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11 【Please give me your smile!】 -Phase seven-
2001.12.7(金)01:47 - 藤原眠兎 - 9841 hit(s)

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−Phase seven− 「…まいったなぁ………」

 しん、と静まり返っている第4図書館の中を眠兎は歩いていた。
 いつもとまるで変わらない調子で、のんびりと穏やかに。
 かつんかつん。
 辺りに響く自分の足音を楽しみながら、眠兎は歩く。
 今、一番会いたい人の元へと。
 やがて、本棚をいくつか数えた所にある読書用のスペースで眠兎は足を止めた。
 ぞくり。
 まるで寒気にも似た何かが眠兎の背筋を駆け上ってゆく。
 血のように赤い光に満たされた空間の中、みのりは確かにそこにいた。
 無言で、いつも以上に無表情で、みのりは眠兎の事を見ている。
 そして、その視線は凍えるように冷たかった。
「すみません、考え事をしてたら遅れてしまいまして…」
 眠兎はいつもの口調でちょっとすまなそうに言った。
 別にみのりは待たされて怒ったわけではない。
 それぐらいの事は眠兎にも容易に理解できていた。
 先程のぞくりとした感覚。
 冷たい何かの固まりを抱かされているような、そんな感覚。
 眠兎はそれがなんであるか、充分すぎるほどよく知っていた。
「今日は、いつもと違った事を話そうと思って来たんですよ」
 知っていながら、眠兎はいつものように穏やかな笑みを浮かべて言葉を続ける。
 それは、『殺意』だった。
 みのりは眠兎に対して、殺意を抱いているのだ。
「………」
 みのりは何も答えなかった。
 ただ、じっと眠兎の事を見ていた。
「そう、何て言えばいいのかな…」
 かつん。
 言いながら眠兎が最初の一歩を踏み出した。
「………」
 みのりは何も答えずに、ただ冷たい目で眠兎を見ていた。
 眠兎は、その冷たい視線を平然と受けながら先を続ける。
「そう、僕は四季さんにお願いしたい事があるんですよ」
 かつん。
 また一歩。
「………」
 みのりは何も答えない。
 ただ、じっと眠兎を見ているだけだ。
「僕は…」
 かつん。
 また一歩。
「あなたの…」
 かつん。
 また一歩。
 今、眠兎がいる位置が、いつもみのりと話す位置だった。
 ”呪い”に邪魔されぬ一番近い場所。
 目に見えない境界線。
「笑顔が、見たい」
 笑みすら浮かべて、眠兎ははっきりと告げる。
 そして。
 かつん。
 眠兎は一切躊躇せずにもう一歩を踏み出した。
「………っ!」
 みのりが息を呑んだ。
 眠兎の言葉に驚いたのか、それとも領域に進入した事への反応なのか。
 ゆらり、と白銀の騎士と黒鉄の騎士がみのりの傍らに現れた。
 かつん。
 気にせずに眠兎が更に一歩を踏み出す。
 途端に白銀の騎士と黒鉄の騎士が眠兎に襲い掛かった。
 がつっ。
 ごつっ。
「っと…」
 眠兎は騎士たちの攻撃をかわさずに受けた。
 ガードはしたが、ダメージがないはずはない。
 かつん。
 それでも眠兎は何事もなかったかのように歩く。
 どかっ、がつっ、ばきっ、べきっ。
 すさまじい勢いで、騎士たちが眠兎を殴打する。
 頭を、背中を、腕を、足を。
 かつん。
 それでも眠兎は止まらなかった。
 一歩づつ、ゆっくりと確実に近づいていく。
「…何か…言って下さいよ…」
 殴られながら、眠兎はかろうじて声を出した。
 つらかった。
 殴られるのは、もちろんつらい。
 当然のように眠兎には痛覚がある。
 ガードをしている腕や足だって悲鳴を上げている。
 だけど。
 それ以上にみのりが何も言わない事の方がつらかった。
 眠兎の足が止まる。
 とどめとばかりに騎士たちが攻撃を強めていく。
「…いつだって……僕と…あなたとの……会話は一方通行で……」
 それでも、眠兎は言葉を続けていた。
 ガツン。
 黒鉄の騎士がとどめとばかりに両手を組んで眠兎の頭に振り下ろした。
 がくり、と眠兎が膝をつく。
「………っ」
 みのりが息を呑んだ。
 ぴたり、と止めを刺そうとしていた白銀の騎士が動きを止める。
「それでも…楽しくて……うれしくて…」
 その事に気付いた様子もなく、眠兎は動かぬ足に力を込めてかろうじて立ち上った。
 みのりは動かないのか、あるいは動けないのか、ただ呆然とその様子を見ていた。
「でも…やっぱり…違うんだ。」
 はふ、と眠兎は軽くため息を吐くとにこりと笑顔を浮かべた。
 それは、一点の曇りもない、心からの笑顔。
 ずきり、とみのりの胸が痛んだ。
 どうして、この人は笑えるんだろう。
 どうして、この人は私に近づいてくるんだろう。
 痛いはずなのに。
 つらいはずなのに。
 痛みと共にみのりの心に疑問が浮かぶ。
「僕は、あなたともっと話したい。どんなつまらない事でもいいから、ちゃんと…話がしたい。」
 かすむ目をこすって、眠兎はみのりを見た。
 みのりは、どこか戸惑ったような、困ったような顔をしていた。
 あと、3歩くらい。
 それだけ歩けば彼女のすぐ側だ。
 眠兎は自分に言い聞かせて動かぬ足を無理矢理に動かした。
 かつん。
 足音が妙に響いた。
「………っ!」
 びくりとみのりの身体が震えた。
 瞬間、止まっていた騎士達が同時に眠兎に襲い掛かる。
 がつっ、べきっ。
「……ぼ…くは……」
 眠兎が何か言おうと、口を開いた。
 まっすぐに眠兎がみのりを見る。
 みのりは、どこかおびえたように眠兎を見ていた。
「………」
 情けないなぁ。
 どうしてもっと上手くやれないんだろう。
 トライアル&エラーなんて考えてたけど、次があるなんて保証はなかったんだなぁ。
 そんな事を妙にのんびりと考えている眠兎の膝から力が抜ける。
 あと、たったの二歩なのに。
 遠いなぁ。
 どん、と鈍い音がして眠兎の膝が床を叩いた。
 大体、僕は彼女に近付いてどうするつもりだったんだろう?
 正面から近付けば彼女が話してくれる、とでも思ったのかな?
 まったく、論理的じゃないなぁ。
 …まるで、本物の人間みたいだ。
 それに。
「…まいったなぁ………」
 文字どおり前のめりに倒れながら、眠兎はポツリと呟く。
 どさり。
 みのりの足元に眠兎は倒れ伏した。
 身体の痛みよりも、拒絶された事の方こんなに堪えるなんて思わなかったなぁ。
 心の中でそう呟きながら。
 そしてその様子をただ、みのりは青ざめた顔で見つめ続けていた。


