客さ、あんたは?」
「パールという。来たばかりで新居が見つかるまでの当面の宿をさがしているのだが、ここは大
丈夫だろうか?」
「多分大丈夫だと思うけどな、風舞さん、お客さんだよ〜♪」
奥からパタパタと出てきたメイド服の女性がにこやかに「いらっしゃいませ(^^)」
と告げ、パールはあっさりとここ、じゅらい亭に当面の居を構えることができた。
そして一週間がすぎた。
居心地は悪くない。
仕事も宿にもたらされる依頼を無難にこなすことで、生活に必要な分はまかなえている。
エミーナからの資金も余裕はあるし、その後二人の女神から依頼が入ってくる様子もない。

しばらくは……このままで……

久々の心の平安を十分満喫することに、全精神を傾けることにするのであった。
< 了 >


〔ツリー構成〕

[118] ぴぃ 2003.3.15(土)13:25 ぴぃ (177)
・[119] 連作「プロローグ 全ての冒険の始まり・・・・・・」 2003.3.15(土)13:35 ぴぃ (15388)
・[120] 連作「パール(ぴぃ)」―じゅ亭登場編― 2003.3.15(土)13:56 ぴぃ (16585)

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