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10 【Please give me your smile!】 -Phase six-
2001.12.7(金)01:44 - 藤原眠兎 - 9744 hit(s)

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−Phase six− 「ああ、そっか…これがきっと…」

 きーんこーんかーんこーん
 どこか投げやりな終業を告げるチャイムが鳴り響く。
 授業が終わればあとは自由な時間だ。
 部活へ向かう生徒、委員会に行く生徒、帰りの寄り道の相談をする生徒に、まだ勉強を続け
ている生徒。
「へふー」
 様々な生徒達がいる中で眠兎は陰鬱なため息をついていた。
 結局、リリアナの問いの答えはまだ見つかっていない。
 かれこれ丸一日近く、その事について考え続けているが未だに答えは出ない。
「呪いの意味かぁ…」
 意味なんか、あるんだろうか?
 あの呪いは、彼女に接近する者を極めて物理的に叩きのめす。
 ただ、それだけだ。
「わかんないなぁ…」
 そう呟きながら、眠兎は腕を前に投げ出して机に突っ伏した。
 眠っていないボケた頭には、窓越しの五月晴れの太陽がとても心地よかった。
 自然とまぶたが落ちてくる。
 図書館に、行かなきゃな…。
 ふと思い立って、眠兎は重いまぶたを無理やり開けた。
 別に約束をしているわけでもない。
 行かなくたって、別に問題は無いはずなのに。
 行かなきゃな、と思う。
「はふ…あーあ…はぁ…」
 眠兎は器用な事に、あくびとため息を同時に吐き出した。
 だけど。
 足踏みはあんまり好きじゃない。
 一歩でも前に進みたいから、呪いの解除法を考えてから会いに行きたい。
 解除法、か。
 眠兎は口に出さずに心の中で呟いた。
 ゆっくりと瞼を閉じて、机に突っ伏した。
 眠るためではなく考えるために。
『あの娘がお前に呪いの解除を頼んだか?だが、そんな事はありえん。だとしたらそれはお前
の余計なお世話だな?』
 昨日のリリアナの言葉を眠兎は一言一句漏らさずに思い出した。
 彼女は僕に呪いの解除なんて頼んでいない。
 それは動かしようもない事実だ。
 では何故”そんな事はありえん”のだろうか?
 ここまではっきりといえる理由は?
 彼女は…呪いを望んでいるのだろうか?
 だとしたら何故?
 ぐるぐると疑問が頭を駆け巡る。
 眠気も手伝って、何がなんだか解らなくなってきた。
「所詮、考えても解らないものは解りません、か。」
 どんなに考えてみたって、答えは彼女の心の中にあるのだ。
 答えなんか出るはず、ない。
 丸一日かけてだした答えがこれではお粗末なものだが、不思議と何かを悟ったようで気分だ
けは良かった。
 じゃあ、自分はどうだろう?
 何故僕は彼女を笑わせたいのかな?
 眠兎は自分に質問してみた。
 最初は好奇心。
 次は意地。
 じゃあ今は?
 彼女と一緒に笑いたい。
 それだけじゃない。
 彼女の事をもっと知りたい。
 ただ話をするだけじゃなくて、もっと色々な事を一緒にしてみたい。
 スポーツでも勉強でも、遊びでもなんでもいいから。
「ああ、そっか…これがきっと…」
 自分の疑問に対して出した回答に、眠兎は満足気に呟いた。
 だるい身体に力をこめて眠兎は身体を起こした。
 ふと気がつけば既に日が傾き始めて、教室はあたたかなオレンジ色に染まっている。
 教室に残っているのは既に自分だけだった。
 思っていたよりも時間を使っていた事に、少しだけ眠兎は驚いた。
「あらら…もう、帰っちゃいましたかね…?」
 そういいながら、眠兎は窓から第4図書館の方を見る。
 今の自分と同じ様に夕焼け色に染まっている第4図書館が、ただ、そこにはあった。
「いや…まだ、います、ね」
 別に根拠なんて無い。
 約束だって、無い。
 行ってみればいないかもしれない。
 だけど。
 眠兎は妙な確信を感じていた。


 かちこちかちこちかちこちかちこち。
 静かになった空間にやたらと時計の音が響く。
 ひどく時間が過ぎるのが長く感じていた。
 みのりはそう感じる自分が嫌で、まるで何かを振り払う様に一心不乱に本を読もうとした。
 だが。
『あはは…聞いてくださいよ、今日、こんな事があったんですよ…』
 話しながら嬉しそうに笑う、彼。
『全くけしからんことだと思いませんか?ちくわパンが2ファンタもするなんて!』
 熱弁を振るいながら怒る、彼。
『ああ…今日の小噺もダメでしたか…』
 何故だか、がっかりした様子で呟く、彼。
『あはっ、ははははっ…そこまで碁に夢中にならくてもっ…あは、はははわぁっ!?』
 自分の落語を聞いて大笑いして連れて行かれる、彼。
 ここで本を読んでいても、思い浮かぶのは『彼』の事ばかりだった。
「…どうして……っ」
 みのりは八つ当たりするように、いらだたしげに”呪い百選”を閉じた。
 かちこちかちこちかちこちかちこち。
 静かになった空間にやたらと時計の音が響く。
 みのりは軽くため息をつくと、ゆっくりと目を閉じた。
 あたしは、傷つきたくない。
 お父さんを無くした時のような痛みは、もう、感じたくない。
 そのためにどうすればいいのか、なんて、わかりきっている。
 いまさら、独りが嫌なはずなんて、無いのに。
 このままじゃ気付かされてしまう。
 その前に。
 そのまえに。
「………」
 みのりはゆっくりと目を開けた。
 夕日で赤く満たされた図書館の空間がみのりの目に映る。
 だが、みのりの黒い瞳はその中にあっても、まるで暗闇を切り取ってきたかのような、深く
暗い色をたたえていた。


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