〔ツリー構成〕

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・[5] 【Please give me your smile!】 -Phase one- 2001.12.7(金)01:35 藤原眠兎 (5866)
・[6] 【Please give me your smile!】 -Phase two- 2001.12.7(金)01:36 藤原眠兎 (9702)
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・[13] 【Please give me your smile!】 -あとがき- 2001.12.7(金)01:50 藤原眠兎 (392)
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・[21] ご感想ありがたく 2001.12.18(火)02:56 藤原眠兎 (356)
・[14] 短編【たとえばこんなドタバタした日】 2001.12.7(金)01:54 藤原眠兎 (13898)
・[15] 作者の戯言のような後書きのような愚痴。 2001.12.7(金)01:57 藤原眠兎 (492)
・[16] 短編【ラストワン・スタンディング】 2001.12.7(金)02:33 藤原眠兎 (10417)
・[17] 作者の比較的というよりむしろダメなコメント 2001.12.7(金)22:00 藤原眠兎 (282)
・[18] 感想:短編【ラストワン・スタンディング】 2001.12.9(日)16:46 CDマンボ (259)
・[19] 初めに立ちし者 2001.12.9(日)22:38 藤原眠兎 (296)
・[29] 近いうちに 2002.3.24(日)19:59 藤原眠兎 (129)
・[30] 期待しています。 2002.3.30(土)13:47 じゅ (311)
・[42] ごめん、もうまるで駄目。 2002.6.17(月)23:34 藤原眠兎 (218)
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